表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第1部
22/74

21-反撃


 アルナギンゴは、目の前のドラゴンが銀の光に包まれるのを見た。

 相手が何をしょうとしているのかは判らないが、そんなことは関係ない。

 アルナギンゴは、周囲に浮かぶ無数の水の球を幾つか寄り合わせ、ウナギンゴが使ったような水の槍を造り出す。

 槍は弾丸よりも速度は落ちるものの、貫通力では勝る。その槍を数本、光に包まれたドラゴン目がけて射出する。

 撃ち出された水の槍は、狙い違わず銀の光に突き刺さる。そして徐々に銀の光が消えていく。

 やったか? アルナギンゴは結果を確認するため、攻撃の手を止めてじっと銀の光を見詰める。

 消えていく銀の光の中、何かがもぞりと動くのをアルナギンゴの目が捉えた。

 その動くなにかは、消え行く光の中でうずくまったような姿勢からゆっくりと立ち上がった。

 頭部は先程同様ドラゴン。だがずんぐりとした身体と太短い四肢は、まるで別のものに変化していた。

 均整の取れた身体にバランスの良い長い手足。尻尾は消え失せ、背の翼も小さく折り畳まれている。

 そのシルエットは間違いなく人間のそれ。かつて銀の竜であったそれは、銀の鱗に覆われた竜人とも呼ぶべき存在に変わっていた。


(こ、この短時間に身体を再構成するとは……)


 ミツキは驚愕を隠し切れない。いかに幻獣の身体が魔力によって編み上げられたものとはいえ、こんなに簡単に再構成できるというものではない。

 それを行うには、並外れた魔力の制御力が必要となる。

 そういえば、とミツキは思い出した。


(あの魔術師の女が言っておった。主の兄者殿には、並ならぬ魔力を扱う才があると。ならば弟である主にも、それ以上の才が備わっておったということか……)


 そう驚愕するミツキの傍で、和人は勢い込んでいた。


(おっしゃあっ!! この身体なら思う存分動かせそうだぜっ!!)


 和人は左の掌に右の拳を打ち付ける。すると竜人もまた、和人と同じように拳をふるった。


(行くぜっ!!)


 竜人がアルナギンゴ目指して駆ける。勿論黙って待っているアルナギンゴではない。

 再び水の弾丸が降り注ぐ。


(主っ!! 今度こそ避けてみせよっ!!)

(そんな必要はないさっ!!)


 ミツキの忠告を無視して、和人は水の弾幕の中を真っ直ぐに駆け続ける。

 だが水の弾丸は竜人に髪の毛の先程の傷を付けることもできなかった。

 水の弾丸は全て竜人の身体の表面に触れた途端、先程光の障壁に触れた時と同じように消滅したからだ。


(ま、まさか主は、魔力障壁そのものを取り込んで身体を再構成したというのかっ!?)


 竜人の身体を覆う銀の鱗。その鱗の一枚一枚に、先程の光の障壁と同じ効果が秘められていた。これでは余程強力な攻性魔術でなければ、ダメージを与える事は不可能だろう。

 ミツキは和人の魔力を扱う才能とその発想に二の句が継げない。

 障壁を展開しておき、その障壁を取り込んで身体の表面にその障壁の効果を付与するなど、誰が考え付こうか。

 まっとうな魔術師であればそのような非常識なこと、考えもしないだろう。仮に考えたとしてもそれを実行するのは容易ではない。

 だが、和人は魔術師ではない。魔術師ではないからこその自由な発想、その発想を実行してしまう才能とセンス、そしてそれを可能とする膨大な魔力。

 しかもこれまで、何ら魔術的な修養を積んでいないにも拘わらずだ。


(我はもしかして、とんでもない人間と契約を交わしてしまったのかもしれぬの……)


 正直ミツキは呆れていた。そしてそれ以上にわくわくしていた。


(面白い。我が主は途轍もなく面白い。自我に目覚めて千余年、このようにわくわくしたのは初めてよ)


 いいだろう、とミツキは思う。この主とならば、決して退屈はせぬだろう。これからの十数年を思い、知らず笑いが零れるミツキ。

 だが今は、目の前の問題を解決しよう。


(やるぞ、主! 目の前の怪獣に目にもの見せてくれようぞ!)

