第5話
領館に知らせが届いたのは翌朝だった。
蒼白になったジェラード・グラル司祭が、自ら悲報を携えて訪れた。
負傷者をひとり伴っていた。
司祭は言葉を選んで委細を語る。
急拵えの施設に不備があり王太子を教会管理の他の地に移そうとした際の事だ。
王太子を乗せた馬車が路を逸れた。
司祭の連れた負傷者は、その馭者だ。
殿下が手綱を奪って逃げた。
馭者は拙い言葉でそう告げた。
千切れた書付けを差し出して見せる。
ラグナスの走り書きだ。
謝罪と懺悔、その一部だった。
放り出された馭者を見て、その場に居合わせた市民が後を追ったらしい。
追われた焦りもあったのだろう。
殿下の駆る馬車は暴走した。
街を飛び出し、崖路に迷った。
馬車はそのまま、渓谷に墜ちた。
悲報よりそれほどの時を経ず、シュタインバルトは現行の領主を喪った。
ルイ・フォルゴーン侯爵は、その以前より病床にあった。
王太子と共に気概を失い、事切れた。
メルシア・ベネットは心を削り、それでも沈む領民を鼓舞した。
その姿が国を支えたは確かだ。
タチアナ・オーベルは王太子の不名誉を解くべく奔走した。
その行程は全土に及び国家教会にシュタインバルトの存続を確約させるに至る。
そしてフェルクス・ルピアンは、公国と侯爵家に全力を尽くした。
不自由な脚を押し、自らが日々鬼獣討伐の陣頭に立って国土を死守した。
後に再臨歴一九七六年。
フェルクス・ルピアンが正式にフォルゴーン伯を継承し、領主となった。
メルシア・ベネットを妻に迎え、フォルゴーン旧家の血統を後世に繋いだ。
翌年、公国再建を見届けたタチアナ・オーベルは家令を辞する。
枯れた風の吹く領館の丘に立ち、彼女は独り色彩を欠いた稜線を睨んだ。
その眼には、未だ凍える炎があった。