第2話
広い穹窿の只中に三四号が佇んでいる。
円蓋の灯火が煌々と下の朱色を照らし出す。
対峙するのは数名に満たない。
それも小さな窓の先だ。
小窓には城塞壁ほどの厚みがあり、硝子に優る透過性がある。
無意識の怖れを体現しているかのようだ。
顔を覆った術衣の〈教授〉、その傍らにはガフ・ヴォークトがいる。
加えて検証の舞台を段取る幹部技師たち。
ラピスは影を映していない。
姿はないが、元より同じだ。
彼女は亡霊と同じだからだ。
そして、賓客の照覧窓が並んでいる。
過剰な燈はその為だ。
瞭然とその様を映し撮り、遠く遥かなそれぞれの秘所に配り伝えている。
無線霊信器の向こうには、〈黒司教〉と〈修道女〉がいる筈だ。
世に名の知れた大魔術師の裏面。
彼らは無数の眼で三四号の屠殺を見守る。
群れなす大蜘蛛、猿面鳥の空襲。
組織化された猿鬼、大狼。
指揮する喰人鬼。
果ては鬼獣の最たる巨人、奈落の獣。
石堂は夥しい血肉に埋まった。
『もっとください』
喉の潰れた掠れた声が囁く。
『もっと、もっと』
〈修道女〉の声に抗えず、幹部技師は制圧隊の門までも開いてしまった。
国家教会も所持し得ない最新鋭の殺戮部隊。
即ち人だ。
少なくとも人であった者で構成されている。
三四号の拳が固い。
ラピスだけが、その徴を知っている。
背に腹は代えられなかった。
妖精眼の触肢を伸ばし、頭具の投与器を全てを空にする。
せめて理性を迷わせた。
殺戮が始まった。
強固な地盤に掘り抜かれた石堂が鳴動した。
封殻魔術を極めた蒸気炉が幾つも破裂し、都度に円蓋を圧し拡げる。
掠れた嬌声と息遣いを背に、錚々たる魔術師が畏怖に凍り付いた。
悉くを圧倒し、容赦なく殲滅し、間もなく三四号は再び静寂の中にあった。
踏みしめた屍を掴み上げ、むしろ怪訝とした動作で頸を捩じり切る。
声を上げた。
面を抑える顎当てが落ち、裂けた口許が露わになった。
ラピスは異様な風鳴に慄いた。
それは三四号の腹部にあって怪鳥のような音を立てている。
星辰界の鳴動だ。
星辰態の触腕が風鳴と共に腹から伸び出て屍を攫って行く。
魂を喰らっていた。
『殺せ』
悲鳴のような割れた声が鳴った。
『破棄せよ、抹消せよ、一片も残すな』
皆の意識が引き戻される。
「何故です」
破棄の宣言に〈教授〉が悲鳴を上げた。
〈黒司教〉は応えない。
茫然と問い返す〈教授〉を突き飛ばし、ガフ・ヴォークトが制御器を奪った。
介入する間もなく頭具の内が破裂した。
三四号が棒立ちになった。
厚い小窓を間に挿んで、絶叫する〈教授〉が先に床に頽れた。




