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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第1部
13/74

12-浪漫


 幻獣の少女の口から衝撃の事実が明かされてから数時間後。そろそろ日付も変わろうかという時間帯にも拘わらず、白峰家の居間にはまだ人の気配があった。


「──正直言って、驚きましたよ……」


 手にした缶ビールを傾けながら、明人はテーブルの向いに座るシルヴィアに告げた。


「そうね……確かに私もびっくりしたわ」


 同じように缶ビールを手にしたシルヴィアが、明人の言葉に応える。


「今日の昼間明人くんに、『この国であなた以上に魔力の高い人はまずいない』なんて言ったばかりなのに、あなた以上の魔力の持ち主がこんな身近に二人もいるなんて……これじゃあ私、大嘘つきよねぇ」

「びっくりしたのはそこですかっ!?」

「あら、違うの?」

「違いますよっ!! 俺が言っているのは和人や茉莉ちゃんのことですっ!! 和人が幻獣の契約者とかに選ばれるし、茉莉ちゃんに至っては、今日現れた鳥型の怪獣こそが彼女本人だったんですよっ!?」


 件の少女より契約を迫られた和人は、考える時間が欲しいということで少女へはっきりとした答えを出さなかった。


「でもあの時、和人くんが即決しなくて良かったと思う。下手に断わろうものなら、あの娘がどう出るか分からなかったし。魔力から推察してもあの娘、かなりの力を秘めてるわ。恐らく大型怪獣と同等かそれ以上……。そんな存在が、怒りに任せて暴れ出したら止めようがないもの。それに幻獣との契約ってのが、何らかの危険を伴うものである可能性もあるわけだし」


 まあ、茉莉ちゃんの話を聞く限りじゃそういう危険性はなさそうだけど、とシルヴィアは最後に付け加えた。


「今頃和人の奴、あれこれ悩んでるんですかね?」


 あれから和人はすぐに自室へと戻った。毅士がしばらくしてから様子を見にいったのだが、そのまま彼も戻らないところを見ると、二人で色々と話し合っているのか、それとももう二人とも寝てしまったのか。

 茉莉もしばらくは居間に残っていたのだが、つい先程彼女にあてがわれた部屋へと戻って行った。

 そして幻獣の少女は和人に考える時間を与えると、「今宵は月が美しいからの。主の答えを待つ間、ゆるりと月でも眺めていようか」と、ふらりと家から出て行った。勿論、今度はちゃんと玄関から。


「ねえ? どうしてあなたたち幻獣はそんなに契約にこだわるの?」


 シルヴィアの問いは明人へのものではなかった。それはこの場にいる最後の一人──一体と表現すべきか──に向けられたものだった。


「──契約者を得ることこそ、我ら幻獣の至上の至福だからだ」


 そう答えたのはグリフォンのベリルだ。ベリルはシルヴィアのもっと幻獣について話が聞きたいから、という要請に応えてこの場に残って彼女たちと話をしていた。

 ベリルは、その小さな身体をテーブルの上でうずくまらせて、首だけを二人に向ける。


「我らに幻獣に寿命という概念はない。故に我らは生まれいでた瞬間より、契約者と出会うことを求める。そして契約者を得、その契約者と共に命を終えて永遠の安らぎを得る。それこそが全ての幻獣たちの求める理想なのだよ」


 ベリルはそう告げると、彼の前に置かれた皿から酒のつまみに用意されたチーズを、一切れ器用についばむ。

 本来魔力で身体を維持する幻獣には、食事も睡眠も必要ない。だが味覚がない訳ではないので、こうやって「味」を楽しむことはできる。


「俺にはよく理解できないな」

「当然だよ明人殿。我ら幻獣と君たち人間とでは、価値観を測る定規の大きさも違えば目盛の幅も違うのだ。理解しようとするのが無理というものだ」


 そんなものかねえと答えてから、明人はシルヴィアへ視線を向けた。


「それでシルヴィアさん。今夜の出来事は上へ報告しますか?」

「そうね……それも頭痛の種よね……」


 そう呟いてシルヴィアは、缶の中身を喉に流し込む。

 今まで誰も知り得なかった怪獣の誕生の仕組みや生態。全部ではないだろうが自分たちはそれを知ってしまった。普通に考えるなら自衛官である明人や、自衛隊に招聘されているシルヴィアはその事を自衛隊の上層部、果ては国のレベルにまで報告しなければならないだろう。

