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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
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08-旧知

 その場にいた全員の視線が、窓ガラスの向こうの格納庫に安置された『騎士(ナイト)』へと向けられた。


「毅士殿やミツキ殿たちの言う通り、私は自我に目覚めました」


 両眼に該当する外部センサーを明滅させながら、『騎士』の声が響く。


「ふむ……どうやら明人殿という特定の人物の魔力を間近で受け続け、生まれながらにして契約者を得ている情況というわけか。我ら幻獣からしてみれば、規格外に羨ましい情況よな」

「私もミツキ殿に同意だ」


 ミツキの言葉にベリルもまた頷いた。


「ねえ、どういう事か説明してもらえるかしら?」


 シルヴィアのこの要請は、この場にいる者全員の疑問だった。


「我ら幻獣が契約者を求めるのはもう知っておるな? この契約者とは、いわば魔力の波長が合う人間の事だ。我と主である和人様、そしてベリルとそこの小娘……我らの主従の魔力の波長は極めて似通っており、全ての幻獣はこの波長を元にして自らの契約者を探し求める。もっとも、波長が似ていれば契約者になれる、というわけでもないのだかな」

「だが、明人殿と『騎士』は違う。明人殿という特定の魔力と同調した結果、核たる魔石の魔力波長が明人殿の波長と徐々に同一化していったのだ。このため、『騎士』は幻獣として覚醒した瞬間に契約者を得たというわけだな」


 ミツキとベリルの解説を、納得した顔で頷いているのはシルヴィアとその弟子のブラウン姉妹、そして権藤と毅士。

 明人と和人の白峰兄弟と茉莉、緑川は不思議そうな顔で首を傾げている。


「なあ、兄ちゃん。俺、今のミツキたちの説明よく判かんなかったんだけど?」

「安心しろ、和人。兄ちゃんにもよく判らん」

「うんうん、ボクもー」

「自分も白峰隊長と同じであります!」


 察しの悪い四名に軽い頭痛を覚えながら、シルヴィアは更に詳しい説明をする。その結果四名とも何とか理解したようだったが、今度はシルヴィアの方が一つの疑問にぶち当たった。


「もしかして、今後魔像機(ゴーレム)を量産していった場合、その全てが幻獣として覚醒するのかしら?」


 現在進められている魔像機の量産計画。量産された魔像機全てが幻獣として覚醒するのなら、量産計画事態を見直さねばならなくなる。魔石や幻獣に関する事は、今でもここにいる者たちだけの秘密なのだから。

 だが、この心配は杞憂に終わりそうだった。


「その心配には及ぶまい。元々、『騎士』に使用された魔石と明人殿の魔力の波長がある程度似通っていたのだろう。また、明人殿自身が秘めていた魔力が大きかったという問題もある。魔力のある人間が魔石を所持したとて、その全てが幻獣として覚醒する可能性は極めて低いだろうな」

「これまで何らかの理由で魔石を所持した人間がいないという事はあるまい。例えば、シルヴィア殿のような魔術師からすれば、魔石は様々な利用価値がある。だが、今回のようなケースで覚醒した幻獣の話は聞いたことがない」


 ミツキの解説の後を受け、ベリルは明人殿と『騎士』は例外的な組み合わせだろう、と締めくくった。それを聞いてシルヴィアもほっと安堵の溜め息を吐いた。


「となると、『騎士』の方は問題ないと判断していいのかね?」

「Yes Sir. 私は主である明人様の不利益になるような事は致しません。今後も明人様の指示に従う所存です」


 権藤のその問いには、『騎士』自身が返答した。

 こうなると、和人たちに残された問題は一つ。その問題を改めて毅士が提示する。


「後は、茉莉くんたちが見たという上空にいた西洋人の男だな」

「そいつが一号怪獣を操っていたって話だけど……間違いないの、シルヴィアさん?」

「ええ。それは間違いないと思うわ。その人物……人間かどうかは判断できないけど、そこから一号怪獣に向けて魔力が流れていたのは確かよ」

「じゃあ、獣王を操っていたのもそいつなのか?」

「そこまでは断定できないけど……情況からすれば、それで間違いないと思うわ」


 茉莉から聞いたその西洋人の外見。

 プラチナ・ブロンドの髪にアイス・ブルーの瞳。そして驚くような美貌の西洋人の青年。

 そしてベリルが言うには、その青年はおそらく幻獣との事。

 その幻獣の青年が、何の目的で一号怪獣や獣王を操っているのか。

 それが和人たちの眼前に提示された最大の問題であった。




 翌朝。和人と茉莉、そしてミツキは登校の途中であった。


「結局、茉莉たちが見たという西洋人の男が何者なのかは判らない……か」


 空を見上げるように呟く和人。その左右に茉莉とミツキが並び、心配そうに彼の様子を窺う。


「確か、ベリルの話では、その男の力は決して強くないって事だったよな?」

「うん。牽制のために放った小さな雷弾を障壁で弾いた後、そのまま逃げちゃったからね。ベリルが言うには、あれは幻獣と言ってもベリルやミツキほど高位の存在じゃないのではないかって」

