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仮面ノ騎士  作者: marvin
化身ノ狩人Ⅱ
19/62

第2話

 公布はまだだが、噂は早い。

 一昨日の出来事がもう城下にまで圧し掛かっていた。

 尾鰭を付けて拡がっている。

 三月足らずに戴冠を控えた王太子が、よりによって異端の疑いで収監された。

 そぞろ歩く下街は目に見えて沈痛だ。

 それほど王太子の人気は高かった。

 確かに、あれは好かれる笑顔だ。

 思い起こして肩を竦める。おかげでファルカも職探しどころではなくなった。

 かといって懐は寒い。

 何せこの国に流れ着いたばかりだ。

 宗主領の城下は良い街だった。

 区画の出入りに昼夜はあるが、暮らす人の顔にはそれがなかった。

 ファルカが王太子の為人を聞き知ったのも、そんな街の一角だった。

 そも国の世継ぎが隣人の如く下町をそぞろ歩く光景をファルカは知らない。

 それが街の横串でもあったのだろう。

 今となっては国の風向きさえ怪しい。

 他所の者ほど綻びは早い。

 そんな姿を多く目にした。

 昼間から飲んだくれた奴がいる。

 一昨日とは酒が違っている。

 落ち込む。憂える。自棄になる。

 詮無い相手に管を巻く。

 大方、戴冠式の稼ぎを目当てに来たものの、その目論見を外された輩だろう。

 鍔広帽子の暑苦しい外套の男なぞ、昼間から潰れて軒の机に突っ伏している。

「ラグナスさまは悪くない」

 子供が酔っ払いを叱りつけた。

 王太子をあからさまに詰っていた男が子供に向かって大人げなく椅子を蹴った。

 健気に睨む子供を無意識に抱え、ファルカはやれやれと背を向けた。

 大事な時期に隙を見せた王太子も注意が足りなかったのは確かだ。そうは思う。

 思いながらも、ファルカは子供の頭をひと撫で、通りの先に押し遣った。

 信じたいように信じな、と呟く。

 気の収まらない酔っ払いは、屈むファルカの背に苛々とした鉾先を向けた。

 蹴り上げた脚を何気に引っ掛け、ファルカは酔っ払いを道に転がした。

「なあ、アンタ」

 見おろして訊ねる。

「訊くのもなんだが、働き口はないかな」

「そこ溝でも攫ってな」

 泡を飛ばして掴み掛かって来た。

 そんなものがあるなら上等だ。管を巻く間で日銭が稼げるじゃないか。

 ファルカは向かって来る酔っ払いの男を軽々躱し、蹈鞴を踏んだ相手を見遣る。

 不意に男の頭に酒瓶が撥ねた。

 白目を剥いて頽れる。

 後ろに人が立っている。馬手袋で鍔広帽子を押さえだ裾長の外套の男だ。

「働き口を探しているのかな」

 酔っているような足取りだが酒臭は薄い。

 むしろ服に酒を擦りつけている。無臭を誤魔化すような妙なわざとらしさだ。

「オッサン、何者だ」

 つれないファルカに鍔広帽子が呻く。

「オッサンって君、僕とそう歳はそう変わらないだろ」

 分かる訳がない。

 御大層な装いで顔も肌も見えないのだから。

「暇なら僕に雇われないかな」

 見るからに怪しい。

「まあ怪しいのは確かだが、そこはお互い目を瞑ろうじゃないか」

 自身の身形を棚に上げ、勝手な事を言う。

 見目怪しいのは当人だけだ。

 とは云えファルカも人とは違う。

「僕はオベロン、探偵だ」

 まるでファルカの逡巡を見透かしたように、鍔広帽子の男はそう名乗った。

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