第13話
「フォルゴーンか、封家の末だな」
エチカはふむと独り言ち、呟きながら先を行く。
延々続く階上への路は、明かりが殆どない上に段差が大きく忙しない。
子供の脚では高過ぎる、それをエチカは跳んで上がった。
少女に導かれるままに、ラグナスはトビネズミのような背を追って行く。
「さて人の身に埋めるなど、惨い事をするものだ」
ラピスはそれを神化生物と呼んだ。
創世史学に派生した異端と冒涜の人体改造だ。
これも御柱の恩寵に外れた前史の知識に基づいている。
冥界ノ門や罪深きものも恐らく同じだろう。
「改めて訊くが、君は」
ラグナスの控えめな逡巡に気付き、少女は肩を竦めて見せた。
「エチカで構わん、この身の名前は疾うに何処かへ行ってしまった」
ともあれ休戦でよいのだろう。
付いて来いと言った切り、エチカには敵意も害意もない。
「冥界に関りがある者か」
問うラグナスにエチカはくるりと一瞥を投げ、何を今更と鼻を鳴らした。
「はて、今の聖典では何と呼ぶ、魔神か神子か」
そも『神』の字は聖典にない。
巨人を除いて鬼獣に『人』の字がないのも同じ事だ。
冥界の種別は創世史学が出自だ。
聖典教義の範疇にない異端の学問だった。
リリウム・ファリアに師事しなければラグナスも知る事はなかっただろう。
「オベロンもそうなのか」
「言ったであろ、あれは星辰界の竜だ」
物分かりの悪い奴、とでも言いたげに睨む。
「第四階梯は眷属がない故に、危ないものを好いておる」
魔神、神子、眷属。
触り程度の知識では後を想像で補う他ない。
「いずれ羽化して煉獄の境を跨ぐ、大層な災厄だ」
具体性は不明だが、恐らく深刻なのだろう。
とはいえエチカに見て取れる、大きな物差しが欠けている。
「どれくらいの猶予がある」
「ほんの二、三百年ほどか」
案の定だ。
エチカはラグナスの表情に口を尖らせた。
「その目は長い、と言っておるのか」
ラグナスが肩を竦めて見せる。
エチカはむう、と半目で睨み、そっぽを向いた。
「なら、わしはもう知らん、おまえが面倒を見るならあれを出してやる」
心変わりの理由は分からないが、ともあれオベロンを返して貰えるらしい。
それにしても随分、上る。
道々訊いたエチカに拠れば、想像の通り尖岳の上下に遺構があるらしい。
渓谷の底が大伽藍。遺構の表だ。
大空洞の天蓋を、薄く数層に割り造り無数の石室を配している。
遺構の上下は構造も異なる。
下層は組まれた石造りだが、上の基本は掘り抜きだ。
とは云え天頂で見た遺跡は形ばかりのものらしい。
エチカと出会った広間は本来、人の出入りを想定していない。
秘された扉で隔絶されている。
それが遺構の中枢だからだ。
ラグナスが思うにオベロンならば暴けたかも知れない。
故にエチカは封じたのだろう。
「ほれ、此処だ」
辿り着いたのは土埃のない薄明かりの広間だった。
全天が黒い石貼りで覆われており、微かに流れる風がある。
足許近くの陽の口が仄かな明かりを宙に射し、夜天光を拵えていた。
黒く昏いが見渡せる。
石碑があった。
八基が横にひと続きで並ぶ。九つ目には台座だけだ。
「冥界ノ門」
「冥界だ」
エチカは言ってラグナスを見遣った。