(応っ!!)



 アルナギンゴは焦った。自分の放った水の弾丸がまるで歯が立たないのだ。

 だからアルナギンゴは次に、弾丸ではなく槍を放つ。

 水の槍も吸い込まれるように竜人に命中するが、それだけだった。竜人はまるで気にした様子もない。

 そしてアルナギンゴは見る。迫り来る竜人の周囲に、自分と同じような球体が無数に現れた事を。


(ほう。相手の戦法を真似るか。悪くないの)

(だろ? いいものは何でも利用しないとな)


 これもまた和人の強さか、とミツキは思う。

 魔術師は自分の魔術に自信を持つ。それは悪いことではない。だが、自分の魔術を過信し過ぎて他者の魔術を認めない時がある。

 それは魔術師としてのプライドがそうさせるのだろう。

 魔術師でない和人には、当然そのような変なプライドもない。だから他者の魔術だろうがいいものはいいと素直に受け入れる事ができる。今和人が展開した魔術も、先程から相手の怪獣が展開している魔術だ。

 勿論見た魔術をそっくり真似るなど、和人の優れた才能があってこそのことなのだが。


(やれっ!! ミツキっ!!)

(承知っ!!)


 竜人の周囲に浮かぶ球体が打ち出される。この球体がアルナギンゴと違う点は、アルナギンゴが水の球であるのに対し、竜人は光の球であった。どうやら和人とミツキの操る魔術は光系の魔術のようだ。

 光という特性を生かして、水の弾丸よりも遥かに速い速度で打ち出される光の弾丸。

 降り注ぐ光の弾丸に対して、アルナギンゴは周囲の水の球を集結し防御壁に変換してこれを防ぐ。

 防御壁の表面で次々と無効化される光の弾丸。だが、光の弾丸を受け続ける事で、水の防御壁に変化が生じ始めていた。

 この光の弾丸は単なる光の塊ではない。この光には熱もまた含まれていたのだ。

 光の弾丸が着弾することによって、弾丸に内包されていた熱はすべて防御壁へと移動する。そして次々と流し込まれる熱が、水を徐々に水蒸気へと変えていった。

 防御壁を構成する水の量が減れば、当然防御壁の強度もまた減少する。それこそが竜人の狙い。

 そして竜人は尚も光の弾丸を放ちながら、アルナギンゴへと肉迫する。


(これでどうだっ!!)


 竜人の拳が防御壁に叩きつけられる。これまでに強度を削られた防御壁は、ガラスが割れるように砕け散った。

 そしてそのまま竜人の拳がアルナギンゴの顎を捉える。拳が激突する際、竜人は拳を魔力の光でコーティングする。

 光が爆発した。

 拳に込められた魔力が弾け、拳の衝撃と共に怪獣の顎を打ち抜いた。

 その衝撃でアルナギンゴの巨大が僅かだが宙に浮く。これだけの質量を浮かせるなど、一体どれ程の衝撃が与えられたのだろう。


(まだまだぁっ!!)


 竜人の拳打は一発では終わらない。続けざまに拳が打ち込まれれる。

 だが相手もまた怪獣。超常の存在。これだけの衝撃を叩き込まれながらも、まだその命は燃え尽きない。

 竜人が拳を引いた僅かな隙を狙って、アルナギンゴはその強靭な尻尾を横凪にふるった。

 流石にこの奇襲には竜人も咄嗟に対応することができず、避けることもできずにその頭部に強烈な一撃を食らう。

 

(がっ……ぐうぅっ……っ!!)

(ぬう……っ!! 大丈夫か、主っ!?)

(だ、大丈夫だっ!!)


 竜人が態勢を立て直す僅かな間に、アルナギンゴは再び距離を取ることに成功した。

 距離を稼いだアルナギンゴは、周囲に漂っている防御壁だった水を一ヶ所に集める。

 集められた水は渦を描き、遠心力で薄く引き伸ばされた。そして尚、渦はその回転速度を上げる。

 これはかつてウナギンゴがアルマジロンに深手を負わせた水のノコギリ。弾丸や槍よりも遥かに威力の高い攻性魔術。

 そのノコギリを、ようやく態勢を立て直した竜人に向けて打ち放つ。


(あれはいままでよりも遥かに高い魔力を帯びておる! あれを直接受けては障壁を付与した鱗でも堪え切れんぞっ!!)


