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リモートマン  作者: 笹舟
2/2

坂下

 嫌なことは早めに済ませておくのが景梧の主義である。済ませられないうちはなんとなく落ち着かない性分は時に損だが、どうにもならない。

 黒月からの指示を受けた明くる日、午前中は非番な景梧だったが十時には既に出勤していた。

 だいたい週に六日は出てくるのだし、同じ敷地内の住居棟に住むことも可能ではあるのだが、景梧は敢えて毎日車で十分ほどの隣町から出勤している。

 250ccのいつも乗っているオートバイはよく手入れはされているが、特にこだわりがあるわけでもなく、呆れるほど旧い型のものに無頓着に乗っている。手入れも本人よりもたまに乗る姉の方が専ら心得ているくらいである。

 施設の構内には各所に駐車場が設けられている。施設自体も広いので、施設内の移動にも自動車が不可欠なのだ。景梧がいつも停める第二区画内の駐輪場には既に多くの自動二輪が停められていた。景梧は自らの二輪を空いているスペースへと滑り込ませる。


「よお、景梧」

エンジンを止め、ヘルメットをしまっているところに声がかかる。顔を見ずとも慣れ慣れしい呼びかけですぐに分かる。

「坂下か、今日も暇人なのか?」

言いながら見やると、やはり暇人にしか見えない坂下は、水のいっぱい入ったバケツを両手に持って通路に立っていた。

「まあな」

当人も悪びれるでもなく、肩をすくめてみせる。

「お金魚様の水替え、か?」

からかうように問うと、坂下は再び、まあなと言ってそのまま背を向ける。行く方向はどのみち同じである。景梧はその背を追いかける。


 普段どう見ても遊んでいる人材としか見えない坂下が、どうしてエリートと目される速度で出世しているのか理解している人は少ない。特に最近はいつものんびりと余暇を楽しんでいるようにしか見えない。

 だが景梧は知っている。こう見えて坂下はこと戦闘となると驚異的な成績を残す、いわゆる有事の人材なのだ。とにかく戦い方も変わっている戦闘の天才。彼が暇なうちは、世界が平和だと言ってもいい。

 景梧と以前はよく同じ作戦で戦闘器に乗った戦友だ。


 坂下は両手のバケツを一度床に置き、一つずつ水槽へ注ぎ入れる。優に1メートルを超える巨大な水槽が上下に置かれている。両方の水槽に水がほとんど満ちているところを見ると、もう水替えも終わりの段階だろうか。

「かなり大きくなったんじゃないか?」

景梧は下の水槽の隅に20センチほどの五匹の金魚が泳いでいるのをみて驚く。たしか前にみたときはまだ半分ほどだったはずだ。

「いや、この間とは入れ替わってるよ。種類は一緒だけれどな。この間のは向こうの部屋だ」

当然のように隣の部屋を指さす。隣は簡易的な応接室になっていたはずだ。坂下のこの近くの部屋の私物化もそうとう進んできたものらしい。

「なんて言うんだったっけ?ほら……」

「ツガルニシキ」

この辺りの寒冷地でずっと飼われてきた土地の金魚だよ、と坂下は誇らしげに語る。

 ほら、ちょうどもう赤くなっているやつとまだ赤くなっていないやつがいるだろう?もともとは金魚っていうのは産まれたときはみんな銅の色をしている。大きくなってから褪色して赤くなったり白くなったりするんだよ。このツガルニシキっているのは特別で、褪色するまでに数年かかるんだけれどな――

 こうなると、もうその蘊蓄は留まるところを知らない。景梧は話し半分に聞き流す。


「そうだ、このあいだ実際に実験してみたんだけどな」

知ってちゃいたけれどやっぱり不思議なんだ、と坂下は声をひそめる。

「同じ金魚から、まったく同じ条件でクローンの金魚を作ってもな、ぜんぜん同じ模様にはならねぇんだよ」


 クローンじゃねえけれど何だかリモートマンと似ているよな、と誰へとでもないように呟く。

「そうか?どこがだよ」少しの興味を覚えて景梧は問い返す。

「いや、一体一体に生まれたときに個性はないけれど、だんだん変わっていくだろ?」

「それは設定を重ねていくから当然じゃないか?」

「それだけじゃねぇだろう」と坂下は即答した。

リモートマンの個性が設定とか越えたところに生まれてくるだろう?

そこが金魚のクローンと似ているって言っているんだ。


「先週からの新人研修は今もやっているのかな?」

唐突に景梧は坂下に問う。

「やっているんじゃねえかな。なんだ、またお勉強か?」

冷やかすような声を背に、景梧はもう部屋を出ていた。

リモートマンとは何なのか?

次話である程度の説明がある予定です。

今回は金魚を書きたかっただけです><

一話あたりの長さが短いですが、この程度でもよいものでしょうか?

うーん……

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