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第五話『人生いろいろ』

 モンスターの討伐に付き合ってくれた、もじゃもじゃ頭のお兄さん。ナタクと名乗った彼は、昼メシを食ってくるとログアウトしていった。


 戦闘中などの特定の場面以外では、自由にログアウトができるのがこのゲーム。ログインしたときには再び同じ場所に現れるため、取り残された私は、なんとも悩ましい状況に置かれてしまったというわけだ。


「待ってたほうが、良いのかな?」


 答えてくれる人はいないのだけれど、待っていてくれと言われたわけではない。


 でも、何も言わずこの場を立ち去ることに、何処か申し訳なさを感じてしまっていた。


「こういう時、どうすればいいんだろう。電話をするの?」


 もちろん、ゲームの中から現実世界に繋がる電話なんてものはない。精々、メールを送ったりできる程度だろう。


「……あ、そう言えばマスターが言っていた」


 寂しさを紛らわせようとしているのか、独り言の多い自分に対し、ちょっとだけはにかむ。


 思い出したのは、履いている靴を蹴り投げて、靴底の向きで天気を占う方法だ。それを、これからの行動を決めるのに応用できないか、との案である。


 思い立ったが吉日、なんて言うくらいだ。さっそく履いていた布製のブーツのような靴を、脱げやすい状態にして脚を振るう。


「ひっくり返ったらここで待つ!」


 ふわりと弧を描いて落ちていく靴は、力なく落下して横たわった。


「横向き……。なるほど、そっぽを向いたわけだね」


 それを自分に当てはめると、置いてけぼりを食ってそっぽを向いた私は、街へと帰るのだった。と、自己解釈。


 そうして私は帰路について、三十分ほどで案内所の前に辿り着いた。


「おかえりー。あれ、ナタクくんは?」

「お昼だって。待ってたほうがよかったのかな?」

「うーん、まぁ、私から連絡しておくよ。まったく。中座するなら後の話もしておけっての」


 プリプリと起こるお姉さんは、メニュー画面を開いて何やら操作をしていた。


「知り合いなの?」

「うん。あの人、同僚の旦那さん。あの子、このゲームでナンパしされて速攻で結婚しやがった」


 メニュー画面を叩き割るんじゃないかってぐらい、怖いにこやかな表情に私は慄く。物凄くにこやかなのに、怖さが分かる。これは、一体どういうことなのか。


「……嫉妬?」

「……ストレートに訊くのね。あーあ。あいつ、最初は私に声をかけたのよ。そんで、昼休憩に入って戻ったら、同僚と仲良くなってた。信じられる? そういう人」

「付き合ってたの?」

「いや、そうじゃないけど……。あれ、そうじゃないなら気にすることでもないのか?」

「好きだったの?」

「いや、……どうだろう? なんかもう、どうでもよくなってきたかも。てか、そもそもどうでもよかったから、普通に付き合いが続いていたのかもなぁ」


 行列に並んでいて、目の前で目的のものが売り切れた、そりゃ誰だってショックだし落ち込むよね。代わりは何処にでもあるのに、さ。


「お姉さんも、お昼なの?」

「うん? まぁあと三十分くらいしたら、お昼休憩だね」

「お昼って、何をするの?」

「何って、お昼ご飯を食べたり、テレビを見てリラックスしたり……。あぁ、そういう経験はないか」


 オフィスに置かれた端末の前には、もちろんテレビなんてなかった。物を食べるなんて機能はもちろんないし、娯楽と言えばネットの情報か。


 でも、情報と言ってもそれは記号の羅列だ。情報として取り込まれたそれらを、自分の知識かのように知ったふうになるだけ。


 味気なさすぎて、どれだけ私の記憶容量に残っているか。


「でも、この中なら食べられるし、テレビも観られると思うよ。ちょっと待ってね」


 そう言って、彼女はメニュー画面を操作して誰かと会話を始めた。


「部長、アンティちゃんのお昼の過ごし方なんですけど、暇そうだから家に案内しちゃっていいです? ……あぁ、了解です」


 会話を終えると、今度は安心できる笑顔を向けてくれた。


「じゃあ、行こっか。ふふっ、ちょっぴり長めの昼休憩ゲットだぜ」


 邪だった。 

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