 ミツキがノコギリの威力を看破して和人に告げる。


(だったら撃ち落とすっ!!)


 未だ竜人の周囲に無数に存在する光の球。それらが一斉に動き出して迫り来るノコギリを迎撃する。

 だが光の弾丸は水のノコギリに全て弾かれた。遠心力を得ている事により、ノコギリ自体の防御力も増していたのだ。


(ちぃっ!!)


 迎撃不可能と悟った竜人は高く跳躍してこのノコギリを躱す。逸れたノコギリはそのまま飛翔し、先程まで和人たちがいた岬の先端をすっぱりと斬り落とした後、単なる水に戻って海へと降り注いだ。

 そして上空から竜人は見る。自分目がけて地上のアルナギンゴが、その巨大な口を開いているのを。

 アルナギンゴの狙いは最初からこれだった。ノコギリには簡単に破壊されないだけの魔力を込めておいたから破壊は不可能。となれば竜人が取る行動は回避行動のみ。水のノコギリも単なる布石に過ぎず、その回避行動こそアルナギンゴの狙いだ。

 回避行動の際の僅かな隙に自分の最大火力の火焔を叩き込む。それがアルナギンゴの策略であった。

 しかも竜人は上空へと逃げた。これはアルナギンゴに取っては嬉しい誤算といえる。

 いかに竜人といえど、空中では身動きが取れまい。最初のドラゴン形態ならば飛行能力もあるだろうが、竜人の背にある小さな翼では空中での行動はまず不可能だろう。

 後はゆっくりと狙いを定めて火焔を放つのみ。もしアルナギンゴに表情というものがあれば、きっとにたりと悪魔的な笑いを浮かべていたに違いない。

 そして火焔が吐き出される。障壁を付与した鱗を持った竜人といえど、焼き尽くすだけの熱量を持った炎が真っ直ぐに竜人へと伸びていった。

 迫り来る灼熱の赤に、ミツキは焦りを覚えた。

 今の状態でこの火焔を躱す事は不可能だ。半端な障壁を展開してもこれだけの熱量を防ぐ事はできない。

 より頑強な障壁を編み上げることも可能だが、そのためには時間がない。

 八方塞がり。万事休す。

 だが、和人は平然とミツキに告げた。


(ミツキっ!! 翼の制御は任せるっ!! 俺じゃあ翼なんて動かせないからなっ!!)

(つ、翼だとっ!? 翼は身体を再構成した折、小さなものにしてしまったではないかっ!!)

(だったら小さくなければいいんだろ?)


 和人の言葉が終わった瞬間、再び銀の光に包まれる竜人。だが今度の銀の光はあっという間に散ってしまった。

 そして散った光の中からは最初に現れたドラゴンの姿。和人は一瞬の間に再び身体を再構成したのだ。


(ま、今回は最初の形態に戻しただけだからな。人形態にするより簡単だな)


 あっけらからんと言う和人に、ミツキはもはや呆れるしかすることがなかった。

 勿論、実際には和人が言うように簡単にできるものでは断じてない。

 ミツキは今はそれどころではないことを思い出して、力強く翼で空を打つ。

 ばさりと翻った巨大な皮膜が、巨体を空中に繋ぎ止める。そして迫る真紅の炎からひらりと逃れた。

 そしてまた銀の光がドラゴンの巨体を覆う。今度もすぐに散った光の中から、再び竜人が現れる。

 飛行能力のない竜人は重力に引かれて落下しながら、足先をこちらを見上げているアルナギンゴに向ける。


(行くぜ怪獣っ!! こいつはちょっとばかり強烈だぜっ!?)


 竜人の足が魔力の光に包まれる。竜人のパワーと質量に落下速度、そして更に魔力をも乗せた、まさに超弩級の一撃が天空より大地に突き刺さった。


 今日の投稿。


 物語はまさにクライマックス。節目まであと少し。


 もう少しお付き合いください。できれば、今後とも気長にお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