表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面ノ騎士  作者: marvin
魔宴ノ剣士Ⅲ
89/121

第3話

 壁に感じる蒸気炉の振動、轟々と風を取り交ぜる換気音。

 冷えた岩肌が醸す蒼さに、饐えた腐臭と薬の酸気が混じっている。

 広い円蓋の石室があり、底には黒い石碑が佇む。

 それは歴史の前から在った。

 目覚めさせたのはギルーク・メッサーラだ。

 縁から見下ろす先の底、石の舞台に点る灯が闇に吸われて黒々と淀む。

 浅い擂鉢の中央にあるのは、涜神の先達が造った冥界ノ門(デュミナス)だ。

 手前に置かれた迎えの壇に漏れ出た闇が蹲まっている。

 今この鍵があればこそ。

 石碑に過ぎないその遺物は冥界(ゲヘナ)の門へと至らしむ。

 メッサーラの家の本来は顔を欠いた女人の像だった。

 御使いを模るものではない。有史以前の異端の遺品だ。

 それが秘されていたからこそ、ギルークは魔術師の魂と地位を得た。

 ただノウムカトルの儀で為したそれを、まだ成功とは言い難い。

 シルベルト・クラウザの第四階梯(ユミル)の顕現、それにも遠く及ばない。

 それでも彼はこの鍵を得た。

 第四階梯(ユミル)の神子は司祭を刻み、抜け殻を残して帰還した。

 あの司祭に御しきれなかったものを、彼は眼下に維持している。

 第五階梯(ザメル)に配する二つの眷属、その二神の混成態だ。

 あれは人の身に執着が強い。

 知性こそないが、血肉の汁を喰らって生き永らえる。

 あれがギルーク・メッサーラに神子を呼ぶ。

 そもノウムカトルの失敗は、先達と招いた筈のシルベルト・クラウザが原因だ。

 自身の鍵を失くした司祭は、他の冥界(ゲヘナ)に興味がなかった。

 むしろ冥界ノ門(デュミナス)の秘蹟を単なる道具と見做していた。

 世界の狭間に物質を捕らえる、只の装置だ。

 魔術師が究極から目を逸らしたならば、最早俗世の技術者でしかない。

 シルベルト・クラウザは堕ちた。

 むしろ眼前の本物の魔術師に嫉妬と敵意を抱いていたに違いない。

 故に、あの儀は失敗した。

 ギルーク・メッサーラに残されたものは少なかった。

 砕けた冥界ノ門(デュミナス)。変質した鍵。喰い荒らされた贄の四肢。

 生き延びた贄もいたにはいたが、あろうことか身籠っていた。

 齢を絞って生娘を集めたつもりが、とんだ誤算だった。

 生かされてはと危惧したが、篤い信心が幸いした。

 鬼獣に穢され孕んだと説けば、容易に処置の建前を得られた。

 儀は秘されねばならない。

 探求を成さねばならない。

 その為ならば領主の地位さえ代替を供与され続ける。

 冥界ノ門(デュミナス)の代替が難航する中、ひたすらに鍵を維持し続けた。

 現存するそれは有限で有用。各地の所有者は割り当てられている。

 中には棄てられた碑に手を出す弟子さえいた。

 南の果ての権利を得る為、ギルーク・メッサーラは私財と我が身を費やした。

 その復旧は困難を極めた。

 鍵の維持と儀の準備には多大な手間が必要だ。

 積み上げた血肉の嵩はこの石室にも収まらない。

 ようやく先が見えた頃には、ノウムカトルの顕現から十年を経ていた。

 今、冥界ノ門(デュミナス)星辰界(アストラル)を映している。

 眷属を混じえた鍵は、じきに第五階梯(ザメル)の神子を迎えるだろう。

 物質化に要する血肉の素材、道筋を照らす幾多の霊子。

 それらを肥える程に注ぎ込み、後は時を待つだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