第4話
守門の数が増えている。
普段にも増して、は当然の事だろう。
ただし交付は未だない。
大聖堂も苦渋の策だ。
駆り出されている守門自身も、互いに複雑な表情を噛み殺している。
ファルカは何気に通りを歩く。
人目がないのを見計らい、宵闇に紛れて塀を越えた。
背よりも高いが問題はない。
こうした特技を見抜かれていたとは、オベロンもなかなか侮れない。
それとも只の勘だろうか。
敷地に降りて木陰に隠れる。
立ち入り制限の区画の筈だ。
田舎の聖堂に監禁室などある筈もない。
何処か施錠の適う部屋が供されている筈だ。
人の通らぬ区画を探る。
むしろ遠ざけられているだろう。
感覚的に当たりを付けた。
潜みつつも近づくと、立て付けた目隠しの板には見慣れぬ紋様が描かれていた。
聖霊術の術式だ。詳しい事は分からない。
異端審問とは斯くも大仰か。
などファルカはひとり呆れた。
そうと思うと気のせいか、妙に黒々としたものが辺りに淀んでいる気さえした。
「見張りかな」
壁の向こうで声がした。
気付かれたかと毛を逆立てる。
「もう陽も落ちたし僕も寝る、心配しなくても逃げやしないよ」
王太子だ。
「その」
ファルカは咄嗟に応えてしまい、慌てて会話を遮る為の言葉を探した。
「頑張れ」
自分は何を言っているのか。
頭を抱えて後退る。
ありがとうを背で聞いてファルカは一層赤くなりそのまま別棟に走って逃げた。
ともあれ王太子の居場所は確認できた。
聴取を行うのもあの部屋だろう。
先の王太子の言動からして、今日の審問はもうなさそうだが。
思う傍から廻廊を歩く人影がある。
クスト・ルフォール審問官だ。
人相が的確過ぎて笑いそうになった。
にじり寄り掛け身を留める。
どうやら思いの外気配に聡い。
まるで蜘蛛だ。
薄灰色の無色の審問官の両眼は、網を踏む得物を見ようで居心地が悪い。
王太子には近寄り難いが狙いがこの男だけであれば出入りを確かめ追うだけだ。
審問官を遠目に距離を取る。
だが中々自室に戻らない。
気付けば一般区画だった。
擦れ違う者に二言三言の声を掛け、クスト・ルフォールはただ延々と歩き回る。
思い立ち、ファルカは追跡を中断した。
擦れ違った者を見定め教会の外に出る。
そこからが長かった。
彼らは街で二次、三次、四次と取り次ぎを繰り返して行く。
ファルカがようやくオベロンの宿に帰り着いたのは真夜中も疾うに過ぎた頃だ。
「足の段取りだ、移送か移動が直近にある」
オベロンにそれだけ告げると、ファルカは早々に寝床に潜り込んだ。




