第3話
敵とは一体何者か。
片や異端の儀に耽る涜神者、片や人倫を欠いた魔術師。
最高学府も及ばぬ技術、有史以前の遺構の碑石。
太古の魔導機罪深きもの、霊子を御する黒い施術。
いずれ御柱の恩恵を外れた神秘だ。
彼らは一体何者なのか。
身内と云えど互いに供する事はない。むしろ互いに競うほどだ。
なのに彼らは繋がっている。人員、資金、技術が供されている。
その冒涜を束ねる目的は何か。
ラグナスは幾度も彼女と意見を交わした。
鬼獣を圧倒する人類圏の拡大か。ならばそれを秘する理由がない。
人と王国の支配か。それなら疾うに成している。
例え反駁があるにせよ、国家教会は意のままに近い。
正体のない集団、漠とした組織、その深淵にある秘密の結社。
彼らは一体。
槍を掴んで捩じり取り、ラグナスは柄で相手の喉を突き潰した。
馬上の自身を軸にして、周囲を薙いで切り落とす。
変化の前のサイクでさえも追える騎馬はそういない
見渡せば鞍の空いた馬が逃げ散る。
陽が地の縁に朱い。視界の隅には仄かな光芒がある。
資質の高い聖職者は勿論、勘のよい者にもこの蛍火は見える。
霊光は最早、ラグナスに見慣れた光景だ。
枯れた景色は気が滅入る。それが罠なら尚更だ。
そもこの混乱は意図されたものだ。それもラグナスひとりの為に。
それを知ってラグナスは挑んだ。
片隅に、彼女を失った自棄もある。それも少しは自覚している。
折れた槍を棄て、鞍を降りた。
サイクに掛けた荷を取って、緋色の帯を抜いて振る。
頸に搦めて兜を被る。面を下ろして顎当てを合わせる。
朱い眼が睥睨した。
ならば全ての敵になろう。罪の全てを負う者になろう。
迫る鎧の槍兵の群れに徒手空拳で対峙した。
否、ラグナスの武器がその身であるに過ぎない。
そも彼に耐え得る武具がなかった。
四方に突き込む槍先を躱し、拳で兜を割り潰す。頸が堪えず二つに折れる。
疾さに得物の利が及ばない。力に鎧の益がない。
皆一撃に即死する。
大攻勢は予想の内だ。
敵が力を注ぐなら幹部に類する指揮者もいるだろう。
生きて捕らえられずとも、首さえ残っていればよい。
ラグナスの被る兜を使えば、死した脳髄から情報を引き出せる。
それも叶わないならば、力の限り壊し尽くす。一兵残らず殲滅するまでだ。
手の感触に息を吐く。
頽れた相手がまだ動く。人の身を堕とした改造態だ。
教会の馬車を囲むのは、どうやらそうした輩のようだ。
紋を見るに守門だが、本物かどうかは分からない。
この遠征は祓魔師と浄化師が多い。
教会の守護兵も相当な数だ。
眼前の一隊こそ、その中に紛れたラグナスの敵だ。
ふと気怠さを意識した。
気付けば辺りに霊光が多い。それが蛭のように精気を吸う。
幽鬼が身体に絡み付き、神経索を麻痺させた。
鉄鎖のように身体を縛る。
研ぎ澄まされた聖職でなくとも、星辰界の冷えた手は人を殺す。
なるほど祓魔師かと思えば、どうやら敵は死霊導師だ。
表向きには存在しない冒涜的な神職だ。
確かに亡霊は苦手の部類だが、ラグナスの命を奪うには至らない。
苛立ちは手が届かない事に尽きる。
こうした折りも改造態は攻撃の手を止めない。
砕き潰すも起き上がる。
幽鬼の憑依、腐鬼の類だ。
ラグナスの力は衰えない。むしろ不明の高揚がある。
餓えに嗾けられている。
不意に敵の狙いに気付いた。
ラグナスの狂騒を意図しての攻撃だ。
何らかの方法でドワールフォートの戦闘を知ったのか。
あるいは。




