第7話
「サイクはいいの?」
ダリルが問う。
「代わりに連れを探して貰う」
ラグナスは荷から頭陀袋をひとつ取ってサイクの綱を手放した。
「馬に?」
億劫そうに鼻息を吐いてサイクは二人に尻を向けた。
ひとつ向こうは人の溢れる通りだ。曳き手のいない馬に通行人が驚いている。
「あれは僕より鼻がいい」
ラグナスは平然と呟いた。
「僕と違って言い訳もしないし」
それで、とダリルを促した。
追跡者から奪った演算殻を手にダリルは辺りを見渡した。
ラグナスの手を曳き歩き出す。
ラグナスはそれに類する物を見た事がある。その応用もじき理解した。
二人は人通りを渡り、港に続く出店の軒を横切って歩いた。
演算殻の指示経路を辿って魔導機の指揮者を探る。
マリエルに合流するにせよ追跡を絶たねば同じ事だ。
いずれ危険は増して行く。ならば先にマリエルへの脅威を取り除く。
ラグナスの示した判断基準はダリルの自主性に指針を与えた。
ひとつ、何より大切なものを護れ。
ふたつ、人を傷つけさせるな。
みっつ、常識に従うのはその後でよい。
全てに明確な答えはない。
結果に完全な満足もない。
これは後悔の言い訳だが、とラグナスは自嘲する。
だが、ダリルの優先順位と親和性が高い。
ダリル・カデットは判断した。
「指揮機は恐らく罪深きものだ」
もう陽も夕に差し掛かる。軒に燈を吊す店もあった。
人混みの中を抜けながら、ダリルはラグナスにそう明かした。
「発掘された十三体か、生物層を模した古代の魔導機か」
よく知っている。
「復元されたのは十二機で、ぼくは最後の罪深きもの」
とは云え、そこまでは知らなかったようだ。
ラグナスが言うに、そうした魔術師は互いに秘匿して手札を見せ合う事がない。
魔術師の悪癖だ。マリエルもよく言っている。
滞留した品を少しでも捌こうと、市場街は祭りのような賑わいだった。
半ば自暴の喧騒だ。便乗した遊興の類も其処彼処にある。
ダリルの歩調は迷うでもないが、人集りに目を遣り喧騒に耳を傾ける。
人混みの中に混じる音色があった。
楽士の爪弾く六弦琴だ。屋台の軒で稼ぐ流しだろうか。
聴いた事のある譜だが整合率は甚だ低い。
怪訝に思ってラグナスに問うと、彼は少し考えた。
「君の風に言うなら、これは情動の言語化だ」
ならばなお、譜面に沿わなければ正確さに欠く。
「ダリル、音楽も言葉も情報は複合的だ、譜だけを見ると誤るぞ」
ラグナスの言う通りなら、人は複数の曖昧な信号を同時に交換している。
「難しい」
「そうだな、僕もそう思う」
二人は人混みを抜けた先で立ち止まった。
海だ。
改めてダリルが確かめるも、演算殻の指示経路は湾の先にある。
指揮機は沖に待機する入港待ちの船上か。
だが今海路は封鎖され港湾を渡る船はない。
陸路で訪れたラグナスも、港街の状況は聞き知っていた。
湾内に鬼獣が居着いて入港ができない。
見たこともない大型で、海上衛士も手が出ない。
「つまり、君の追っ手は海の中だ」




