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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第1部
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09-再会

 夕食──明人と和人の合作──を終えた後、和人と毅士は和人の部屋にいた。

 明人とシルヴィアは居間で魔力の訓練、茉莉は自分に与えられた部屋の掃除と整理をしている。


「すまん毅士。そんな訳で写真撮れなかったんだ」

「まあ、仕方ない。確かにそのような状況じゃあ無理もなかろう。しかし、噂の人間に味方する鳥型怪獣が本当に現れるとはな。やはり写真でもいいから見てみたかったものだ」

「だからすまなかったってば毅士」


 和人は今日あったことの詳細を毅士に説明していた。立ち入り禁止区域に黙って入り込んでいた以上、明人やシルヴィアの前では話せなかったからだ。


「それで和人はどう思う?」

「鳥型の事か? うーん、どうかな? 本当に噂のように人間の味方かどうかは判らないけど、少なくとも敵ではないような気がするなぁ」

「そうじゃない」

「え? そうじゃないって、じゃあ何さ?」

「茉莉くんのことだ。考えてみれば、不自然な事だらけだと思わんか?」


 毅士の口から出たのは、和人がまるで想定していなかった単語だった。


「なぜ立ち入り禁止区域であるあの岬に居たのか? なぜ裸で倒れていたのか? なぜ背中に傷を負っていたのか? しかも、その傷はすでに殆ど回復していると僕は見たが」

「ま、まさか。毅士は直に見てないだろうけど、結構酷い怪我だったんだぞ?」


 和人は茉莉と出会った時の、彼女の背中に走る数本の裂傷を思い出す。あの怪我が数時間で回復するなどとても思えない。


「だがそれ程の傷を負って、あのように元気に動き回れるものだろうか?」


 毅士に言われて和人も考え込む。確かに毅士の言う通り、あの傷であのように動き回れるとは思えない。


「そういや、あいつ何か言っていたっけな。確か、契約者だから傷の治りが早いとか何とか……なあ毅士、契約者って何の事だ?」

「僕が知るわけなかろう。ともかく、ざっと挙げただけでもこれだけの疑問点がある。茉莉くんにはまだ何か秘密がある。それは間違いないだろう」

「うーん……そう言われると確かに何かあるように思えるけど……。でも、あいつは悪い奴じゃないと思うぞ?」

「その点には僕も異論はない。だが、注意するに越したことはあるまい」

 毅士が和人の言葉に頷いた時。突如、和人の部屋の窓が爆発したかのように砕け散った。



 テーブルの上をひょこひょこと人形が歩く。人形はテーブルの端まで歩くと、くるりと向きを変えて再び歩き出す。その動きは人間が動いているように滑らかだった。

 明人は床に敷いた魔方陣の中央で、人形を凝視しながら一心不乱に念を凝らしていた。

 夕食の後片付けの後からざっと1時間程、そうやって人形を操る事に集中していた。

 その甲斐あってか、始めて人形を操った時に比べてかなり滑らかに動かせるようになった。

 だが明人の脳裏には、飛んだり走ったりと複雑な動きを難なくこなす、茉莉の操った人形の姿があった。

 シルヴィアは、彼女は何らかの理由で魔力を扱う事に慣れているのだと言う。しかし弟と同い年の少女が自分よりも巧みに魔力を操るという事実が、明人に焦りを感じさせていた。

 自分は『魔像機ゴーレム』を駆って、人々を守らねばならない。そのためには茉莉のように、いや、茉莉以上に魔力を操る必要がある。その思いが明人を魔力操作の修行に駆り立てていた。


「程々にしておきなさい。焦っても上達しないわよ?」


 不意に明人の耳にシルヴィアの声が響く。反射的にその声の方を振り向いた明人は、そのまま時間が止まったかのように凝固した。勿論、それまで動いていた人形も動きを止めて、ぽてちんとテーブルの上に倒れ込む。


「お言葉に甘えて、先にお風呂頂いたわ。日本のお風呂って中々いいわね。木の香りのするお風呂なんて初めてよ」


 明人の視線の先、濡れた髪をタオルで拭きながら居間に入ってきたシルヴィア。

 彼女の現在の出で立ちは、素肌にYシャツ──明人のもの──を羽織っただけといういわゆる『裸Yシャツ』と呼ばれるものだった。

 しかも、Yシャツのボタンを殆どしていない上にノーブラなものだから、その豊かな胸の双丘が半分以上まろび出ていて、薄いYシャツ越しに鴇色の先端がうっすらと浮き上がっている。

 ちなみにショーツは身に付けているようだが、極めて布面積の小さな黒いヤツだったり。


「は、はははは博士ぇっ!? な、なななな何て格好してるんですかぁっ!?」


 余りの視覚的衝撃にフリーズしていた明人が、ようやく再起動を果たして叫ぶ。


「ほら、急に白峰くんの家に泊まる事になったでしょ? だから着替えとかなくて。これ勝手に借りちゃった。ごめんなさいね」


 シルヴィアは、羽織っているYシャツを指先で摘まみ上げながら言う。Yシャツを摘まみ上げた際、ちらりと柔肉の先端のピンク色が明人の眼に飛び込む。


「いきなり泊まるとか言い出したのは博士でしょうっ!!」


 明人の言う通り、何故かシルヴィアは白峰家に泊まると言い出した。

 当然その理由を尋ねた明人だが、対するシルヴィアの返答が「白峰くんの魔力修行の監督指導のため」というものだったために、拒否するわけにもいかなかったのだ。


「ここには高校生の和人と毅士がいるんですよっ!? その格好はあの二人には刺激が強過ぎますっ!! お願いですから何か着てくださいっ!!」


 視線を逸らしながら明人は言う。刺激的過ぎるのはなにも二人だけではない。明人にとってもかなり刺激的な格好である。


「はいはい、判ったわ。それから『博士』なんて他人行儀な呼び方は止めてくれないかしら? 今はプライベートなんだからシルヴィアって呼んでね。私も明人くんって呼ぶから。ほら、『白峰くん』だとあなたか和人くんかよく判らないじゃない?」

「分かりましたからっ!! だから早く何か着てきてください!」


 はあい、と間延びした返事を残してシルヴィアは居間を出て行った。

 一人居間に残った明人が、はふうと深い深い溜め息を吐いた瞬間、がしゃんと何かが壊れる音が響いた。

 その音を聞いた明人は、矢のように居間を飛び出して音の元へと向かう。音の元──和人の部屋へと。


「今の音は何だ和人っ!? 何かあったのかっ!?」


 そして和人の部屋に飛び込んだ明人が見たものは、砕け散った窓と床に座り込む和人と毅士、そして月を背後に悠然と佇む、銀色の髪の美しい少女だった。


 本日の投稿。何とか公約通りに更新できました。


 今後ともよろしくお願いします。

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