表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第1部
16/74

15-真実


 権藤の指示により偵察用のOH-6D観測ヘリ3機が離陸してから十数分、今だ怪獣発見の報告は入っていない。

 だが権藤は、そして明人もシルヴィアも、怪獣が現われる事をほぼ確信していた。

 幻獣たちが嘘を言うとは思えない。彼らが人間に嘘を教えて何かメリットがあるとは思えないからだ。

 勿論、人間と幻獣とでは価値観がまるで違うと言われているので、人間の主観だけで判断するのは危険だが。

 そう言ったのは、明人が和人からの電話の内容を聞いた時のシルヴィアだ。そして権藤も彼女の意見に賛成し、直ちに観測ヘリを飛ばすよう指示を出した。

 その後は権藤とシルヴィアは指揮室、明人は『騎士ナイト』のコクピットでヘリからの報告を待ちながら待機していた。

 それから長いような短いような数分が過ぎた時、観測ヘリの一機から通信が入った。


「観測ヘリから入電! 城ヶ崎市沖38キロ地点の洋上で、ゆっくりと城ヶ崎方面へ移動するものを発見! 大きさから見て小型の怪獣と思わるとの事です!」


 指揮室のオペレーターの一人が入電を読み上げると、権藤の表情が一層厳しいものとなった。


「小型の怪獣……ですか。一昨日のアルマジロンではないようですね」


 権藤の傍らに立つシルヴィアが、確認するように権藤に告げた。


「そのようだな。一昨日とは別の怪獣と考えるべきだろう」


 権藤は厳しい表情のままシルヴィアへと向き直る。


「今日こそ『騎士』を出す。小型相手なら初の実戦相手に丁度いいかもしれん」

「了解しました」


 シルヴィアは敬礼をして権藤に応えると、『騎士』のコクピットにいる明人へと魔道パスを繋ぐ。


「準備はいい、白峰三尉? 今日こそ『騎士』を出すわ!」

「はいっ!! 了解しましたカーナー博士っ!!」


 気合いの籠った明人の返事と同時に、巨人の瞳に灯が灯る。

 真紅の巨大な騎士が、再び眠りから目醒めたのだ。



 和人と毅士は、岬の付け根の「立ち入り禁止」の看板のある所でアクシスから降りた。


「きっと茉莉くんはこの辺りに居るはずだ。手分けして探そう」

「判った!」


 二人は有刺鉄線を潜り抜けると二手に分かれた。

 和人は毅士と別れると岬の先端を目指す。一昨日、茉莉はそこにいたからだ。

 そしてやはり一昨日同様、その途中で異様なうねりを見せて荒れ始めた海を見る。


「くっ、あいつらの言う通り、本当に怪獣が来たみたいだな。もしかして一昨日現われたアルマジロンって奴がまた来たのか?」


 和人が思わず立ち止まってそう呟いた時、これも一昨日と同じように空から幻獣の少女が舞い降りた。


「それは違うぞ、あるじよ。今、海の中におる奴は一昨日の奴よりも魔力が弱い。もっと小さな別の奴であろう」

「別の怪獣だって?」


 一昨日のアルマジロンは約1年半ぶりにこの城ヶ崎に現われた。だが、それから2日で別の怪獣が現われるとは、いくらこの城ヶ崎が怪獣の『通り道』であるとはいえ、異様な出現確率ではないか。そんな考えが和人の脳裏を過る。


「どうして急に立て続けに怪獣が……。単なる偶然か?」

「いや、偶然ではない」

「えっ?」

「今、この街には強い魔力を持った人間が多く存在する。主の兄者に魔術師の女。そして彼ら程ではなくとも、他にも魔力を宿した人間もいるであろう。その中でも抜きん出て膨大な魔力を秘めた人間がおる。その者があ奴らを引き寄せているのだ」