 だがそんな事をした場合、和人や茉莉がどうなるか。

 怪獣は一体でも恐るべき破壊力を秘めている。それこそ小さな国なら、大型怪獣一体で破壊し尽くすこともできる。

 二人はそんな怪獣と同等の力を持つ幻獣を自由に操ることができるのだ。

 まだ契約を交わしていない和人はともかく、茉莉の力は今日の昼間に目の当たりにした。

 そんな二人を自衛隊の上層部や国家が、このまま放置しておくとはとても思えない。

 自衛官として職務を全うするのか、それとも兄として弟を守るのか。明人は二つの違う立場から葛藤していた。


「私は……権藤司令に相談してみようと思うわ」

「権藤司令に……ですか?」

「ええ。司令なら決して悪いようにはしないと思うの」


 権藤重夫という人物は、職務に忠実でありながら情にも厚い人物である。確かにシルヴィアの言う通り、彼なら悪いようにはしないだろう。

 あのネーミングセンスだけは、どうにもいただけないが。

 明人はそう考えて、シルヴィアの提案に頷いた。



 雲一つない夜空に、銀の満月が輝いている。

 その月を屋根の上に寝転びながら見上げて、和人は今日の出来事を反芻していた。

 一度はベッドで横になったものの、和人はどうしても寝つけずに、同室で寝ていた毅士を起こさぬようそっと部屋を抜け出してここにやって来た。

 明人の宿直の時など、しょっちゅう泊まりに来る毅士。彼はいつもなら客間で寝るのだが、今日はその客間が塞がってしまったので和人の部屋で寝たのだ。勿論、二つあった客間を塞いだのは茉莉とシルヴィアだ。

 幻獣の少女はふらりと出かけたまま戻らない。先程の態度からして二度と戻らないという訳でもないだろうが、幻獣は睡眠を必要としないと言っていたから、どこかで一晩中起きているつもりなのかもしれない。

 そんな事をぼんやりと考えていた和人は、近くに人の気配を感じて首を巡らせた。


「あ、こんな所にいたの?」


 物干し用のベランダに姿を現したのは茉莉だった。茉莉は身軽にベランダの手摺りを越えると、危な気のない足取りで屋根の上を和人の元へとやって来た。


「へえ……いい風が吹くね、ここ」


 風に髪を靡かせて、茉莉が気持ち良さそうに目を細める。


「だろ? ここは小さな頃からの俺のお気に入りの場所なんだ」


 和人は幼い頃より、何かに悩んだり、悲しいことがあったりすると、決ってベランダの手摺りを乗り越えて、ここでこうやって空を眺めていた。


「で? 和人はここで何してるの? 考え事?」


 茉莉は和人の傍らに腰を下ろしながら尋ねた。


「まあ──な。今日は色々とあったからなぁ……」

「そだね。ボクも色々あったよ。誰かさんには出会って早々裸を見られちゃったりね」


 茉莉は悪戯っぽく和人を見詰める。そして和人は、その言葉で茉莉の白い裸身を思い出してしまい、夜目にもはっきりと赤くなって茉莉から視線を逸らす。


「だ、だからあれは不可抗力だって言ってるだろっ!?」

「不可抗力だろうが何だろうが、事実は事実だよね?」


 茉莉にやり込められた和人は黙り込む。下手な事を言うと逆に薮ヘビになりかねないと思ったからだ。

 そうやってしばらく黙ったまま夜空を見上げていた二人だが、沈黙に堪え切れなくなったのか、再び和人が口を開いた。


「──なあ?」

「何?」


 二人とも夜空を見上げたまま言葉を交わす。


「おまえ、本気で結婚とか考えてるのか?」


 その問いに、茉莉は黙ってしばらく考えてから、ぽつりぽつりと答え出した。


「本当言うとね、結婚っていうのは和人の家に転がり込む口実だったんだ」


 茉莉の言葉に、和人は内心でやっぱりなと頷いた。和人や茉莉の年齢で結婚なんて普通は考えないだろう。それも裸を見られたから結婚するなんて、いくらなんでも古風過ぎる。

 そんな事を考えながら、和人は茉莉の言葉に耳を傾けた。


「昼間も言ったけど、この街に来たのはいいけどあてなんてないし。だから上手くすると住む所が確保できるかなって思ってあんなこと言ったの」


 でもね、と一息ついて茉莉は言葉を続ける。


「この家は暖かいんだ。今日一日過ごしただけでそれはよく判ったよ。明人さんは優しいし、和人も……毅士くんも言ってたけど、ちょっとお人好しだけど、悪い奴じゃないしね」

