第4話
床に散った灯りを辿り、ザビーネは外れて飛んだ燈火を拾い上げた。
点灯具合を確かめつつ、佇むラグナスの許に戻る。
「怪我はないか」
声が問う。
ようやく掛けた言葉がそれか、とザビーネは半ば呆れた。
あの異形は幻か。そう思えるほどラグナスの頬には痕ひとつない。
タンカン。冥界ノ門。ギルーク・メッサーラ。
何より、ラグナス。
問いたい事が多すぎて、却って自分の混乱ぶりを冷めて眺めているほどだ。
「あんたも、あれに関係してるの?」
ザビーネは折れた石碑に目を向ける。
「言ったが、郷にも似たものはあった」
だが、タンカンの言う冥界ノ門とは物が違っているようだ。
恐らくザビーネには縁があり、それはラグナスの知る範疇にない。
ラグナスが此処を探していたのは、ある場所で地図を見たからだ。
大陸に幾つも印があった。それぞれの意味も分からない。
だがラグナスはそうした場所のひとつひとつを回っている。
助けねばならない人がいるからだ。
「君は、あれを知っていたようだが」
「あたしをこんなにした原因だから」
ザビーネは贄を捧ぐ邪法に巻き込まれたのだ。
タンカンの狙いも同じ類だったのだろう。
しかも恐らくこうした遺跡は、まだ各地にあるに違いない。
自分とも決して無関係ではない。
タンカンはラグナスを三四号と呼んだ。
彼らと繋がっているのは間違いない。
「どうやら似た物を追っているようだ」
ザビーネがラグナスに問う。
「あんたも復讐?」
ラグナスはザビーネに答える。
「復讐ではない、この身体はもう戻らない」
ふうん、とそれだけの感想を告げて、ザビーネは肩を竦めて見せた。
「でも、あたしはそうだから、ケリをつけなきゃいけないの」
何気に俯いたザビーネは朱い眼と目が合った。
ラグナスの抱えた黒鉄の兜は、まるで牙の生えた髑髏のようだ。
「噛みつかれそう」
ザビーネが笑った。
ラグナスはその反応に戸惑っている。これが悍ましさの象徴だからだ。
いい気味だ、とザビーネは思う。
怖がってなどやるものか。驚かされてばかりではいられない。
ふとラグナスの喉に血の筋を見つけた。髪から幾筋か垂れ落ちている。
「怪我してる」
ザビーネが頸に手を伸ばす。
びくりとラグナスが身を引いた。
「怪我じゃない、こういう仕様だ」
仕様って何だ。眉根を寄せてラグナスを睨む。
「一応、確認しておきたいんだけれど」
ザビーネの半目にラグナスは身構える。
転じたこの身は正視に耐えない。
仮面の下を問われても悲鳴が待っているだけだ。
「ラグナス」
話が噛み合ってない。
そんなラグナスの態度にザビーネは口を尖らせた。
「あんたはさ、あたしに触られても大丈夫って事で合ってる?」




