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仮面ノ騎士  作者: marvin
断章Ⅲ
75/121

同盟

 再臨歴一九七七年、大陸東部

 シュタインバルト公国、フォルゴーン宗主領


 タチアナ・オーベルの先導で、皆は館の裏を行く。

 宗主領ではあるものの、元家令の住まいとしては些か鬱蒼とした場所だ。

 外れの森の際にある。

 侯爵の提示を保留して、変わらず不便な場所に居を構えているらしい。

「領府の重鎮が森住まいとは、下に示しが付かんのではないか」

 顔に間近な羽虫を払ってラピスが皮肉を零した。

 ラピスの掛けた一人の椅子には、大きな車輪が付いている。

 脚は悪くないものの、不慣れな場所を歩くのが面倒と云う理由で使っている。

 椅子はデボラが押しており、傍にはクロエがついていた。

 二人の警戒心は変わらない。

 むしろタチアナに対する敵意も未だ揺らいでいなかった。

「私が望むのは、もっと辺鄙な場所だ」

 先も教えぬ道行きのついでとタチアナが語る。

 シュタインバルト北端にテネブラという名の管理者不在の捨て地がある。

 険しい山の向こうは海だ。

 沿岸にあるのは猫の額ほどの村落ひとつ。

 沖には北方航路を望むが、その村には交易港がない。

 山に閉ざされ、本土に続く陸路がないからだ。

 山稜を貫いての街道整備は、古くからの夢だった。

 フォルゴーン家の悲願と言っても差し支えない。

 いずれ大陸から北方諸島への足掛かりにも成り得る未来だ。

「どうしてそんな話をする」

 ラピスが問う。

「償いに穴を掘れとでも?」

 テネブラの街道整備、北港開拓が断念されたのには理由がある。

 そこが根深い鬼獣の棲息地であり、隧道工事が困難な地形の為だ。

「目の不自由な子供にできるなら、あの子たちに掘らせている」

 タチアナに気付いて駆けて来る子供らを指した。

 館に引き取った孤児たちだ。

 十八歳のエドガーを筆頭に、カディフ、シラキア、オディ、ペグ、アジー。

 以前、ラピスの馬車に細工をした子供たちだった。

「おまえは鬼か」

 タチアナは碌な育て方をしていない。

 むしろ、そのように育てている節がある。

 見目はラピスも似たような歳だ。

 中身は歪に大人びているも、逆に外見は歳より幼い。

 黒布が眼窩を覆ってなければ、多少の印象も変わっただろう。

 ラピスは口許を顰めた。

 森の路が開けたかと思えば、蒸気の音がする。

 金属臭と土塊の匂い、さらには大きな機械音。

 まるで採掘場にでもいるようだ。

「此処は愚父の工房だ」

 タチアナが告げた。

「呑気な隠遁生活者だが、従軍鍛冶としては多少名も知れている」

 オーベル。タチアナ・オーベル。ラピスが口の中で名を転がす。

「まさか、エディオ・オーベルか」

「なんと、それはリリウムの娘か」

 声が重なった。

「父上、せめて身体を洗ってく来てださい」

 土埃に塗れた作業着を見て告げる。タチアナは容赦がない。

「それと、人に見られる前にあれを仕舞うように」

 口の悪い娘だろう、とエディオがラピスに囁く。

「黙りなさい」

「やれリリウムもルミナフも、娘には恵まれておるのにな」

 零しながら去って行く。

「愚にもつかない機械いじりに熱中し、公家の危機に役立たなかった男です」

 エディオ・オーベルといえば魔導工学マギノエンジニアリングの権威だ。

 古代工学(ミスエンジニアリング)では色位(ブランド)のライン・ルミナフと肩を並べる。

 盟友、もしくはその師に近い。

「エドガー、ロッサを納屋に入れてくれ」

 エディオが子供たちに声を投げる。

「ロッサ」

 エドガーが声を張り上げる。

 重機の響きが立ち上がり、クロエとデボラが首を大きく上に傾けた。

「ロッサ―」

 子供たちのはしゃいだ声が通り過ぎて行く・

『ウーラ、ラー』

 蒸気と金属軋む音が子供たちに応えた。

大型自律魔導機(ギュゲス)か」

 音でその規模を量り、ラピスが唖然と呟く。

「祠で発掘した折は鉄屑も同然でしたが、愚父が動かすに至りました」

 タチアナが答える。

「貴方には、これを手伝っていただく」

 何をさせる気だ。

「申しましたでしょう、穴を掘るのです」

 タチアナは言った。

 テネブラの山を吹いて港を造り街道を設けるのです。

「正直に申しましょう、シュタインバルトなどどうでもよい」

 いずれあの方はお戻りになる。

 必ず私が連れ戻す。

 私はその場所を用意しなければならない。

「爵位はもはや望むべくない、ならば私が国を造る」

 自立し、自衛し、世界を蝕む手にも及ばぬ国を。

「尽くしなさいラピス・ファリア、貴方には生涯を賭して償っていただく」

 こんな女に育てられたのか、あの男は。

 呆れたようにラピスは笑った。

「私もただ待つのは止めた身だ」

 よいだろう。

 償えと云うなら、そうしよう。

「冠を戴くと言うのなら、私もあの男に相応しい玉座を送ろう」

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