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仮面ノ騎士  作者: marvin
鉄面ノ亡霊Ⅲ
32/62

第1話

 再臨歴一九七五年、大陸中央

 ランズクレスト公国マルコシアス自由市場


 馴染みの店に手を振って、ファルカは荷袋を抱え直した。

 ぶらりと通りを歩き出す。

 背の忍び足には知らぬ振りをした。

「今夜は何を作る気さ」

 不意にチャニが袋を覗き込む。

 日持ちの煮物を作り置くつもりだと告げた。

 驚かないファルカに少し口を尖らせる。

「厨房があったら雇ってあげるのに」

 チャニはファルカの下宿の娘だ。

 暇を見ては付き纏って来る。

「きっと今より実入りは多いよ」

 確かに失せもの探しの手伝いよりは。

 溜息混じりに聞き流し、ファルカは必要以上に近いチャニを押し遣った。

 チャニの安宿を拠点に居つき、済し崩しに探偵の看板を下げたのは二年も前だ。

 シュタインバルトで出会って以来、気付けばオベロンとも、もう四年になる。

 よくも一緒にいるものだ。

 そして、随分遠くまで来た。

 聖都の雑多な界隈も、今ではそれなりに馴染んでいる。

 商いの評判も悪くはない。

 失せもの探しはオベロンの特技だ。

 酒場で集めた噂話を元手に裏側を辿る。

 転寝ばかりの酔っ払いが、何故にぴたりと言い当てるのかは企業秘密だが。

 とは云え探偵の看板は大層だ。

 余計な面倒が降り掛かる。

 踏み込む加減を違えば、途端に危うい事になる。

 そうした際がファルカの出番だ。

 つまりは貧乏籤しかない。

 危険と気苦労が多い割に実入りが少ない。

 それも食い扶持の為。

 そして、目的の為だ。

 自身に起きた謎の出来事失踪した知人の手掛かりをオベロンは未だ追っている。

 ひとつはシュタインバルトで彼の世に消えたが、ノウムカトルで新たにも得た。

 鉄面の司祭だ。

 聖都へは、その足跡を追って来た。

 今も彼方此方を探っている。

 とは云えファルカも漫然と今ある居場所に縋っていない。

 あくまで今は朧気だが。

 かの王太子の一件は、今も意識の底にある。

 自身の在り方、証明を思う彼の動機だ。

 ファルカの手にある糸口は、血泡に紛れたガフ・ヴォークトと云う名前だけ。

 今は、その魔術師を探している。

「何あれ」

 チャニが見上げて怪訝に突ついた。

 ファルカが目を追い、頸を反る。

「凄い美人さん」

 確かに声も上げるだろう。

 見目麗しい十六、七の少年だ。

 ただ、どう登ったか。

 梯子もない街燈の天辺に危なげもなく立ち、ぼんやりと人混みを眺めている。

 二人と同様、辺りも騒めいていた。

 立ち止まって見上げる者もいる。

 人混みを割って揃いの制服が駆け寄った。

 四、五人が街燈を囲む。

 その際、制服にチャニが押し遣られた。

 下唇を突き出して睨む。

 市街とあって帯刀こそないが見目に衛士だ。

 都兵国軍の類ではない。

 制服の紋を見るに何処か直轄領の所属だ。

 街燈の少年は、ぼんやり足下に目を遣った。

 何気にするりと飛び降りる。

「あいつら、落とした」

 チャニが衛士を指差して声を上げた。

 釣られて辺りが騒めき立てる。

 勝手に飛び降りただけだ。ファルカは呟き、衛士に囲まれた少年を眺め遣る。

 どうにも人の匂いがしない。

 オベロンとはまた違う感覚だ。

 青年が人混みを割って駆け寄った。

「勝手に出歩くなと言っただろう、ダリル」

 少年と言葉を交わし、衛士に目配せをする。

 慇懃無礼な断わりを入れつつ、衛士らは二人を囲んで去って行った。

 青年の手前、今度は丁寧だった。

「何なの、あれ」

 後を付けそうになるチャニを引き戻し、ファルカは安宿に向かって歩き出した。

 余計な好奇心は面倒の元だ。

 それは幾度も身に染みていた。

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