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西の森の魔女

作者: 鈴木真心

その国はとても小さく、四方を森で囲まれていた。


北の森。

ここには神獣が住んでいた。


東の森。

ここには賢者が住んでいた。


南の森。

ここには魔物が住んでいた。


西の森。

ここには魔女が住んでいた。


一年に一度、北から順番に皆は森に集まる。

誰かが滅びない限り、全員が集まる。


今のところ、毎年全員集まっていた。


今年は西の森。

魔女の元へ、それぞれが集まっていた。



「皆、今年も元気そうね」



魔女はにっこりと笑って集まった面々を見渡した。

神獣と魔物は、体が大きくて魔女の家に入ることが出来ない。

そのため、家の前に集まっている。



「もっと家を大きくしたらどうだ」



神獣はやや不満げに言った。



「あたしにはこれが丁度いいのよ」



笑顔のまま魔女が答える。



「雨が降らなくてよかったですよ」



賢者がそう言うと、隣で魔物が頷いた。


一年に一度の集まり。

これには意味がある。

この一年、それぞれがこの国のために何をしたのか。

それを報告しあうのだ。



「私は今年、祭りを定めた」


「何の?」



神獣の言葉に、魔女が尋ねる。



「私を崇める祭りだ」



ふうんと、魔女は相槌をうった。



「私は知恵を授けました」


「何の?」



賢者の言葉に、魔女が尋ねる。



「武器を作る知恵です」



ふうんと、魔女は相槌をうった。



「俺は願いを叶えてやった」


「何の?」



魔物の言葉に、魔女が尋ねる。



「何でもさ」



ふうんと、魔女は相槌をうった。



「魔女、お前は何をした?」


「遊んだわ」



神獣の言葉に、魔女は答えた。



「遊んだ?」



賢者は首を捻った。



「そうよ」



魔女は頷いた。



「国の奴らと?」



魔物も首を捻った。



「そう、一緒にたくさん遊んだわ」



魔女の言葉に、全員が笑った。

そんなものが何になると、嘲り笑った。


西の森の集まりは、こうして終わった。


しばらくして、この国に飢饉が訪れた。


人々は食うに困り、北の森の神獣の祭りを行うことが出来なかった。


人々は言った。



「どうして食べるものさえ困るのに、祭りなどしなければならないのか」


「よし、南の森の魔物に祭りを何とかしてもらうようお願いしよう」



南の森の魔物は、願いを叶えた。


魔物は、神獣を滅ぼした。


しばらくして、人々は堕落した。


ふと気付いて、人々は言った。



「魔物がいるからいけないんだ」


「何でも叶えてしまうから、やる気が出ない」


「よし、東の森の賢者に知恵をもらおう」



東の森の賢者は、知恵を与えた。


森を焼き払えと。


魔物は、森と一緒に焼け滅びた。


しばらくして、人々は罪の意識に苛まれた。


人々は言った。



「何故、こんなに辛い思いをしなければならない」


「東の森の賢者のせいだ」


「あいつがいなくなればすっきりする」



人々は、東の森に詰めかけた。

賢者から授けられた知恵で作った武器を持って。


東の森の賢者は、人々に滅ぼされた。


西の森の魔女は、只、それを見ていた。


その顔は、どこか辛そうで、切なそうだった。


しばらくして、この国は落ち着いた。


人々は、何事もなく、今日も平和に暮らしている。


一年に一度の集まりはなくなってしまった。

仕方がない。

もう、魔女以外はいないのだから。


集まりがなくなって、それでも魔女は、今日も人々と遊んでいる。


親が仕事に出掛ける前に預けられた子供、

自ら遊びに訪れる子供、

道に迷った子供、

様々な人々と遊んでいる。

子供だけでなく、大人も訪れたりする。



「ねえ、どうして他の森には誰もいないの?」



ひとりの子供が、不思議そうに尋ねた。


魔女は少しだけ切なそうに笑ってから、口を開く。



「それはね──」



西の森の魔女は、今日も人々と遊んでいる。


語り継ぐべき、物語を語って。

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