「膨大な魔力を秘めた人間……?」


 本物の魔術師であるシルヴィアや、その魔力を見込まれて自衛隊の新兵器のパイロットに選ばれた明人。そんな彼ら以上に魔力を持った者など、和人には想像もつかなかった。

 そして次に少女の口から発せられる言葉に、和人は雷で打たれたようなショックを受ける事となる。


「何惚けたような顔をしておるか。膨大な魔力を秘めた者とは、主、お主自身の事よ。怪獣はお主目当てにこの街にやって来るのだ」



 荒れ狂う海が割れる。その割れた海の中から、細長い身体をした巨大生物が現れた。


「怪獣出現! 城ヶ崎沖5キロの海上!」

「全長は約10メートル! 小型サイズの怪獣と認定!」

「怪獣はさらに城ヶ崎に近付いて来ます!」


 オペレーターたちの声に応じるように、権藤は低く、それでいてよく通る声でその言葉を発する。


「『騎士』出撃!」


 権藤の命に従い、怪獣自衛隊城ヶ崎基地内の海に面した敷地の一部が、ゆっくりと左右に割れてその下に伸びる巨大な空洞を顕にした。

 その縦に伸びた空洞を、重い音を響かせながら何かがせり上がって来る。

 そして真紅に輝く鎧を纏った巨大な騎士が、跪いた姿勢でその姿を徐々に夏の陽光の下に現してゆく。

 昇降リフトが完全に上がりきると、明人は『騎士』を跪かせた態勢からゆっくりと立ち上がらせる。

 真紅の巨大な騎士。その手には怪獣を倒すべき剣と我が身を守る楯。

 これが怪獣自衛隊の対怪獣用兵器『魔像機』、その実戦配備第一号機『騎士』が、その勇姿を人々の前に現した瞬間だった。



 『騎士』が姿を現したのを、毅士は基地から少し離れた岬の途中で目撃した。


「あれが……自衛隊の対怪獣用の秘密兵器……」


 毅士は足を止めて呟いた。

 しかもあの巨人には、毅士には未知の技術である魔術が応用されているという。

 人類は怪獣に対して決して無力ではない。その事を毅士は実感した。

 そしておそらく、あの巨人を動かしているのは親友の兄である人物だろう。

 毅士は茉莉を探すという当初の目的を完全に忘却し、ゆっくりと海へと近付く巨人に見入ってしまっていた。



 その頃、和人もまた真紅の巨人を目にしていた。

 だが彼は、毅士のようにその勇姿に見蕩れる事はなかった。それ以上の問題が、和人の前に突き付けられていたのだから。


「お、俺が……怪獣が現れる……原因……?」


 喉が掠れて声が上手く出ない。それでも和人は何とかそれだけの言葉を口にした。


「如何にも。主の放つ魔力の煌めきは、あ奴らにとって闇を切り裂く一条の光明。灯に引き寄せられる羽虫の如く、怪獣は主の魔力に惹かれるのだ」

「どうして怪獣が魔力に……」


 和人の視線は海岸線に到着した真紅の巨人に向けられている。だがその意識は傍らの少女に釘付けにされていた。


「奴らの本体は、我ら幻獣と同じ魔石だという話はしたな? だが奴らは身体を形作る構成が我ら幻獣とはやや違う。我らは核たる魔石の魔力を自由に引き出せるが、あ奴らは他の生物と同化しているために魔石の魔力を上手く引き出すことが叶わぬ。そして魔力が引き出せぬと、その身体を維持することができなくなる。それでは自分で魔力が賄えぬならどうするか? 応えは至極簡単、他から摂取すればよい」

「そ、それじゃあ怪獣が人間を襲って食べるのは……」

然様しかり。魔力を補充するためだ。尤も、身体の殆どを取り込んだ生物の構成に頼っている奴らは、魔力以外にも栄養素が必要となる。魔力と栄養、二つの要素を同時に満たせる餌こそが人間なのだ」


 勿論、怪獣が捕食した人間全てが、魔力を有していたというわけではない。

 怪獣は魔力を宿した人間を本能的に嗅ぎ分ける事ができるが、魔力を有した人間だけを選別して捕食する程怪獣の知能は高くないのだ。

 だから魔力を有していると思われる人間と、その周囲の人間を同時に纏めて捕食する。こうすれば魔力の補給も賄えるし、栄養分も同時に補給できる。

 単に栄養が必要だというのなら怪獣の巨体に見合う、人間よりも大きな生物はこの地球上に幾らでもいる。それなのに、怪獣が人間以外を捕食したという報告例はない。

 魔力と栄養の同時補給。それこそが怪獣が人間を好んで捕食する真の理由だった。


「人間たちが『通り道』と呼んでおる場所を調べれば、高い魔力を有する人間が一人、もしくは複数存在しておろう。その者たちの放つ魔力こそが、何度も怪獣を引き寄せるのだ」