「お人好しで悪かったな。しょっちゅう毅士にも言われてるよ」


 二人はお互いに顔を合わせる事なく、くすりと微笑む。


「ほら、ボクってさ、両親を亡くしてから親戚の家で育てられたって言ったでしょ? そこが何ていうかさ、酷い所だったんだ。体罰や食事抜きなんて当たり前。お小遣いなんて貰ったこともなかった。たまに別の親戚から貰えても、その家の子たちにすぐに取り上げられたりしてさ。大きくなったらこんな家出て行ってやる、っていつも泣きながら考えてた」


 茉莉は膝に顔を埋めるようにしながら話し続ける。


「で、結局その家を飛び出したわけだけど……それからも結構大変だったんだよ? 身寄りがないからあちこちを転々として。15や16の女の子一人じゃ部屋も借りられないし、まともな仕事も少ないし。ここだけの話、盗みをしちゃったこともあった……どうしてもお腹が減っていて、気づいたら店先に並べてあったパンを持って走って逃げてた」


 運良く捕まったりはしなかったけどね、と茉莉は笑った。


「それで今日、この家に来て久しぶりに思い出したんだ」

「何を思い出したんだ?」

「家族って暖かいってこと。安心して暮らせる家があるって素晴らしいってこと。和人と明人さん、毅士くんにシルヴィアさん……皆と出会って、ボクにも以前はそんなものがあったんだって思い出した……あはは、変だよね。普通誰でも持ってるのに……そんなこと忘れる訳ないのに……」


 茉莉は笑っていた。茉莉は泣いていた。茉莉は笑いながら泣いていた。

 彼女は両親と一緒に暮らしていた、幸せな頃を思い出したのだろう。

 茉莉の気持ちは和人にはよく判った。彼もまた、同じような思いで泣いたことがあったから。

 幼い頃に両親を亡くし、唯一人の肉親である兄もまた進学のためにこの地を離れた。家族の思い出の染みついたこの家に一人残った和人は、今の茉莉のように家族が揃っていた頃を思い出して泣いたことが何度もあった。

 だから和人は茉莉の方を見ないで彼女に言う。


「おまえが好きなだけここに居ればいいさ。ここでは誰もおまえに暴力を加えない。食事もおまえの分くらいは何とかなるしさ」

「……うん……うん。ありが……と……」


 茉莉は小さく嗚咽を繰り返しながら、何度も礼を言う。和人はそのまま茉莉が泣き止むまで黙って待っていた。

 しばらくすると、茉莉も泣き止んだようで再び話し出した。


「だから……ボク、改めて思ったんだ」

「へえ? 今度は何を思ったんだ?」

「ボクね……ボク……本当に……和人と……結婚してもいいって」


 茉莉は頬を赤らめながら、さらりと爆弾を投下した。


「な、なにいいいいぃぃぃっ!? ど、何処をどうしたらそんな結論になるんだよっ!?」


 茉莉の爆弾宣言に、思わずバランスを崩して屋根からずり落ちそうになり和人。


「和人がいい奴だってのはよく判ったよ? そりゃあ、ここに置いてくれるのは同情もあるかもしれないけど、もし和人が嫌な奴だったらボクにイヤラシイことする筈だもん。でも和人はボクが裸で気を失っていても何もしなかったよね。それだけでも和人は信用できるよ」

「ば、馬鹿野郎、それが普通だっ!!」

「あ、安心していいよ。今までどんなに生活が苦しくても、身体だけは誰にも許してないから。正真正銘の乙女だよ、ボク」

「そんな事聞いてねえええぇぇぇぇぇっ!!」

「それにやっぱり温かい家があるのはいいよね。思い出しちゃったら余計に、家があるっていいなって思うんだ。それに毅士くんから聞いたよ。和人って将来、明人さんと同じ自衛官志望なんでしょ? って事は国家公務員だよね。安定収入!!」

「さてはおまえ、家とか収入とかが目的だろ、本当はっ!?」

「……………………………………………………………………………………………………違うよ?」

「何だよ、今のメチャクチャ長い間はっ!? ってか、何故に疑問形っ!?」

「やだな、男の子が細かい事気にしちゃだ・め・よ? そんなことだと女の子にモテないぞ。あ、和人にはボクがいるからモテなくてもいいか」

「だから勝手に話を進めるんじゃねええええぇぇぇぇっ!!」

「やれやれ。折角良い月夜だというに、あるじにはちと雅を愉しむ心に欠けるのぉ」


 ぎゃいぎゃいと言い合う二人の耳に、第三の声が響いた。二人が同時に声の方を振り向けば、ベリルをして幻獣の王と言わしめた少女が、夜風に銀の髪を緩やかに揺らしながらいつの間にか屋根に座っていた。


