第8話
ギルーク・メッサーラは具に見ていた。
あの贄だ。ようやく女の正体に思い至った。
ノウムカトルの儀を生き残るも、自ら手で処分した。
身籠っていたのを逆手に取って、鬼獣に穢されたと流布して腹を焼いたのだ。
だが、生きている。
しかも鍵が魅入られている。
メッサーラの思索が自ら忌避する流れを向いて行く。
もし、あの胎にあったのが人の仔でなかったとしたら。
しかし一夜は早すぎる。
そもシルベルト・クラウザは神子に非ずと断じたではないか。
シルベルト・クラウザ。
思わず自身の頬に爪を立て、メッサーラは呻きを上げた。
あの司祭が謀った。可能性を知りながら嫉妬に駆られて謀ったのだ。
神子の顕現に身が持たず、眷属は贄に種として植えた。
それを知らずに焼いてしまった。
あれにいる女は神子と贄の混ぜ物だ。
二つに割れた生ける鍵は、確かに第五階梯の眷属だ。
ならば、冥界ノ門の先には何もない。
この十年、自分は空位の冥界の前にいた。
ひたすら、ある筈のない顕現を待ち続けていたのだ。
山程の贄とありったけの私財、我が身を実験に差し出してまで。
茫然とするメッサーラの前に腐鬼が割り込んだ。
ただあの女を目で追うも、邪魔が入る。
苛立たし気に人影を払った。だが払っても、払っても纏わり付いて来る。
鬱陶し気に意識を戻せば、周囲は腐鬼に埋め尽くされていた。
メッサーラの強化された身体には枯れ枝に等しい。
搾り粕の人の身など鬱陶しいだけだ。
引き剥がし、千切り捨て、なお絡む無数の腕を振り払う。
破れた皮膚に潜り込んだ指が関節に抉れて動けなくなった。
血肉に滑って頽れる。腐鬼が山と伸し掛かる。
身体中の穴という穴に腐った指が捻じ込まれて行く。
上げた悲鳴が拳に押し返された。
濁った視界に指が食い込む。
視界の最後に目が合って、贄の女が鼻で笑った。