「だが、中位以下の幻獣が一号怪獣や、曲がりなりにも幻獣王たる獣王を操れるものか? 我には納得いかぬものがあるがの」


 口をへの字に曲げながら、不満そうに言うミツキ。

 そんなミツキを横目で見ながら、和人は苦笑を浮かべつつも考える。

 今、自分たちに不足しているのは相手の情報。しかも、その情報を得る術さえ殆どない。

 現在、動かなくなった一号怪獣の身体は怪獣自衛隊が回収して解析中であり、そこから何らかの情報が得られる可能性はある。

 残る可能性としては獣王が何か知っているかもしれないが、こちらもミツキによると、死んではいないだろうが著しく力を弱めており、シルヴィアの魔術やミツキたちの感覚にも全く引っかからないらしい。

 幻獣がここまで力を弱めると、回復するのに百年単位の時間が必要との事なので、獣王から情報を引き出すのは諦めた方が良さそうだと和人は考えていた。

 そもそも、操られていた──現在でもその支配が及んでいるのかは謎──獣王から何が得られるのかも判らない。

 判らないことばかりで頭を悩ませる和人。

 それでも足だけは絶え間なく動き続け、彼らはいつの間にか学校に到着していた。




 三人が教室へ入ると、そこかしこで昨日出現した怪獣の話題で盛り上がっていた。

 さすがに二体も同時に出現した怪獣の方法を隠蔽する事は不可能で、怪自はその情報を公開している。ただし、現れたのが以前に倒された一号怪獣である事は、無用の混乱を防ぐために明かされてはいないが。

 ただでさえ、最近は頻発する怪獣出現。しかも過去に二ケ所に同時に出現した例は殆どなく、昨夜からテレビなどで盛んに取り上げられており、それが一夜明けてもまだ続いているようだった。


「おはよ、白峰。おまえも聞いたか?」

「昨日出た怪獣の話か?」

「そうそう。大型が二ケ所同時に出るなんて初めてじゃね?」

「らしいな。過去に小型がちょっとの時差を置いて二ケ所に出たことはあるけど、大型がほぼ同時に二ケ所ってのは初めてらしいぞ」

「お、さすがは将来の怪自のエース。怪獣の事には詳しいねえ」

「あははは。毅士の受け売りさ」


 近くの席のクラスメイトと挨拶を交わし、適当に話を合わせる。

 茉莉とミツキの二人もクラスメイトたちから声をかけられ、それぞれ挨拶をしながら自分の席へと向かう。

 そして、席につくなり今日もまた人だかりを形成する二人。

 昨日の今日ではまだまだ転校生は珍しいらしく、二人に様々な質問を投げかけているようだった。

 そんな光景を横目に見つつ、和人は一限目の授業の準備に入る。

 その時だった。ミツキのあっという小さな声が聞こえて来たのは。

 その声に反応し、慌ててミツキに駆け寄る和人と茉莉。

 もしや何か致命的な失敗でもしでかしたのかと心配になった和人は、移動しながら視線を巡らして毅士の姿を探す。だが、まだ彼は登校していないようで、教室の中に彼の姿はない。

 こうなれば少々心もとないが、自分たちだけで対処しようと決心してミツキの元へ駆け寄る。


「どうした、ミツキ? 何かあったのか?」

「あ、い、いや、何でもないぞ、ある──和人殿」


 思わず『主』と呼びそうになったのを、何とか『和人』と言い直すミツキ。

 そのミツキの机の上には、取り巻いた誰かが持参したと覚しき一冊の雑誌が乗せられていた。


「どうしたんだ、その雑誌?」


 和人と茉莉が覗き込めば、その雑誌はよくある芸能雑誌で、表紙には今をときめく若手の男性芸能人が輝くような笑顔を振りまいている。


「あ、あのね? ミツキさんは日本の男の子はどんな感じの子がタイプか聞こうと思って、サンプルとして芸能人の写真がたくさん載っているこの雑誌を見せたんだけど、そしたら急に驚いたような声を出して……」