「それで主よ。心は決まったか?」


 少女は月光を麗々と反射させる朱金の瞳を和人へと向ける。


「我と共にあらば、世界を主のものにする事も可能であろう。主が望むならば、世界中の富みを主のものとしてみせよう。主が望むは何ぞや? 如何なる望みも我とあらば叶うであろう」


 自分を真っ直ぐに見詰める朱金の瞳から目を逸らさず、だが和人は幻獣の少女ではなく茉莉に問う。


「茉莉……おまえはどうしてベリルと契約した?」


 茉莉もまた、幻獣の少女から目を離さずにその問いに応えた。


「最初はボク、力が欲しかった。両親を奪った怪獣に復讐する力が。でも今は違う。以前、ベリルの力を怪獣だけじゃなく、ボクを辛い目に会わせた人たちにその力を使いそうになったことがあって……それからは怒りや恨みじゃなく、ボクみたいな存在をこれ以上増やさないために怪獣と戦うって決めた。怪獣の犠牲者をできるかぎり減らす──零にするのは無理でも、減らすことはできると思うから……だからボクは怪獣と戦う」


 茉莉の方を振り向かずとも、和人には彼女の瞳に大きな決意が秘められていることが理解できた。

 そして彼女の決意は、和人の想いと同じものであった。

 兄のように自衛官になって怪獣と戦い、自分が守れる範囲のものだけでもいいから絶対に守る。それが和人の夢であった。

 だが、そのためにこの少女の力を借りてもいいのか、という疑問も和人にはあった。

 怪獣を倒すために、怪獣と本質的に同じ存在である幻獣の力を借りる。

 それはまるで、ウィルスを打倒するために同じ病原体から作られるワクチンを使用するのと同じではなかろうか? そしてワクチンに依存し過ぎれば、身体自体の対抗能力を低下させてしまう事にならないだろうか?

 和人は、あくまで自分の力で怪獣に対抗したかった。現に兄の明人がそうしているように。


「俺が望むのは、茉莉と同じように怪獣を倒す力だ。でもそれは、兄ちゃんのように俺自身の力と努力で叶えたい夢なんだ。だから……お前の力は借りない」


 幻獣の少女を真っ正面から見返して、和人はきっぱりと告げた。


「ふむ……主には我と契約する意志はないと、そう言うのだな?」


 少女もまた、その朱金の瞳を和人から逸らす事なく問いただす。

 その問いに頷く和人を見る少女の瞳に、並々ならぬ力が宿る。

 それはこの少女の放つ圧力。シルヴィアをも金縛りにしたこの圧力を、しかし和人は臆する事なく真っ正面から受け止めた。


「──まあ、よい」


 和人の意志が固いことを悟ると、少女はそう呟いてふとその圧力を緩める。


「ならば主が翻意するまで粘り強く説得するまで。我は主と出会うまで1000年以上待ったのだ。説得にあと数年掛かろうとも、それに比べれば大した時間ではない。そういうわけで小娘」


 少女の視線が、和人から茉莉へと移動する。


「主の傍には我がおる。主が望むなら、別に契約を交わす前であろうとこの身を捧げても構わぬ故、お主が主の傍にいる必要はない。何、我も自我に目覚めてから1000年以上経つとはいえ、男と閨を共にしたことはないから我もまた乙女よ。しかもこの身は魔力で編み上げられたもの、ある程度は変化させることも可能ぞ。主の好みがあの魔術師の女のようなばいんばいんなら、そのように合わせるが?」

