表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面ノ騎士  作者: marvin
碧眼ノ魔女Ⅳ
62/62

第3話

 デボラに付き添われ階段を降りる。

 宿屋総出の見送りに、ラピスは小さく手を挙げて応えた。

 フォルゴーン伯との面会には三桁の待ちがあった。

 繰り上げたのは心付けだ。

 名目は、ラピスの保有する聖都の商会を代表しての挨拶だ。

 無論主題は別にある。

 今年の初め、丘の領館に魔物が出た。

 館勤めの衛士の妻が、そうした噂の元らしい。

 領府はそれを否定している。

 その一方、気になる噂も近辺にあった。

 曰く、王太子事件の当事者ジェラード・グラル司祭が行方不明になった。

 曰く、領館に程近い街の外れに見知らぬ兵の凄惨な騒乱の跡があった。

 曰く、真っ赤な鬣の馬を駆る髑髏の騎士が何処かへ駆け去った。

 ラピスは機嫌は一変した。

 人使いが荒くなり、領王との接触を目指して卑劣な手も尽くした。

 自ら人の前に出て、この眼に同情を買う事も厭わない。

 勿論まだクロエとデボラに武力行使を命じない程度には冷静だ。

 ベナレスとファーンも回収され、馬車で爪を研いでいる。

 クロエは厩の馬を曳き、その馬車に繋いで準備をしていた。

 ふと物音に振り返る。

 クロエの目の先に逃げ散る小さな背中があった。また近所の子供たちだ。

 何気に馬車に目を遣って異変に気付いた。

「どうしたの」

 ラピスの手を曳くデボラが声を掛けたのは、馬車の下から這い出るクロエだ。

「ガキどもに車軸をやられた、荷台の錠も弄られてる」

 苛々と叫び返す声を聞き流し、ラピスは気配に振り返った。

 ラピスが意識を向けたのを覚り、傍のデボラがその先に目を遣る。

 歩み寄るのは長身の女性だ。

「何かお困り事でしょうか」

 口調と姿勢に答え掛けたが、デボラの記憶に彼女はない。

 宿の者ではなさそうだ。

 デボラの警戒を肌で感じ、ラピスが代わって女に応じた。

「馬車が壊れてしまったようです」

「それはお困りでしょう、修理を手配をする間、少しお話しでもいかがですか」

 クロエがラピスの傍に立ち、鼻根に小皺を寄せた。

 女の向こうに子供の姿が見え隠れしている。

「陛下へのご挨拶について、それとも館に出た魔物のお話でしょうか」

 ラピスが問う。

「魔物に興味がおありなら」

 女は嫣然と微笑んだ。

 黒布で覆うラピスの眼窩にそれが映ると思っている。

 事実、意図は十分に通じた。

 二人に襲撃を構えさせつつ、ラピスは女性に向かってさらに問う。

「宿の方ではないようですが」

 女は頷き、微かな仕草をして見せた。

 通りに行き交う人々が不意に止まり、馬車の周囲に一斉に集う。

 ラピスと二人を人垣で囲んだ。

「私、この国の家令を務めておりましたタチアナ・オーベルと申します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