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第十話『普通って何?』

 仕事、という名のゲームを始めて三日が経った。先ずは三日坊主にならなかったことを喜ぼう。


 とはいえ、仕事を投げ出したところで私には此処にしか居場所がない。だからこそ、日々の仕事を楽しめるように試行錯誤をする時間。この三日は、おそらくそれを知るための時間であった。


 モンスターを楽に倒せるように、私は遠距離から攻撃が出来る弓を武器にすることにした。


 街を出て、フィールドを練り歩きながらモンスターを見つける。そんな時に弓なら即攻撃ができる。というわけだ。


 そうなってくると、一体倒せば確実にアイテムが手に入るようにしたくなる。


 このゲームではモンスターからアイテムを入手する――つまりドロップする確率を上げる方法は二つ。一つは、ナタクにも教わった幸運のパラメーターを上げること。


 そしてもう一つが、装備に付与されるパラメーターだ。


 アイテムを合成して装備を作ると、四つのパラメーターが付与される。それは、ステータスを上昇させるものとそれ以外に分かれるのだけど……。


 それらはすべて、ランダムに抽選される。


 つまり、攻撃力上昇が四つ付くこともある。攻撃力上昇が三つと、幸運上昇が一つ、なんてパターンもある。


 それ以外に関しては特殊効果とも分類されて、攻撃に属性を付与したり、モンスターからの攻撃を防ぐバリアを張ったりと様々。まぁ、こちらはレアパラメーターと呼ばれているので、付与されたらラッキーと思っておけばいい。


 と言うより、目的のパラメーター構成を目指しているのにポンと出てきてしまうから、ちょっと邪魔に思えてしまうくらいだ。


 そんなこんな、すったもんだを繰り返して、私は今現在ベストの構成を作り上げた。


 初期装備の見た目からは大きく変わり、姫騎士装備と呼ばれる見た目にパワーアップ。ふわふわのスカートと胸部を覆うシンプルな鎧。それでいて弓を構えるアンバランス。


 これが、私の三日間の成果である。


「これ、なんか変」

「ん? あぁ、生姜焼き。回鍋肉は食べていたよね? オニオンフライも食べたし、焼き肉も食べた。じゃあ、生姜が苦手なのかもね。たこ焼きは食べていたし、どのくらい利いているか、かな」


 あぁ、もう一つ。それを成果と言っていいかは分からないけれど、得たものがある。それは、自分の苦手な食べ物を把握することだ。


「すいませーん。ジンジャエールください」


 居酒屋にて、私はサチと共に食事を楽しんでいた。


 話に聞いていた様々な料理は私を楽しませてくれたし、初めてのお酒は、現在進行系で私に影響を与えている。


 ふわふわしているようで、なんだか集中力が高まっているようで。それでいて視野が狭くなってしまったような、でもすべてを見渡せるような万能感を得たような。そんな、不思議な感覚。


 味は悪くない。けれど、それ以上にオレンジジュースが美味しくて。リンゴジュースが美味しくて。トドメの乳酸菌飲料のおかわりが進んでしまって。


 私は当分、お酒に手が伸びないかもしれない。


「もろきゅうも駄目だったから、アンティの苦手なものはマヨネーズと生姜、そしてキュウリ。この三つかもね」

「後は生もの」

「あぁ、刺身もお気に召さなかったっけ」


 つまり、私の中で驚異的な四天王が誕生した、というわけだ。この強敵は倒すことが難しいから、今のところ目を背けるしか対処法がない。


「お待たせしましたー。ジンジャエールです」

「ありがとう。あ、それと焼き鳥の盛り合わせを追加で」

「はーい」


 手渡された飲み物を飲んでみて、直ぐに様々な料理によって築かれたテーブルの陣地から追放をする。


「生姜は確定だね。馬刺しからのマグロ寒ブリと来て、もろきゅうもだめ。難しい味覚の持ち主め」


 おでこを指で突かれ、私は唇を尖らせた。


「難しいの? 普通じゃないの?」

「うーん、その返答こそ難しいのかもなぁ。人の普通を難しいなんて言葉で表すのも失礼か」


 顔を赤くしたサチは、軽い調子で謝りながらビールを呷った。三杯目のそれは、またたく間にそこを顕にする。


「ま、メニュー画面から設定で、苦手な食材が使われた料理に警告を表示させられるから。やってみて」


 言われた通りに設定ページを開くと、隣に移動してきたサチに手取り足取り教えられ、なんとか設定を完了する。


「よし。これで基本的なことはすべて終わった感じかなぁ。戦闘にも慣れてきたし、装備の作成も問題なし。アイテム集めも順調で、こうして居酒屋に足を運ぶ余裕もある。となれば、そろそろゲームの攻略にも着手すべきかな」


 攻略? と私は首を傾げた。


「このゲームをプレイする目的、みたいなものかなぁ。それに関してはナタクくんを頼るか、それとも――」


 元の席へと戻ったサチは、じっと私の目を見つめている。


 どこか気恥ずかしくなってしまって、私は視線を落として手元にあった皿を見つめる。焼き魚がある。食べかけかと思われてしまうかもしれないが、これでも精一杯頑張って食べたのだ。


 骨に残った身、隅に寄せられた内臓や皮。それらは奮闘の証しとして受け取ってもらいたい。でも美味しかったなぁ。この焼き魚。


 生のままでは苦手なのに、焼くとこうも美味しくなるという不思議。


 なるほど、煮ても焼いても……。なんて言葉がよく分かる気がしてくる。まぁ、人とは感じ方が逆になっているかもしれないけれど。


「弓を使っていくとしたら、師匠役を弓姫(きゅうき)に頼んでみようかな?」

「きゅうき?」

「そ。私のいとこで、このゲームのプレイヤー。もちろん、ゲーム内の名前ね。ナタクくんもそうなんだけどさ。まぁ、良い子だよ」


 良い子。良い子か。


 でもそれはサチから見ての光景であって、私が見てその子のことを良い子と表現するかどうかは……。


「……不審そうな目。これは、紹介しておいたほうがいいかなぁ。趣味がピザ屋巡りだから、お薦めの店でも教えてもらいなさいな」


 めちゃくちゃ良い子そう。

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