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仮面ノ騎士  作者: marvin
幻界ノ魔神
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第21話

 夢を見ている。

 夢だけを見ている。

 身体の時は止まったままだ。

 冥界(ゲヘナ)の手前に漂う波動が意識の端子を励起している。

 思索に至るは微弱に過ぎた。故に、これは記憶の混成に過ぎないのだろう。

 だが、悪夢ではない。

 悪夢は全てあの人が拭って捨てた。

 だから、ラグナス夢を見る。

 決して見飽きる事のない夢だ。

「ザビーネ」

 ただ、その声が本物ならば。匂いが記憶でなかったら。

 潰れてしまいそうなほど強く、このままずっと抱き締められていたい。

 胸の吸気を押し出すほどに、強く。

 

 ザビーネは咽るように息を吐き出した。

「ザビーネ」

 頸筋に名を呼ぶ声を聴いた。

「ラグナス」

 呟く。

「ラグナス」

 確かめる。

「ラグナス」

 声を上げて胸に縋った。

 髪を撫でる掌に頸を伸ばし、頭を擦りつける。

 意識が熱く溶け落ちそうだ。

 はた、と気付いてラグナスの胸を突いた。

「此処は何処、あいつらはどうなった」

 身体を引き剥がし、慌てて辺りを見渡した。

 間近に立ち上がる黒い石碑に思い切り顔を顰める。

 床の際にある隙間から淡く陽の射す石造りの広間だ。

 十歳に満たない見目の少女。

 見覚えのある美しい少年。

 体格の良い長身の男は口笛を堪えたような顔をしている。

 足許に蹲るのは鍔広帽子を乗せた襤褸切れ。否、裾長の外套か。

 この二人も、どこか記憶の隅にある。

 覚えがないのは女衆だ。

 こと肩寄せ合う三人。

 蛇のように艶めかしい女と、はち切れそうに豊満な女。

 見目十四、五の碧い眼の女。

 ザビーネが目を眇める。

 視覚というより匂いに似た感覚で鼻根に小皺を寄せる。

「人に憑いたのか」

 立ち上がりつつ剣の柄を探る。

「心配いらん、第五階梯(ザメル)の眷属は人の身に墜ちた、害はない」

 少女が似合わぬ言い回しでザビーネに説いた。

 ザビーネは傍のラグナスを見上げ、彼が頷くのを待った。

 ラグナスは、何か想いを噛み殺したような顔をしている。懊悩だ。

 一拍の間を置いて頷いた。

「わしはエチカと呼ぶがよい」

 少女が何気に自慢気に名を告げる。

「僕は」

「ダリルだ、ダリル・カデット、マリエルの連れだ」

 思い出してザビーネが言うと、ダリルは嬉しそうに頷いた。

「それと、あんたらは何か、見覚えがある」

 隣に目を遣り眉根を寄せる。

「たぶん」

「まあいいや」

 手を振りファルカの言葉を遮って、ザビーネは三人の女に向き合った。

「人の身なら、そうね、斬ったら死ぬの?」

 問いを投げて目を細くする。

「クロエとデボラは安定している、おまえが手を出す必要はない」

 答えた少女の眼を見おろした。

「碧い眼だ」

 ザビーネが大股に歩み寄る。ラグナスが慌てて付いて歩いた。

 すわ身構えるクロエとデボラを睨み遣り、腰を屈めて間近にラピスを覗く。

「ラピス」

 その名に応じて微動する頬に、ザビーネは口許を吊り上げた。

「ラピス、ラピス、とうとう見付けたんだね、ラグナス」

「違う、見付けたのは私の方だ」

 胸を反るラピスに虚を突かれ、見返したザビーネは破顔した。

 見おろすように背を伸ばし、傍にいたラグナスの腕を取る。

「あたしはザビーネ、ザビーネ・フォルゴーン、よろしくねラピス」

「やめて置け、その名はシュタインバルトの法に反する」

 ラピスは冷えた声で返した。

「おまえ」

 態度に苛立ち身を乗り出すクロエに、ザビーネは躊躇なく剣を突き込んだ。

 ラグナスが止める間もなかった。喉元を抑えてクロエが蹲る。

 慌てて動いたデボラの鼻先にザビーネは切っ先を当てる。

「なんだ嘘吐き、死なないじゃん」

 平然と言い捨て、ザビーネは泡の音を立てるクロエを見遣った。

「あんたたちには色々訊きたい事があるんだ」

 ラピスを向いて目を細くする。

「すっきりするまで話して貰うよ」

 皆の後ろで唖然とするファルカに、エチカがぶらりと歩み寄る。

「言ったであろ、面倒事になると」

 そう溜息混じりに呟いた。

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