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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第1部
15/74

14-襲来


 もうすぐ真夏を迎える太陽は、今日も空のてっぺんで盛大に自己主張をしている。


「……今日も暑いなぁ……」


 強烈な日光を手で遮りながら、和人は雲一つない澄みきった青空を見上げる。

 学校帰りである和人は勿論学校指定の夏用の制服を着ている。幻獣の少女は、出会った時と同じチャイナ服に似たデザインの黒い服。彼女が言うには、この服は魔力で編んであり身体の一部のようなものだとか。

 そして茉莉は夏だというのに長袖のトレーナーにジーンズというちょっと暑苦しい格好だった。


「なあ茉莉、おまえそんな格好で暑くないのか?」


 茉莉の暑苦しい格好を見かねた和人が尋ねた。


「──暑い。というより熱い──」


 こころなしか、足元をふらつかせながら茉莉が答えた。


「だったらもっと薄着にしたらどうだ? おまえが今着てるそれ、冬用のトレーナーだろ?」

「……夏用の服なんて持ってないもん……」


 家出同然で親戚の家を飛び出した茉莉は、最低限のものしか持ち出せなかったのだ。尤も、茉莉の私物などかなり限られていたのだが。


「だからそういうことは早く言えって言ってるだろ? Tシャツぐらいなら俺のでも着れるだろうから貸してやるよ。その代わりちょっと大きいかもしれないけど我慢しろよな」

「いいの?」

「別にそれぐらいどうってことないだろ? ……しかし茉莉の服とか色々と必要だよなぁ……今度バイト代が出たら買うか……」


 後半部分はぶつぶつと呟く程度の声だったが、隣を歩く茉莉にはしっかりと聞こえた。


「そ、そんなの悪いよ。バイトだったらボクもするから。ボクのものはボクが買うって」

「そうか? じゃあ今度バイト紹介してやるよ。俺が行ってるバイト先でこの間バイトが一人止めたから、人手が足りないって言ってたんだ。そこで良ければな」

「へえ、和人ってバイトしてたんだ? どんなバイト?」

「弁当屋。商店街の中にある弁当屋で、週に二、三日学校帰りに行ってる」


 毅士みたいなビッグスクーターが欲しくてさーと続けた和人は、自分の隣にいるのが茉莉だけなのにふと気付いた。

 先程までは幻獣の少女とベリルも一緒だったはずだが、今は彼女らの姿が見えない。


「あれ? あいつらどこ行った?」


 周囲を見回す和人。それに釣られるように茉莉も首を左右に巡らせた。


「あ、和人! あそこ! あんな所にいるよ!」


 茉莉が指差す先、幻獣の少女は先程のように街灯の先に立っていた。その少女の肩の辺りに、ベリルも一緒に浮かんでいるのが和人には見えた。


「あ、あの馬鹿、またあんな目立つようなことしやがって……!!」


 一言文句を言おうとした和人より早く、幻獣の少女が和人たちを見下ろして口を開く。


「主よ、来るぞ」

「来るって何がだよ?」


 少女とベリルは和人たちの所まで降りてくると、更に言葉を続けた。


「先程も伝えようとしたのだがな、その小娘が現われたのですっかり忘れておった」

「だから何のことだよ? 説明しろって!」

「茉莉や和人殿たち人間が怪獣と呼ぶ我らの眷族……奴らが来る」

「な……に……っ!?」


 驚く和人と茉莉をよそに、少女は再び海の方へと視線を移す。


「我ら幻獣には判るのだ。眷族が近付いていることがな。奴らはすぐそこまで来ておるぞ」


 少女の言葉に、和人は慌てて携帯電話を取り出す。明人に連絡して警戒態勢を取ってもらうためだ。

 だが和人が明人に連絡するより早く、茉莉はベリルを伴って駆け出した。そして和人は茉莉が再びベリルと融合して怪獣と戦うつもりだということを瞬時に理解した。


「ったく、あの馬鹿──っ!!」


 和人の脳裏には、先日の背中に大怪我をして倒れていた茉莉の姿が浮かんだ。今度はあの程度では済まないかもしれない。もっと酷い怪我、いや、下手をすれば命さえも落としかねない。

