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大戦の怨恨に縛られた少女

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 ウィットブレッド公爵と別れて、別の応接室へ移動。

 円卓(ラウンズ)の秘密もあるため、使用人を下がらせた。


 改めて座り、残されたティーカップや軽食をいただきながらの会話。


 微妙な空気の中、表向きの最上位である室矢カレナが口火を切る。


「ローズマリー? お主は色々と不安定で、状況を正しく理解するのに時間がかかるだろう! 私だけでも、どういう立場なのかを知ることが難しい」


「はい、カレナ様……」


 返事をしたローズマリーは、困った様子だ。


 それを見たカレナが、結論を言う。


「私はウィットブレッド公爵令嬢で、重遠の主人! ただし、重遠を好きにさせている! 私にいちいち聞かなくても、いいぞ?」


「分かりました……」


 頷いたローズマリーは、不安そうな顔でこちらを見た。


「マスター、ご命令を」


「俺は、無名の東洋人……。帰ったレノックスとシャーリーには力を見せたが、それだけで正騎士の扱いは納得できん! 正直に言えば、ラウンズの監視やヒットマンにしか思えない」


 見るからに落ち込んだローズマリーが、ポツリと言う。


「私は、マスター殺しですから……」


 クラシックな応接室で、沈黙。


 視線を集めた俺が、話を続ける。


「何があった?」


「前のマスターを殺してしまい……」


 それっきり、シクシクと泣く。


 気まずい雰囲気だが、次の犠牲者になりそうな俺は確認するのみ。


 …………


 …………


 まだ?


 ねえ、まだ――


『私が聞くから、オープンチャンネルで催促するな!』


 超空間のネットワークで、カレナが叫んできた。


 さらに、多くの女子から追撃。


『若さまに、人の心はないんですか?』

『ひどい!』

『澪ちゃんと、キャラが被っている!』

『……そ、そうかしら?』

『さすがに、どうかと思います』

『お兄様の平常運転ですね』

『はい、夕花梨さま』


 遅れて、幼い声。


『も、もう少し、寄り添ってあげては?』


 人は、分かり合えないんだな……。


(どいつも、俺に寄り添ってくれない!)


 しょんぼりしていたら、カレナが説明する。


「結論から言うと、大戦の因縁に巻き込まれた……。そうだな、ローズマリー?」


 ヒックヒックと肩を上下させていたローズマリーは、ようやく顔を上げた。


「はい……。前のマスターは、私をドイツ人だからと……」


 聞きたくない。


 今から北大西洋を泳いで、USFAに渡ろうかな――


「こやつのロイリンク家は、ドイツの貴族だった! 大戦の前にユニオンへ移住して、そのまま帰化した口じゃな?」


「はい、そうです! 前のマスターは、家族を大戦で失ったらしく……。ある任務でマスターを助けに行ったら、私に襲い掛かってきて、それで反射的に……」


 ふと、疑問に思う。


「待ってくれ! ユニオン人としても、ラウンズになれるのか? それに、なぜ今まで処分されなかった? ロイリンク家はどうなった?」


 息を吐いたカレナが、1つずつ答える。


「欧州の貴族なんぞ、どれも親戚みたいなもの! 現に、フランス系のラウンズもいるぞ? しかし、大戦の影響でドイツ人は肩身がせまい……。処分されなかった理由は、こやつが真実を言っているうえ、純粋なユニオン貴族が人種差別や私怨で導くべき弟子を謀殺しようとした事実を広めないため! 『マスター殺し』で有名になったから、次のマスターが見つからないまま、宙ぶらりんだったのじゃ! ロイリンク家は……」


 視線を受けたローズマリーは、捨てられた子犬のような目。


「途絶えました……。ユニオンへの忠誠を示すため、率先して激戦区へ行き……」


 また、泣き出す。


(帰る家もないか!)


 ゆっくり息を吐けば、周りも同じ反応。


「気に食わん」


 俺が呟けば、ローズマリーはビクッとする。


 それに構わず、カレナを見た。


「あっちの本拠地へ行くぞ? 今の件を片付けたら……」


 ニヤリとしたカレナは、満面の笑みに。


「そうだな! ガラクタで遊んでいる奴らに本物のギアを見せておくのも、いいだろう! ローズマリー? 恐れることはありません……」


 立ち上がったカレナは、金色のオーラで辺りを満たしつつ、途中から大人の声で語りかけた。


 そのまま歩き、茫然としているローズマリーの手を取る。


「ここにいる重遠は、女神カレストゥーナである私の守護者(ガーディアン)、テオフィルの生まれ変わり……。円卓の騎士のオーダーごときに縛られる存在ではありません! 信じなさい、彼を……。何よりも、私を」


「は、はい……」


 魅了されたように恍惚とした表情のローズマリーが、答えた。


「彼は、大丈夫です……。身も心もゆだねて、楽になりなさい」


「はぃ……」


 ローズマリーの耳元で、そっと囁く。


「良い子ですね? もう、何も心配いりません」


 カレナは、ようやく金色のオーラを引っ込める。


 自分の席に座り直して、俺を見た。


 元の声で、明るく言う。


「重遠、これからの動きは?」


 深呼吸した俺は、改めて告げる。


「いい加減に、アンを退治するぞ? 公爵が案内人をつけるようだから、そこで動く! ローズマリーは、カレナとこの館の警護だ。追って、指示を出す」


「はい、マスター!」


 少し元気になったローズマリーを見ながら、思う。


(ここまで役になりきっていると、アニメファンでも筋金入りだな……)


 カレナは、『神話伝承テオフィル』が大好き。


 自分を女神カレストゥーナと、思い込んでいる。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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