 そう言いながら銀の少女が妖しげな視線を和人に向ける。


「えっ!? それマジっ!?」


 『ばいんばいん』という言葉と、今日実際に目にしたシルヴィアの裸体を思い出して、思わず反応してしまった和人。悲しいかな、彼も十代の健康な男の子なのだ。


「ちょ、ちょっと和人っ!? どうしてそこに反応するのっ!? それにキミっ!! 和人の奥さんはボクっ!! 横から現れて人の亭主を誘惑しないのっ!!」

「横から現れて、とは異なことを申すの。主と早く出会ったのは我の方ぞ。横から現れたのはお主よ」

「そうなの、和人っ!?」

「あー、確かに茉莉よりこいつの方が先に出会ったっけ……」


 ほんの数分だけどなーと、心の中でつけ足す和人。


「そ、それでも和人の奥さんはボクなのっ!! 裸だって見られたんだからっ!!」


「ふん、そのような事でいいのなら簡単なことよ」


 そう言い捨てて少女は、身に付けている黒いチャイナ服のようなものに手をかけて脱ごうとする。


「待て待て待て待てえええぇぇぇぇっ!! 何するつもりだおまえっ!?」


「裸を見せれば主の傍にいていいのであろう? ならば裸を見せるまで。我は主が望むのなら、四六時中裸でおっても良いぞ?」


 この美しい少女が、常に裸で自分の傍にいるのを思わず想像してしまった和人。不覚にも鼻血が出そうになった。だって男の子だもん。


「四六時中裸って……何考えてるのこの変態! 露出狂!」

「幻獣である我とお主ら人間が同じ感性であるはずがなかろう。我ら幻獣は主の言葉には絶対服従するもの。お主も幻獣の契約者ならよく知っておろうが」

「そ、それなら、ボクもいつも裸でいるっ!! ね、ねえ和人? 和人がしろって言うなら、そ、その、く、首輪だって嵌めるよ……? 首輪は赤が似合うかな……?」

「な、何だよ首輪ってっ!? 何処からそんな発想が出てきたっ!? 俺にそんな特殊な趣味はねええええええええぇぇっ!!」


 口ではそう否定しつつも、頭の片隅で全裸の茉莉が赤い首輪をしている姿が浮かんでしまい、ちょっと似合うなぁと思ってしまった和人。

 それは何て言うか絶大な破壊力だった。主に理性辺りに対して。




 アルマジロンは静かに、ゆっくりと、しかし確実にそいつに近付いた。

 これだけ近付いても、そいつはアルマジロンに気づいた様子はなかった。

 そいつはアルマジロンのように四肢を備えておらず、水中での行動に適したように細長い身体の各所に鰭を持ち、大きさも10メートル程しかない。アルマジロンの知るところではないが、そいつは人間たちが小型と呼ぶサイズの怪獣だった。

 そしてもし、この場に人間が居たのならきっとこう言っただろう。「こいつはウナギに似ている」と。

 アルマジロンがウナギに似た怪獣まで後数メートルと迫ったところで、ようやくウナギモドキはアルマジロンに気付いた。

 ウナギモドキは間近まで迫ったアルマジロンに驚き、身を捩って泳ぐスピードを上げる。水中での活動に適したウナギモドキのスピードは、アルマジロンの数倍の速度を誇る。

 そして猛スピードでアルマジロンと距離を取ると、不意に反転してアルマジロンへと突進した。

 ベリルの雷弾の影響で身体の動きが鈍っているアルマジロンは、この突進を躱すことができずに直撃をくらう。

 ずどんと辺りの海に重い音が響く。

 ウナギモドキの身体が、魚雷のようにアルマジロンの巨体に突き刺さる。

 アルマジロンは予想もしなかった痛打に苦悶の叫びを上げる。

 アルマジロンはこのウナギモドキを取り込むことで、自身の傷を癒すつもりだった。

 怪獣の身体は魔力を帯びている。怪獣はその魔力を取り込むことで自分の傷を癒す事が可能である。そして更に相手の魔石そのものを吸収し、その怪獣の持つ力をも己がものにできるのだ。

 だが、アルマジロンは傷を癒すどころか、更なるダメージを負う結果となった。

 アルマジロンは大型の怪獣だが、本来は陸上が主な活動場所の怪獣である。だがここは海の中。そして水中こそウナギモドキのホームグランドであるのだ。

 小型とはいえ地の利を得たウナギモドキは、アルマジロンを圧倒した。苦痛に身を捩るアルマジロンに、ウナギモドキは何度も何度も突撃を敢行する。

 そして動きの鈍ったアルマジロンに、ウナギモドキは止めの一撃を振り下ろす。

 ウナギモドキの周囲の海水が、唸りを上げながら渦巻状に旋回を始める。どんどん回転数を上げる渦は、まるで回転ノコギリのように鋭利な刃物と化した。

 その水の回転ノコギリを、ウナギモドキはアルマジロンへと射出する。打ち出されたノコギリは、アルマジロンの頑強な装甲をも易々と切り裂いた。

 周囲の海水に血の花を咲かせて、アルマジロンはゆっくりと海底へと沈んでいった。

 その身体を魔力で構成する幻獣は、本来血を流す事などない。だが、魔石が既存の生物を吸収同化した存在である怪獣は傷付けば出血する。怪獣の中には、血ではなく強酸性の体液を撒き散らすような厄介なやつもいるぐらいだ。

 海底へと沈下して行くアルマジロンを見届けたウナギモドキは、再び目的地を目指して泳ぎ出す──人間たちが日本と呼ぶ島国へと。



 本日分投稿。


 皆様のおかげをもちまして、着実にアクセスしてくださる方が増えています。

 ありがとうございます。


 今後ともよろしくお願いします。

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