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仮面ノ騎士  作者: marvin
仮面の騎士Ⅵ
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第4話

 星辰界(アストラル)の攻撃はラグナスの致命傷に成り得ない。

 身体を縛り、力を抑える搦め手の類の筈だった。

 渇望の閾値を越えなければ。

 身体に植えた神像は魂を食む。黒い澱がラグナスを呑み込もうとする。

 腹部が熱く目が眩んだ。自我を削る餓えが苛なむ。

 ラグナスは内の葛藤に追い詰められていた。

 好機と飛び込む守護兵がラグナスに槌を頭上に振り下ろした。

 避けるも適わず肩を打たれる。

 膝を突く。

 囲む兵士が打ち据える。

 剣の刃が兜を滑り背中を裂いて地に突き立った。

 痛みが意識を引き戻し、兜の内で目を眇める。

 星辰態(アストラルノード)の流れを探る。

 霊子を追うのは目前の馬車だ。

 渦の只中に踏み込んで、ラグナスは死霊を引き連れ駆け抜けた。

 改造態の守護兵を払い、腕を薙ぎ、折り蹴り伏せる。

 馬車に取り付き幌を毟った。車輪を割って客車を引き傾げる。

 術者の一団が転び出た。

 地面を掻いて逃げようとするも、端から血を吐きのた打ち回る。

 例え異端に堕ちようと高位の聖職者ほど死が見える。

 術者と云えども魂は御せない。霊子の流れを導くだけだ。

 転じた亡者が術者に纏わり、その魂を引き抜いて行く。

 蒼白の司祭(プリースト)が同胞を踏んで這い逃げた。

 ラグナスを見上げて跳び退る。

 壊れた客車に阻まれて虫の様に身を張り付けた。

 仮面の朱い眼に魅入られて司祭(プリースト)のそれは血で曇った。

 放った幽鬼(レイス)を返されて顔から血を噴き悶絶する。

 だが、亡霊は還らない。

 導きの術なく立ち去りはしない。

 無数の幽鬼が独り立つラグナスを取り囲んだ。

 斃した兵士も自滅の術者も、全てが腐鬼(グール)に成り果てていた。

 無間の地獄だ。

 ラグナスは慟哭を噛んで対峙した。

 亡者の身体と頭を砕き、四肢を折って地に捨てる。

 蠢く屍の山を踏み、ラグナスはよろめくようにその場を離れた。

 古戦場跡の亡霊は、多くがこの地に縛られている。

 縋って憑こうとする腕も千切り捨て行く生者は追えない。

 まだ逝けない。むしろ、其処へは行けそうにない。

 サイクを呼んで鞍に乗る。

 無論、街には帰れない。荒野の外縁には基地もある。

 血に塗れた男が飛び込めば、それこそ全てが敵になる。

 ラグナスは荒野の深淵に駆ける他なかった。

 自身の変貌に呼応してサイクも本来の姿を取り戻している。

 風のようにサイクは駆けた。

 ラグナスの身体は闇の生まれだ。陽が落ちようと視界は広い。

 亡者は後ろに引き離したが、逃走は想定の内だろう。

 否、むしろ包囲は狭まっていた。

 離れぬ羽音に頭上を探る。夜闇に溶けた鳥がいた。

 包囲が閉じる。

 一〇騎に及ぶ蹄の音がサイクに並走していた。

 死霊の隊から追って来たものではない。荒野で迎えた新たな敵だ。

 サイクを駆るも、包囲も劣らず追随する。

 宙を光芒が走った。白く焼けた鉄の矢が風を焼く。

 一撃、二撃を躱しても無駄だった。

 陽が射したかと思うほど、矢が一斉に撃ちか放たれた。

 払えど身を焼き、弾けど焼散る飛沫が刺さる。

 サイクが跳ねて地に転がった。

 もんどり打ってラグナスが地を踏む。

 幾多の串がサイクを焼き刺し、血肉を焦がして白煙を上げた。

 それはラグナスも同様だ。四肢も身体も半ばが裂けた。

 突き立つ串はなおも身を焼く。

 焼き塞がれた矢の痕は再生が遅々と適わない。

 騎馬が輪を寄せ、ラグナスを囲んだ。

 馬上を見上げてラグナスは息を詰めた。

 髑髏の仮面。

 ラグナスと同じ意匠の兜だ。

 竦むラグナスを烏が嗤う。頭上のそれは人の声を響かせた。

『三四号』

 過去に聞き覚えのある声だった。

 ガフ・ヴォークト、ラグナスを変えた魔術師の助手だ。

『生きていたとは、驚きだ』

 夜空に言葉が割れた響く。

『おまえは我が師の汚点だ、ラグナス・フォルゴーン』

 自ら奪った家名を呼ばわり、貶める。

 ラグナスは無言で屈辱に応えた。

『だが、この機会に感謝しよう』

 囲む仮面の輪を抜けて一騎がラグナスに近づいた。

 鎧を纏った馬を降り、鞍に烏が舞い降りる。

『処刑はこの男が担う』

 仮面の男が間近に立った。

 朱く昏い眼でラグナスを見遣る。

『紹介しよう、三五号だ』

 不意に男は両手を掲げ、朱く塗られた指先で顎当てを外した。

 兜に手を掛ける。

 ラグナスの身が総毛立った。

 変異した頭部が見る間に人の顔を取り戻して行く。

 鼓動が内から胸を打ち、荒れた呼吸が兜に籠る。

 ガフ・ヴォークトの哄笑に四肢が震えた。

「ファルカ、君まで」

 血を吐くようにラグナスは呻いた。

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