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仮面ノ騎士  作者: marvin
碧眼ノ魔女Ⅳ
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第2話

「なにやってんだ、あいつ」

 窓下にしょげたデボラを見遣りクロエは小さく呟いた。

 聖都のような場所とは異なり、シュタインバルトの城下は生活臭が濃い。

 此処も高めの宿屋だが、周りは子供の遊び場だ。

 長旅の馬車が珍しいのかラピスのそれをよく覗き込んでいる。

「ありがとう、もういいわ」

 ラピスの声にクロエは髪を梳く手を止めた。

「では、葉を替えて参ります」

 軽く手を挙げクロエを止めて、ラピスは椅子に深く腰掛ける。

「デボラが戻って来たのでしょう、茶請けを見てから選びなさい」

 どうせ山ほど買い込んで来たか、貰って来たかしているだろう。

 目が見えなくてもお見通しだ。クロエは頷き櫛をしまった。

 旅の疲れを気遣っているのか二人の使いは大人しかった。

 主人のラピスが、そうだからだ。

 ラピスが社交の色も濃くお嬢様然としている場合、調子は下を向いている。

 研究に興が乗る折りはクロエに勝る辛辣さで、人を人とも扱わない程なのに。

 クロエの好みは、そちらの方だ。

 デボラなどに至っては自ら鞭打ちを望んでいる。

 ラピス自身も分かってはいた。

 期待外れによる無気力。

 我の通らない不機嫌。

 ラピスはそうした情動の処理が苦手だった。そも経験が殆どない。

 人並みに芽生えて数年、それまで情動に煩わされる事などなかった。

 人とは全く理不尽だ。

 シュタインバルトの長旅が、まだ無駄足と決まった訳ではない。

 驚きながら迎えてくれる、そんな馬鹿げた妄想をした訳でもない。

 なのに、理屈が感情に勝てない。

 事実として、シュタインバルトにラグナスはいない。

 王位と妻を奪われるまま、死と生前の汚名を雪いでもいない。

 あれが死んだとは思えない。国を棄てるとも思えなかった。

 ラピスが思い至らなかったのは、ラグナスがそれを自らの罪とした事だ。

 彼女には理解が及ばなかった。

 いずれラグナスには身を寄せる場所がない。

 密かに匿われているのではないか、それがラピスの最後の仮説だ。

 万が一、まだ自分を捜しているとしたら。

 それこそ馬鹿げた妄想だ。

 むしろ憎まれているだろう。

 気恥ずかしさと罪の意識で身が凍えそうになる。

 今のラピスには、世界の裏側から手掛かりを得る手段がない。

 父が身を引き眼を奪われて以来、情報網は隔絶している。

 間接的には手を尽くしているが、それは夜の海を弄るに等しい。

 手を食い千切られる危険と背中合わせだ。

 中でも深部に近い情報源、アデル・ルミナフを喪ったのは痛手だ。

 監視を逃れた罪深きもの(ブラスフェミア)は次代の脅威になるだろう。

 ただ、至近に知り得た快報もある。

 ガフ・ヴォークトの拠点が人獣の反乱で潰えた。

 ファルカパッド・ペレグリンの知らせだ。

 とは云えこちらも以降の連絡は途絶えたままクロエとデボラが気を揉んでいる。

 無論、此処からは追いようもない。

 表向き、ラピスはまだ放置されている。

 あくまでこちらが手を伸ばさない限りは。

 禁忌指定のシュタインバルトは彼らにとっても空白地帯だ。

 それでも余りに派手な動きはラグナスの生存を覚られかねない。

 ある意味、王位の簒奪も彼の身を隠す上では仕方のない事だった。

 廊下に騒々しい音が響いた。

 クロエが舌打ちして覗く。

 デボラが転がる果実を追っていた。

「お嬢様」

「こら、先に拾え」

 クロエが叱って扉を閉め掛ける。デボラは隙間に顔を挟み、口を尖らせた。

「領館に魔物が出たそうです、お好きですよね、そんな話」

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