「じゃ、じゃあ……俺のせいで街が……父さんと母さんが死んだのも……俺のせいで……」

「主のせいではあるまい。怪獣が現れる原因は確かに主かもしれぬが、だからと言って怪獣の犠牲になった全ての責任まで主のせいではないぞ」

「だ、だけどっ!! 俺がいなければ怪獣は現れなかったんだろっ!? そうしたら誰も死ななくてもよかったじゃないかっ!!」

「そうとも限るまい。この街には主ほどではなくとも高い魔力を持つ者が大勢おる。例え主がこの街におらずとも、怪獣はこの街に現れたであろう」

「で、でも……これからも俺目当てに怪獣は何度も現れるんだろう?」

「なに、それを防ぐ手段ならあるぞ」


 和人は驚いて幻獣の少女に振り返る。少女の表情は真剣なものであり、決して嘘や慰めを言っているようには和人には思えなかった。


「ど……どうすればいい? どうすれば怪獣は俺を目当てにやって来なくなる……?」


 和人の問いに、少女はあくまでも真剣な表情で応える。


「我と契約するのだ。そうすれば怪獣は主の魔力に惹かれる事はなくなるだろう」



「どうやら現れたようだぞ、茉莉」

「うん。そうみたいだねベリル」


 茉莉はベリルと共に、岬の先端に程近い林の中に身を潜めていた。──またもや全裸で。


「よしっ!! じゃあ行くよっ!! ベリルっ!!」

「心得た」


 気合い一閃、裸のまま林を飛び出した茉莉は、そのまま岬の先端を目指して駆け出そうとしたのだが、思わずその足を止めてしまった。

 なぜなら、林から飛び出した彼女たちの前に、どういうわけか和人と幻獣の少女がいたからだ。


「か……和人っ!? どうしてこんな所にいるのっ!?」


 立ち止まって和人に問いかける茉莉。だが和人は茉莉の問いに応える事もせず、目を丸くして黙って茉莉を見詰めているだけだった。


「ま……茉莉……お……おまえ……ど……どうして……」


 途切れ途切れの和人の言葉が茉莉の耳に届く。


「どうしておまえはまた裸なんだよおおおぉぉぉぉっ!? まさか本当に露出の癖があるんじゃないだろうなあああぁぁぁぁっ!?」


 和人の叫びに、茉莉は今の自分の姿を思い出した。そして思い出した瞬間、体中を真っ赤に染めてその場でうずくまる。


「ば……馬鹿っ!! こっち見るなっ!! そんなに見つめちゃだめえええぇぇぇっ!!」

「だからどうして裸でいるんだよ、おまえはっ!?」


 和人からしてみれば、思わぬ事実を幻獣の少女から突き付けられている時に、傍らの林からいきなり裸の茉莉が飛び出して来たのだ。目を丸くして凝視しても仕方ないというものだろう。

 おかげでそれまでの重苦しい空気はどこかへ行ってしまったのだが。


「だ……だって、ベリルと融合すると、着ていた服は消えてなくなっちゃうんだもん」


 ベリルが言うには、融合する際に不純物である衣服は消滅してしまうのだとか。だから茉莉は、ベリルと融合する時は予め服を全て脱いでいたのだ。


「これまでに、何着もの服を融合の時になくしちゃって……これ以上服がなくなったら、本当に着る物がなくなっちゃう」


 茉莉が服を僅かしか持っていなかった理由の一つが、実はこれであった。


「あー、そ、そうか。わ、悪かったな、露出狂かと疑って……」


 和人はくるりと背を向けて、どこかずれたような謝罪を述べる。

 だが茉莉に背を向けたことで、真紅の巨人とウナギによく似た怪獣が、今まさに交戦状態に入る瞬間を和人は目にすることとなった。


 本日分です。今週末はなんとか更新できました。


 先日、総合アクセス数が1000を超えましたと書き込みましたが、あっという間に2000に到達しそうです。

 これも全てここに来て拙作を読んでくださっている皆様のおかげです。感謝致します。


 今後もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