第12話
ファルカは『それ』を知っている。
見目に十七、八。美貌と呼ぶに相応しい端正な面持ち。
「ダリル・カデット」
オベロンがルミナフの屋敷に追った美貌の魔導機だ。
敵対すればこの身でも一筋縄ではいかないだろう。
ファルカは振り返り、背中の少女らを一瞥した。
確かに聖都の出来事だが、オベロン個人の事件でもあった筈だ。
否、オベロンが最後に受けた依頼がミリア・フィストレーズの追跡だった。
彼女らがその依頼主だ。
ファルカとラグナスはエルサルドールに彼女を訪ねた。
オベロンの消息を追う為だ。
だが、その情報はミリアの姪が伝えて寄越していた。
ラグナスはその姪と知り合いだった。旅先で出会った二人連れだと云う。
その奇異な縁に、ラグナスは調子の外れた品を送った。
場酔い目当てで酒場に繰り出し、賭けの飲み代に得た代物だ。
『おまえ、そんなの嫌がらせだぞ』
『何でさ、朱くて格好良いじゃないか、彼に似合うと思うんだ』
彼。
ファルカは混乱した。
茫然とするファルカを他所にダリルは調子外れの演奏を続けている。
空気を読め、と鼻根に小さく小皺を寄せた少女にダリルは小首を傾げた。
「泣いている女の子がいたら、こうして慰めなさいとマリエルが言った」
「弾くのを止めろ、泣いてなぞいない」
少女が苛々と噛み付いた。
「そうかな、ずっと」
ふと手を止めて、ダリルは今更気付いたようにファルカを見遣った。
「ラグナスに似た顔だね」
きょとんと無垢な目を向ける。
「友達かな、ザビーネは一緒?」
我に返ったファルカが反射的に釘を刺す。
「オマエ、アイツの前で彼女の話をするんじゃないぞ」
言って一拍頭を抱え、ファルカは大きく息を吐いた。
戦意も警戒も馬鹿々々しくなった。
「何が、どうなってる」
ファルカは俯き呟いて、少女らに背を向け兜を外した。
視界の隅に放り出したラグナスの頭陀袋を見つけ、拾い上げる。
「あ」
「おまえ」
クロエとデボラがファルカの素顔に気付いて声を上げた。
「ファルカパッド」
「ペレグリン」
ファルカは改めて彼女らに向き合った。
このふざけた縁は何事だ。混乱に疲れて笑いしか出ない。
だが、ようやく胸の閊えに合点が行った。
ラグナスだ。
「キミの眼、碧いな」
ファルカは少女に歩み寄り、目線を落としてそう言った。
「オレとしてはガフ・ヴォークトみたいで気に入らないが」
「失敬だぞ、ファルカパッド」
「そうです失敬、ペレグリン」
クロエとデボラが横から詰る。
「あれは私から奪った眼だ、おかげで色々盗み見た、おまえの事もな三五号」
ファルカは頷き冷えた声を聞き流す。重要なのは、そこではない。
「悪いが、ひとつ訊いてもいいか」
お構いなしにファルカが問う。
「キミがラピスか」
「そうだが?」
「ラグナスの捜している子だな」
零れ落ちそうな碧い眼に向き合い、ファルカはよし、と頷いた。
「なら他の事はどうでもいい、オレはキミをラグナスに会わせなきゃならん」
ラピスは頬を強張らせたまま、呆れたものかと迷っている。
口を開けば違う言葉が転び出そうで、硬く唇を抑えていた。
「ずっと前に約束したんだ」
ファルカはふうむ、と頭を掻いて、不躾にラピスを眺め遣る。
「もっと小さくて幽霊ぽいと聞いたが、何年前だ、そりゃあ大きくもなるか」
「失敬だぞ、ファルカパッド」
「そうです失敬、ペレグリン」
クロエとデボラが繰り返し詰る。
「ラグナスの友達?」
ダリルが寄ってファルカに訊ねた。
「相棒だ」
ファルカは心做し自慢気に応え、ラピスに頭陀袋を突き出した。
袋の形に息を呑み、彼女はそっと手を伸ばした。
「アイツの闘う理由の半分だからな、これはキミが持っていてくれ」
ファルカは言って頸を傾け、遺構の断崖の上を指す。
「合流しよう、アイツは上だ」
兜を抱くラピスに目を遣り、擽ったそうにファルカは笑った。




