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仮面ノ騎士  作者: marvin
幻界ノ魔神
123/125

第22話

 その組織に明確な名前はない。

 ランズクレストを大陸や世界の名に冠するが如くだ。

 内からそれを指して呼ぶ事、並べて比する事がないからだ。

 魔術師や技術者、その血族からなり、その何れもが人智を凌駕している。

 多くは互いに干渉しない。

 だが結束は緩くない。むしろ逃れる事などできない。

 組織の庇護と恩寵の下に生まれた者は例外なく血清の洗礼を受ける。

 互いの実験に供される。

「私も、この娘らもそうだ」

 ラピスはクロエとデボラを見遣る。

 獣も同然の有り様だったが、人の姿を留めていただけましだ。

 否、その以前に八割ほどが死に至る。

 それほどのものを捧げても、彼らにはまだ得るものがある。

 地位の約束、罪からの庇護。法と教義の著しい逸脱も社会的に封殺される。

 何より、己の智の探究に資金と物資が融通される。

「あたしもダリルもラグナスも、そこの兄さんとオッサンも」

「ファルカだ」

「オベロンって呼んでね」

 憐憫は買わない、とばかりにザビーネは言い放つ。

「みんな、その探求とやらの犠牲者って訳だ」

「そうだな」

 ラピスは頷いた。

「その通りだ」

「だが、何処にそんな支援者(パトロン)がいる、目的は何だ」

 ファルカが呆れて口を挟んだ。

 勿論、存在を疑ってはいない。それは身を以て知っている。

 ラピスは静かに首を振る。生まれ育った自分にも、その全容は見えなかった。

 地位、経済に物資の流れ、確かにそれらは在る。

 なのに起因と帰結が消えている。

 闇に融け入る亡霊のように、それには掴み所がない。

 世界(ランズクレスト)が欲しくば疾うに手に入れている。

 目的は、ただ智の探究だ。

「異端の結社か」

 オベロンが囁く。発声機構の手入れがてらで、声はまだ乾いて割れている。

「確かに異端だ」

 教義どころか人理もない。

「むしろ一切の信仰を廃した反教会だ」

 ラピスは自嘲する。

 そも探求の根本が、御柱の恩寵たる技術の外だ。再臨歴以前に礎がある。

 冥界ノ門(デュミナス)罪深きもの(ブラスフェミア)神化生物(ミスバイオロイド)。いずれもそうだ。

「そうだな、異端の教義に類するならば創世史学(ジェネソロジー)か」

 ラピスの言葉にラグナスが身動ぐ。その名の覚えにファルカが目を遣った。

「はてライン・ルミナフの書庫でも見たぞ」

 オベロンが横から呟いた。

「いや、思えばシルベルト・クラウザの地下蔵にも似たものがあった」

「オッサン、覗き見し放題だな」

 ファルカが唸る。

「僕は聖都で存在を知った」

 ラグナスが目を伏せる。

 運命を変えた遠因だが、その歯車を回したのは自身の好奇心だ。

 誰を責める事もできない。

「異端の秘事だ、滅多に明かされる事はない」

 よほど気に入られたのだろう、とラピスは独り言つるように呟いた。

 ラグナスは脳裏を辿り、ラピスに問う。

「だが冒頭に聖典の引用があった、全くの否定とも思えないが」

「認可なき聖典の探求は異端だ」

 ラピスが笑って釘を刺す。

 性根はこの様だ。自身に呆れるラグナスをザビーネが小突いた。

「魔術師気質は根からだし」

 ふむ、とラピスが肩を竦めた。

「聖典か、見たのは恐らくこの一節だろう」


 闇より黒き亡霊の如く

 禍迫りて蝕み喰らう

 其は、蝕禍

 御代を堕としむ地獄の群


「魂を蝕む禍い、翻って野火の如く拡がる反教会思想を表す一文だ」

 指摘にラグナスは複雑な顔をする。

「そうなのか、僕はてっきり冥界(ゲヘナ)の事かと思っていた」

 覗き見た書の次の頁に冥界(ゲヘナ)の八つが記されていたからだ。

 あの折りフェルクスの事故があり、ラグナスは遊学を中断した。

 もしも帰郷していなければ、同じ所に墜ちていたのだろうか。

 オベロンが割れた声帯を弾く。

「蝕禍、秘密の結社、そも確信犯だねえ」

 鎧の具合を確かめるように、肘を鳴らして両手を掲げて見せる。

「人に害を為すと自覚してる、それとも御柱が嫌いなのかな」

「で、その輩が此処を狙っておると」

 エチカが口を尖らせる。

星辰界(アストラル)海嘯の中心だからな、実験がてらの調査だろう」

「実験?」

 ラピスの言葉にファルカが問う。

「鬼獣の制御だ、恐らく巨人(ノール)を知性化し、群れを操っている」

「それは、質が悪いな」

 顔を顰めて呟いた。

 世界は鬼獣で隔てられている、云わば生きた国境線だ。

 その良し悪しを置くならば、おかげで人は同類で争う余裕がない。

 大量の獣が自在にできれば、それは国域を操るに等しい。

「阻止しよう」

 迷う事なくラグナスは断じた。

 言うと思った。

 ファルカもラピスもザビーネも彼に目を遣り、互いにその目線に気付いた。

「それじゃあ作戦を考えなきゃな」

 言ってファルカは破顔した。

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