表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面ノ騎士  作者: marvin
仮面ノ騎士Ⅱ
52/62

第4話

 樹林の縁で立ち止まり、二人は無言で荷を下ろした。

 此処がどうやら目的地だ。

「友好的に、とはいかないようだな」

 奥の気配は隠す気もなく拒絶の視線を刺し込んで来る。

 正面突破は試みない。

 二人は人獣の先にあるものを捜している。決して殲滅が意図ではないからだ。

 尤も、合意に至るに議論もあった。

 だが、潜入が難しいとの判断がひとつ。

 敵対は交渉決裂を以て望むと云う、ラグナスの強い意見があった。

 甘い、とファルカは思う。

 だが二人だけでは戦力差があるのも確かだ。

 勿論、大局の勝負は着いたも同じだ。

 この拠点が特定された時点で人獣たちに勝ちはない。

 討伐隊がやって来る。

 今頃、人獣たちは後続への標の類を必死に探して廻っているだろう。

 見つかる筈もないのだが、もはや不安は消しようもない。

 問題は、たった二人の敵を目の前に人獣が先を見通せるかだ。

 果たして彼らにそれだけの知恵はあるか。

 人への恨みを堪える理性はあるか。

 ラグナスナスは結えた頭陀袋を解き、それだけを自分の背に掛けた。

 奪って集めた得物は全て、山刀も一緒に足許に置く。

 どうぞ、とファルカに目線を投げた。

 むしろ、ラグナスが人獣を見定めようとしている。

 ファルカはそんな気さえした。

「人の言葉が解るなら聞け」

 頷きファルカが声を張った。

 樹々に向かって両手を挙げる。

「戦う気はない、話がしたい」

 日も暮れるかと思うほどの間を置いて、幹の裏から人影が覗いた。

 影は幾つも、頭上の枝上にも覗く。

 猿鬼(ゴブリン)よりも人に似て、ただし狗頭で毛に覆われている。

 咳き込むように唸る声が樹々に飛び交った。

 議論しているのだろうか。中には人の言葉に似た音もある。

「喰われそうになったら責任取れよラグナス」

 ファルカが小声で言った。

「なら君が彼らに料理を教えるのはどうかな」

 若い人獣の一喝が二人の処遇を決定した。


 囲まれたまま樹々を抜けると少し開けた場所に出た。

 白い毛並みの人獣が二人を先導する。

 恐らくだが、まだ歳若い。

 囲む獣毛の隙間から辺りを見渡し、ファルカは呻いた。

 畝がある、小屋がある、体型に推し量る他ないが老若男女の姿がある。

 人のない場所を選んで連行されてはいるが、集落があるのが見て取れる。

 猿鬼(ゴブリン)でさえ、ここまで人の真似はしない。

 小屋や物陰に息を殺す気配がある。

 無邪気に鳴くのは子供だろうか、叱責の唸りに引き籠った。

 思わず足を止めそうになり、ラグナスは乱暴に背中を押された。

「彼らの頸を」

 ラグナスがファルカに目線を促した。

 白や褐色の毛並みの上に黒い鉄の輪が捻り巻かれている。

 子供も含めて皆にある。

 小さな赤い灯の点いた拳ほどの小箱が組み付けられていた。

「何だか知らんが嫌な感じだ」

「そうだね、支配者がいる証拠だ」

 ファルカは鼻の根に小皺を寄せて、先を行く白い人獣に声を投げた。

「魔術師に会わせてくれ」

 咳き込むような唸りは笑い声だろうか。

「ガフ・ヴォークトだ、いるんだろ」

 立ち止まる。

「何者か」

 誰何の声は上から聞こえた。

 少し登った斜面の先に大きく着膨れた人影がある。

 喰人鬼(オーグル)と見紛うばかりの大男だ。

 飾り鎧でも着込んでいるのか歪に外套が張り出している。

「今、ヴォークト卿の名を口にしたな」

 白い獣人は小さく唸って、男の連れた人獣を睨んだ。

 推し量るより他にはないが、彼の思惑を裏切ったのだろう。

 手下のような人獣が、着膨れ男に告げ口をしたようだ。

「少し話をしたくてな」

 ファルカが前に声を張る。

 男は白い人獣に向かい、連れて来いと手で示した。

 彼は束の間躊躇うも、ファルカの腕を引いて斜面を登った。

 突かれてラグナスも後を追った。

「何処で聞いた」

 寄れば男は見上げるほどだ。しかも異様に嵩高い。

「親父の古い知り合いでね」

 何の先触れも動作もなく男の肩から何かが伸びた。

 ファルカの喉を切っ先が掠める。

 白い人獣が腕を引き、ファルカは辛うじて身を躱した。

 鋭い鉤爪、鋼の節目、人ほどに伸ばした蜘蛛の脚。

 ファルカがそれと見て取ったのは、眼前に掴み止められていたからだ。

「ラグナス」

 鋼の撓む音がした。

 眇めるように目を細め、男はラグナスを睨め付ける。

「どうやらこの先に居るようだ、行って目的を果たすといい」

 ファルカに言って一瞥を投げる。

「もしも碧い眼の女の子がいたら、必ず助けると伝えて欲しい」

 ラグナスは負った頭陀袋を掴み、男の鍵爪を払った。

 鉄を打つような音がした。

 袋が避けて転び出たのは髑髏のような鉄の兜だ。

 掴んでラグナスが頭に被る。

 頬を覆ったその刹那、ファルカはそこに黒く裂けた魔物の顔を見た。

「行け、ファルカ」

 髑髏のような面を閉じ、牙のような顎当てを噛み合わせる。

 見るな、と請われたような気がしてファルカはその場を駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