 だから和人は茉莉の後を追って走り出した。自分が行っても怪獣が相手では何の力にもなれないと知りながらも。



「え……っと……。質問の意図が読めないのですが……?」


 明人は何とかそう切り出す。いきなり「いつ」と言われても、何がいつなのか判るわけがない。


「式だよ」


 明人の質問に返ってきた権藤の答えは、これまた簡潔過ぎて訳が解らない。


「式……と言われましても……何の式でしょう?」


 権藤が何を言わんとしているのか理解不能の明人。

 間近にありそうな式といえば和人の卒業式か成人式ぐらいだ。でも和人の卒業式はまだまだ先だし、成人式に至ってはもっと先だ。それ以外に式となると……

 答えに検討もつかない明人は、シルヴィアへと視線を向ける。そしてシルヴィアへ視線を向けたことを、明人は心の底から後悔した。

 笑っていた。笑っていたのだシルヴィアは。

 それもにこりという笑いではなく、にたりといった悪魔の笑み。間違いない。この女性が絶対何か絡んでる。そう明人の本能が告げた。


「だから君たち二人の結婚式のことだ。もうすぐ結婚するんだろう? 今、基地の中ではその事で持ち切りだぞ?」

「──────っ!?」


 明人、絶句。

 そう言われてみれば昨日辺りから、自分を見ては何かひそひそと話をしている連中がいるなとは思ったのだ。

 そして先程のシルヴィアの笑みの理由も理解できた。

 こいつだ。こいつが噂を広めやがった。どうしてそんなことをしたのか、という意味も含めて、明人はシルヴィアを睨みつける。

 明人の推察どおり、結婚の噂を広めたのはシルヴィア本人だ。彼女の目的は故意に噂を流す事によって周囲から認めさせようという、いわゆる外堀から埋めるつもりなのだ。

 そしてその企みは、こうして権藤の耳にまで入っているところからも成功していると言っていいだろう。

 明人の非難の籠った視線などどこ吹く風、シルヴィアはソファに座ったまま権藤の問いに答える。


「今のところまだ式の日取りは決っていませんわ。ほら、明人くんは弟さんが色々心配らしくて。少なくとも彼が高校を卒業するまでは待って欲しいと……」

「何勝手なこと言ってるんですかシルヴィアさぁぁぁぁぁぁんっ!?」

「ほう。既にお互いに名前で呼び合う程の仲とは。白峰、おまえも中々手が早いな」


 とってもイイ笑顔でサムズアップまで披露する怪獣自衛隊城ヶ先基地司令官。単に任務に忠実なだけの人物ではないようだった。色んな意味で。


「ですから──っ!!」


 更に何か言い募ろうとした明人の動きが不意に止まる。不審に思った権藤とシルヴィアが見詰める中、明人はポケットから携帯電話を取り出した。

 勿論、上官との話し合いの最中なのだから、携帯はマナーモードに設定してある。

 そして携帯のディスプレイに表示された名前は和人のものであった。


「すいません、ちょっと失礼します」


 明人は権藤とシルヴィアに一言断わると、彼らに背を向けて弟からの電話に出る。


「こら、和人。兄ちゃんは仕事中だぞ! やたらと電話してくるなと普段から言ってるだろ?」


 和人に文句を言う明人。だが、返ってきた和人の声は緊張を孕んでいた。


『それ……どころじゃ……ねえよ……兄ちゃんっ!! ……怪獣が……来る……みたいだ』


 電話の向こうの和人の声は途切れ途切れだ。おそらく走りながら電話をかけているのだろう。


『あいつら……幻獣……たちが言ってた……怪獣が来れば……判るって……っ!!』


 怪獣。その言葉を聞いた途端、明人の表情が引き締まる。


「判った! 大至急迎撃準備に入る!」


 それだけ伝えると明人は電話を切り、自分を注視している二人に向けて告げる。


「間もなく怪獣が現われますっ!!」



 和人は電話を切ると、走る事に集中した。

「ちっ……くしょ……っ!! 茉莉の奴……どうしてあんなに……走るのが速いんだ……っ!?」

 全力で駆ける和人の前方、茉莉はどんどん小さくなる。

