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仮面ノ騎士  作者: marvin
幻界ノ魔神
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第24話

「よし行こう、早くしないとまた上がって来るぞ」

 ファルカがダリルを連れて駆け出した。

 三層天蓋裏の中央に開いた吹き抜けを目指して走る。

 昇降路こそ落ちてないが、上層を目指す鬼獣は次々と這い登って来る。

 ラグナスが天蓋裏を横切って駆け抜けていた。

 要所の通気口に蒸気炉を投げ落とす為だ。

 デボラが圧搾銃に使っていたものがひとつ。

 オベロンが鎧に備えていたものがひとつ。

 ふたつの閉鎖型高圧蒸気瓶(スチーム)はラピスが手を入れていた。

 一定時間で破裂する。

 それは上層崩落の補助装置であり、襲撃の秒読みだ。

『三〇、二九、始まったぞ、さっさと位置につけ』

 声が届いた。

 ダリルの砲は諸刃の剣だ。

 遺構のような閉じた間は、どれほど広くも灼熱の反動が荒れ狂う。

 破裂した大気が柱を天蓋ごと吹き崩すだろう。

 それを斑なく削り落とすのが蒸気炉の補助だ。

 当然、射撃後はダリルの足場も失せる。

 抱えて退避させるのがオベロンの役目だった。

 数瞬を惜しんで飛ばねばならない。

『ねえ、君らの知り合いの女性ってさ、少し怖くないかな』

 オベロンが回線に乗せて呟いた。手入れ途中の彼の鎧は上層だ。

 今はエチカの中継で辛うじてオベロンの声だけが聞こえる。

「怖い女は慣れたもんだろ」

 ファルカが小声で言い返す。

「マリエルは優しいよ」

 ダリルが的外れに口を挟んだ。

『そう言えば、彼女も僕には厳しかったぞ』

 オベロンが嘆く。

『二〇、十九、無駄口を止めて構えろ』

 ダリルが人真似に肩を竦めて吹き抜けの縁に屈み込む。

 指定の位置を選んでにじり寄った。

 不意に眼前が大きく翳る。巨大な掌が突き上げた。

 ダリルの脚ほどもある太い指が寸先の床を掴み込む。

 焦れた巨人(ノール)が這い登ろうとしていた。

 蹴り払おうと乗り出したファルカを黒い影が跳ね上げた。

 猿面鳥(ハルピア)だ。ダリルを飛び越し縺れて転がる。

 その間に一方の手が伸びる。

「準備を」

 駆けるラグナスが跳び込んだ。巨人(ノール)の腕を掴み、身を躍らせる。

 下まで抜けた宙の只中、ラグナスの軌跡が弧を描き腕を逆手に捩じり飛ぶ。

 巨人(ノール)が苦悶の声を上げた。

 縁に掛かった指先を自身の巨体とラグナスが引き下ろす。

『一〇、九、砲身展開、角度を合わせて』

 ダリルは巨人(ノール)の指越しに腕を合わせて突き出した。

 腕が形を変える。

 砲身から伸びた髪一筋の照準誘導が遥か一層の鬼獣に射した。

 ファルカが猿面鳥(ハルピア)を毟り取り、頭を潰して吹き抜けに駆け寄る。

「ラグナス」

 宙で目が合い頷いてラグナスは大きく身体を振った。

 巨人(ノール)の指先が擦れて滑る。

 腕を掻いて駆け上がり、ラグナスは巨人(ノール)の肩を踏み蹴った。

 巨人(ノール)の巨体が剥がれて落ちる。

 落下と上昇が相殺しラグナスの身体は宙に浮いた。

 見えないオベロンの手が掴む。

 吹き上がるラグナスの手を取ってファルカ床に引き上げた。

『四、三、二』

「走るぞ」

 縺れるように転がって、言うなり通廊に飛び出した。

『一』

 二人の足下が爆ぜ上がる。

 視界の端にもうひとつ。仕掛けた蒸気炉が破裂した。

 揺れ飛ぶ石を踏み跳んで、ファルカとラグナスが駆け抜ける。

 吸い込まれるように音が止んだ。

 駆ける二人のすぐ側をダリルの身体が飛び過ぎる。

 薄闇が転じて閃光に爆ぜ、辺りは何も見えなくなった。

 ファルカとラグナスが空を掻く。

 真白に飛んだ視界の中を通廊と信じて走り込む。

 岩ほど硬い突風が二人の背を押し突き上げた。縺れて宙に圧し飛ばされる。

 音はない。疾うに可聴を越えていた。

 壁に打たれて炙られた。延々続いて止むことがない。

 その足下には冥界(ゲヘナ)があった。

 教会が語って聞かせるに似た架空の冥界(ゲヘナ)、火の地獄だ。

 ダリルの直射は対象を気化して残さず、その周囲は白く溶け溢れた。

 破裂の大気は二層を浮かせ、軒並み落ちて一層を埋めた。

 見る間に赤く溶け崩れ、石が炎を噴き上げる。

 支柱を欠いた三層が、火事場に土を掛けるが如く連鎖で落ちて蓋をする。

 抜けた遺構の大空間は、灼熱の窯と化していた。


 熱風に炙られるまま、時を数えて暫し。

 通廊を降りたラグナスとファルカの周囲を白く焼けた噴煙が埋めていた。

 床は壁際を残すのみ。三層の天蓋は跡形もない。

 覗き込むのも儘ならないが、底の一層は火口の呈だ。

 動いているのは爆ぜた石だけ。

 否、二層の一角が辛うじて残り、落ちた天蓋が積んでいる。

 渓谷開口の近くだろうか、こと頑健に造られていたらしい。

「ラグナス」

 ファルカが呼んで指差した。

 そこに蠢くものがある。

 瓦礫と死んだ鬼獣を盾に巨人(ノール)が未だに藻掻いている。

 ラグナスが頷き天蓋の縁を走る。

 意図を察してファルカも駆けた。

「行くぞ」

「応」

 宙に跳ぶ。身体を捻る。二人の足先が空を切り裂き蹴り込んだ。

 まるで雷を打つ如く、二人が宙を斬り駆ける。

 風を焼き切る白い尾を引き巨人(ノール)を裂いてなお床を破る。

 残った柱も諸共に、砕けて階下に石雨を降らせた。

 白煙、粉塵、外気に再び爆ぜた真白の蒸気が、辺りに白く吹き荒んだ。

 轟々とした唸りが過ぎる。

 通廊の開口からダリルが下を覗き見た。

 オベロンが子猫のように後ろ首を吊り下げる。

 抜けた階下に身を乗り出すと、底で瓦礫が跳ね転がった。

 ラグナスが身を起こした。

 手を引きファルカを立ち上がらせる。

 遺構の門が崩れ落ち、渓谷が空に裂けていた。

 二人は並んで朝に立ち、白む一筋を共に見上げた。

 共に在る。兜の下のラグナスの異形は唇を噛んで微笑んだ。

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