 どうやらその雑誌の所有者らしいクラスメイトの女子が、情況の説明をしてくれる。

 だが、あのミツキが芸能人の写真を見ただけで何を驚くというのだろうか。不審気な目を当のミツキに向ければ、彼女は真剣な表情でこくりと頷く。


「何でもないのだ。ただ、ここに昔の知人が載っていたので少し驚いただけだ」


 そう言って彼女が指さしたのは、表紙を飾る男性芸能人。


「え? ミツキさんってサワショウの知り合いなのっ!?」


 ざわりと教室の空気が沸き立つ。

 サワショウこと沢村さわむら正護しょうご。最近、脚光を浴びている若手の男性俳優で、その爽やかな外見と軽やかなトークで映画やバラエティでよく見かける人気芸能人。

 和人は乏しい芸能知識の中から、何とかそれだけの情報をサルベージする。

 そうやって和人がサワショウの事を考えている間に、ミツキの周りには先程の倍以上の人垣ができていた。


「ね、ねねねね、本当にサワショウと知り合いなの?」

「うむ。とはいえ、先程も言ったように昔の知人だ。ここしばらくは会ってもおらん」

「あ、そうか。ミツキさんはちょっと前までイギリスにいたんだもんね」

「って、事は何? サワショウとミツキさんは幼馴染って奴?」

「うわー! いいなー! サワショウの幼少期! 私も見てみたーい! ねえ、写真とかないの? 昔の写真!」


 口々に騒ぐクラスメイトたちから離れ、和人と茉莉はこそこそと相談する。


「ねえ……ミツキの昔の知り合いって事は……」

「ああ。あのサワショウとかいう芸能人……おそらく幻獣だろう」

「幻獣って芸能人とかになれるの? 戸籍とかは?」

「さあなあ? そんな事まで判るわけないだろ?」


 結局、その騒ぎは休み時間毎に起こり、一日中ミツキはクラスメイトの女子たちに囲まれ続けた。

 そして放課後になり、ようやく解放され、和人たち三人は疲れ果てたような顔で帰路につく。


「疲れた……直接関係ないのに、なぜか俺まで疲れた……」

「本当……ボクも気疲れしたよ。もしもミツキが余計な事を口走ったらと思うと……」

「たわけ。この我がそんな些細なミスを犯すものか。魔術師の女ではあるまいし……とはいえ、確かに我も疲れたのぅ……日本の若い女子おなごたちは疲れを知らんのか?」


 力なく肩を落とし、とぼとぼと歩く三人。

 それでも何とか気力を振り絞り、和人はミツキに問いかける。


「なあ、ミツキ。あの芸能人は……」

「うむ。あ奴は間違いなく幻獣……それも我と同じ幻獣王の一体よ」

「えっ!?」


 幻獣王の一体。その言葉に和人と茉莉は思わず足を止めて立ち尽くす。


「あ奴の正体は鳳王ほうおう……もしかしてあ奴なら何か知っているやも知れぬな」

「知っているって……まさか……?」

「うむ。あ奴も我や獣王と同じ幻獣王。ならば、獣王がどうしてあのようになったのか何か知っている可能性はある。もちろん、逆に何も知らぬ可能性もあるが……」


 ミツキはその朱金の瞳を真っ直ぐに和人に向ける。


「それでも行ってみるか? あ奴……鳳王に会いに」



 『怪獣咆哮』更新しました。


 最近はすっかり二週間に一回の更新のこの『怪獣咆哮』。もう少しペースを上げたいところですが、今はこれが精一杯。なにとぞ気長にお待ちください。

 そして物語では最後の幻獣王が登場しました。とはいえ、正確には写真が出ただけですが。


 おかげさまを持ちまして、『怪獣咆哮』のお気に入り登録が100を突破しました。

 第一部が終了した時点では、20もなかったのに。思えば随分と遠くに来たもんだ(笑)。


 そして、最近自分の作品ごとに設けている当面の目標ですが、『怪獣咆哮』はお気に入り登録150、文章評価とストーリー評価がそれぞれ100突破を当面の目標に掲げたいと思います。


 そういえば、昨日(4/23)の午後から、当『怪獣咆哮』のアクセスが異様に伸びております。更新日でもないのに更新日かそれ以上のアクセスがありちょっとびっくり。

 どこかで紹介でもされたのだろうか? 何かご存じの方がおられれば、是非お知らせください(笑)。何かすっごく気になるーっ!!


 では、次回もよろしくお願いします。

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