第2話
黄金の眼をしたその女は、誘うようにマリエル腰を抱えた。
囲む三人の男を抜けて、するりと人波に紛れて歩く。
マリエルと同様呆気に取られ、男らは唖然と見送った。
舌打ちも反論も見せなかったが、目だけはマリエルを追っている。
女は駆けるでもなく歩幅が大きい。
人混みの中を流れるように、誰にぶつかる事もなく縫って歩く。
気付けば背中の視線は幾重にも途切れた。
追われる気配も感じない。
小走りが止んでいた。マリエルは女と肩を並べて歩いている。
歩調を合わせ、護るように寄り添っている。
頭ひとつ背が高く、締めた馬上の旅装束に裾長の外套を羽織っていた。
流れるようにしなやかな身体だ。
「悪かったね、連れだなんて言っちゃってさ」
不意の甘い声にマリエルは焦った。
「ありがとうございます」
慌てて応えたが、ひとつ言葉を飛ばしてしまった。
「いえ、そんなことありません」
おかげで余計に前後がおかしい。頬が熱くて狼狽える。
女は猫のような目を細くして笑った。
見れば歳はマリエルとそう変わらない。
黒が似合う。艶がある。よい匂いがして見惚れてしまう。
「私、ダリルを探さないと」
我に返ってマリエルは声を上げた。
「あんたの連れかい? あたしも連れと逸れちゃってさ」
子供のように、まいったね、と笑う。
「ねえ、この街は詳しい?」
三日前に着いたばかりで、そんなには。閊えながらマリエルは答える。
「心当たりはあるのかな」
「走って行ったのはあっちの方です」
そう指差してからマリエルは自分の言葉の怪しさを顧みた。また赤くなる。
「じゃあ街の外れの方だね、それならあたしも一緒に行こうか」
女は気にした風もなく返した。顔を寄せるたび甘い匂いがしてくらくらとする。
「さっきのみたいなのが居ないとも限らないしさ」
「お姉さんの方はいいんですか?」
んー、と女が額を掻く。
「どうせあの人、また妙な事に係わってそうだし」
何故か擽ったそうな顔をで呆れて見せる。
「それとさ」
女はマリエルの間近に顔を寄せた。
「お姉さんは、ちょっとない」
違ったって、ひとつかふたつでしょ。
そう云う間にもマリエルは飛び出しそうな心臓を押さえ込むのに必死だった。
容姿体形は言うに及ばず、自信があって落ち着きがある。
それはどんな歳の差よりもマリエルと大人を隔てる壁だ。
「おっと名前がまだだった、あたしザビーネ」
「十八です」
悶々とした思案の最中で無意識に歳が衝いて出る。気付いて慌てた。
「マリエル・ルミナフです」
妖美な笑顔で聞き流し、ザビーネは猫のように喉で笑った。
「ほら、ひとつしか違わない」




