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仮面ノ騎士  作者: marvin
エピローグ
127/127

騎士の帰還

 再臨歴一九八二年、大陸東部

 シュタインバルト公国フォルゴーン宗主領


「受勲、拝領のみならず」

 歳若かいエドガー、家名を得てエドガー・スクレットは頭を下げる。

「この我儘を御聞き届け戴き、有難うございます」

 ならば、その奇怪さに自覚もあるのだろう。

 フェルクス・ルピアンは鷹揚に頷いた。

 恐縮するエドガーを見れば、確かに童顔だ。

 傍らに座したタチアナの杞憂にも一理はある。

 だが歳若いとは云いながら、フェルクスとは四つの差だ。

 シュタインバルトの領王と、そう変わりはない。

「ですが、本当に」

 叙勲の式をこの後に控えても、まだメルシアは気にしている。

 領地についてだ。

 後見のタチアナ・オーベルが求めたテネブラ領は、捨て地だった。

 シュタインバルト北端にあって、その大半が山嶺と森林。鬼獣の巣だ。

 豊かとも云えぬ北部沿岸に細々と隘路が続くだけの領域。

 土地こそあっても、民がない。

「望んだ事です」

 エドガーの隣席でタチアナが頷く。

 北港開拓はフォルゴーン家の悲願だ。

 それを領地とする為に、泡沫貴族の遺児を引き取り、騎士の受勲を願い出た。

 反対したのはフェルクスも同じだ。

 タチアナの為し得た貢献に比して、むしろ懲罰とも取られかねない。

 とは云え、それこそが狙いでもあるのだろう。

 今のシュタインバルトには優遇勢力の勃興こそ懸念だ。

 我が地を召されはしまいかと戦々恐々の諸侯らからは、概ね歓迎されている。

 むしろ、それが空しくもあった。

 故に、奇異を重ねるのも良しとした。

 歳若いスクレット候が得るのは鬼獣の荒れ地だ。

 あのテネブラの拝領となれば、領王には多少のはったりも必要だろう。

 叙勲に際して、せめてもの威厳を見せたい。

 畏怖を、むしろ恐怖するほどに。

 エドガーとタチアナはそう告げて、式典に奇異な策を申し出たのだった。


 異形の叙勲(アコレード)だ。

 諸侯、騎士侯が居並ぶ授与式の間は慄いた。

 朱く敷かれた道の上を仮面の男が歩いて行く。

 髑髏のようなその兜。血のように朱い眼の覆い。噛み締めた牙の如き面。

 儀服に締めた朱い襟布が翼のように翻る。

 男は領王フェルクスの前に進み出て、跪いた。

 肩に儀仗の剣を受ける。

 隣の司教は勿論の事、任じた領王までこそが、それを間近に慄いていた。

 なお目を惹いたのが彼の随行だ。

 後見タチアナ・オーベルを筆頭に、その纏まりが見当たらない。

 強く涼しい目をした美丈夫。

 黒と朱の妖艶な剣士。

 対に真白の碧い眼の少女。

 控える御付きの二人もまた艶やか。

 さらには稀有な美少年、寄り添う怜悧な女魔術師。

 鍔広帽子の怪しい男。

 年端も行かない幼い少女。

 騎士と勲された仮面の男が壇に立つ。

 記章を手にしたメルシア妃が歩み寄る。

 五歳の王女が追随し、その衣の裾に隠れるように仮面を見上げた。

 健気に立つも、裾を掴んだその小さな手は硬く震えている。 

 騎士は記章を受け取ると、幼い王女の前に跪いた。

 恐怖に竦む。だが、構わない。

「君の花を護ると誓おう」

 騎士はくぐもる声で小さく囁いた。

 立ち上がり、皆を振り返る。

 畏怖と奇異の視線を割って、仮面の騎士が歩いて行く。

 翻る朱い襟布に隠れ、メルシア妃の怪訝な表情は見えなかった。


 騎士テネブラ侯スクレット、それが彼の新しい名だ。

 彼の過去を奪った暗闇は、今もなお何処かで蠢いている。

 晒した仮面は宣戦布告だ。

 彼は人の自由のために闘い続ける。

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