 和人だって決して足が遅い訳ではない。それなのに彼我の距離は開く一方。この速度は明らかに異常だ。


「あの小娘は幻獣の契約者。ベリルから魔力による補助を受けておるのだろうて」


 和人の横を彼と同じように走る幻獣の少女は涼しい顔で走りながらそう説明した。

 このままでは離される一方だ。何とかしなければと考える和人の脳裏に、一つの案が浮び上がった。

 そして和人は茉莉の後を追うのを止め、突如進路を変更する。


「む? 何処へ行こうというのだ? 主よ。あの小娘の後を追うのではないのか?」


 不審に思った幻獣の少女が和人に問いかける。


「毅士の家っ!! ここからすぐ近くなんだっ!!」


 そのまま和人は二つほど角を曲がると、一軒の八百屋へ飛び込む。その八百屋の看板には『青山青果店』とあった。


「た、毅士っ!! 居るかっ!?」


 店に飛び込むなりそう叫ぶ和人。そんな和人を店にいた毅士の両親が不思議そうに見詰める中、店の奥から和人の声を聞いた毅士が現われた。


「どうしたというのだ和人? そんな大声を出して」


 いつも通り冷静な声で毅士は問う。だがそんな毅士の問いを無視して、和人は要件を告げる。


「アクシスあるだろ、アクシスっ!! この前お前が乗っていった俺のアクシスっ!!」

「ああ、一昨日借りたおまえのアクシスなら当然あるが。それがどうかしたのか?」

「大至急必要なんだっ!!」


 和人は毅士に事のあらましを説明する。勿論、毅士の両親には聞こえないように注意しながら。そして和人から話を聞いた毅士は即断する。


「それならば僕も同行しよう。すぐにアクシスのキーを取って来るから待っていろ」

 そう言い残すと、毅士は踵を返して奥へと戻る。しばらくすると、キーとヘルメットを持った毅士が戻って来た。

 そのまま和人と毅士、そして幻獣の少女は店を出て店の裏手へと廻る。店の住居部分の片隅に、見慣れたスクーターが止めてあった。

 YAMAHAグランドアクシスYA100W。この100ccのスクーターが和人の愛車だった。

 このスクーターは一昨日毅士が和人の家に泊まった際、翌日学校へ行く前に自宅に寄りたいと言った毅士に和人が貸し、そしてそのまま毅士の家に置きっぱなしになっていた。

 イグニッションを押しエンジンをスタートさせる和人と、その傍らに立つ幻獣の少女を見比べながら毅士が問う。


「彼女はどうする? アクシスでは三人は無理だぞ?」

「気にするな、我は幻獣ぞ。このような機械に頼らずともく駆ける事など造作もない。それより主よ。お主はあの小娘の居場所が判るのか?」


 少女の言葉に和人は思わず動きを止める。

 魔力でブーストされた茉莉を追いかけるのにバイクを使用するというアイデアは良かったが、肝腎の茉莉を見失ったのでは意味がない。

 だが困惑する和人の耳に、相変わらず冷静な毅士の声が響く。


「彼女にはこの街の土地勘がない。ここに来てまだ間がないからな。そんな彼女が行く所と言えば、これまでに行ったことのある場所だろう。おそらく彼女は──」

 そこまで言われて和人も思い至った。茉莉はきっとあの場所に向かったに違いない。


「急ごう毅士っ!! アクシスなら茉莉に追いつけるっ!!」


 和人はメットインから取り出したジェット型のヘルメットを被ると、こちらもジェット型のヘルメットを装着済みの毅士をリアシートに乗せてアクシスを発進させた。

 そして幻獣の少女もまた地を蹴って舞い上がる。少女は屋根や電柱の先、街灯の先端などを次々と足場にして和人たちに追従する。

 目指すは和人が末莉や幻獣の少女と出会った、あの岬の先端。


 今日の更新。


 皆様のおかげをもちまして、順調にアクセス数が増えております。

 毎日来ていただける皆様、もしくは初めて来ていただいた方々。

 本当にありがとうございます。


 取り敢えずの一区切りまであと10話ほど。今後ともよろしくお願いします。

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