表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面ノ騎士  作者: marvin
幻界ノ魔神
109/121

第8話

「上で落ち合おう」

 ラグナスに声は届いただろうか。

 眼前、視野一杯を埋める岩にファルカは全身で激突した。

 兜がなければ血と鉄の染みだった。

 頭が強か打ち撥ねて気が遠退く。四肢を伸ばして身体を掻き留める。

 断崖を滑り落ちた。

 手掛かりを掴み、足掛かりを蹴り、勢いを殺してなお滑る。

 長い長い落石の尾を引き、ファルカは落ちた。

 流石にファルカの朱い籠手も指が擦り減りなくなるか。

 そう思う頃、地に転がった。

 見上げる空が裂けている。渓谷の底だ。

 ファルカは暫し大きく喘いで身を起こした。

 兜の中の感覚で辺りを探る。

 一足先に地に着いたラグナスの頭陀袋を見つけて拾い上げた。

 兜は無事だ。凹みもない。

 袋を肩に掛け、天を見上げる。ラグナスの姿は見当たらない。

 落ちて来ないと云う事は、崖に取り付けてはているようだ。

 仕様が似通っているせいか、二人は言葉にならない感覚が通じる。

 兜はそれを鮮明にするが、手元にあっては意味がない。

 登って合流する他なさそうだ。

 先にラグナスがあの少女、エチカと遭遇した折りが心配だ。

 見目に惑わされるが、あの捷さは尋常ではない。

 勿論、ラグナスはどうしようもなく甘いが、それについての不安はなかった。

 決断すればラグナスは如何な王より容赦がない。

 全てを背負う覚悟があるからだ。

 かつての自分にそれがあったか、今の自分にそれがあるか。

 ファルカは顧みてそう思う。

 混じり物の自覚はあったが何処かでラグナスを同情の目で見ていた。

 今となっては、よく分かる。

 だからこそ、より人であろうとするラグナスが眩しい。

 恨みも怒りも蟠りもある。それはきっとラグナスも同じだ。

 それでも足掻く。足掻き続ける

 だからこそ、隣に立てる事がファルカの誇りだった。

「さて、早く行ってやらなきゃな」

 案じる風に自分を鼓舞して辺りを見渡す。

 垂直に近いこの断崖を、道具もなしに登るのは無理がある。

 ひとまず渓谷に沿って辺りを探る。

 欠けた大岩や裂けた崖筋、人の目には迷路のようだ。

 水も土壌もそれなりで、見上げる樹こそないものの緑が四方を埋めている。

 上から覗いた鬼獣の行進跡はまだ見当たらない。

 だが、いずれ出会す可能性も高い。兜は被ったままにした。

 下から見上げた渓谷は、まるで異なる様相だ。

 空に抜けた細道もあれば、遥かな高みに天蓋が被り始終翳った谷もある。

 大きな人為の跡もある。

 あの予感めいたものが当たっていれば、この山そのものが遺構だ。

 天の亀裂は変わらぬものの、渓谷の底は次第に拡がって行く。

 風が、音が遥か先に抜けている。

 音と臭いが濃くなって来る。

 鷲が頭上を飛ぶのを見上げた。

 ハルピアに追われて空を駆け上がって行く。

 囁くような呼び声は気のせいか。

 気配を手繰ってファルカは岩場を駆けた。

 鬼獣の群れだ。

 猿鬼(ゴブリン)の集団が獲物を枝道に追い込んでいる。

 否、小岩の様な喰人鬼(オーグル)も混じっている。

 異種の共同にファルカは顔を顰めた。使役の知恵などない筈だ。

 ふと猿鬼(ゴブリン)の隙間に人影が覗いた。

 見間違いだ。こんな禁足地の果てに何を好んで訪れる者がいる。

 例えいたとて碌な相手ではない。

 鬼獣が獲物に気を取られている隙に後ろを抜けるのが良策だ。

 逡巡してファルカは唸った。

 ラグナスならば。

 面倒事だったらオマエの所為だからな。

 呟いてファルカは鬼獣の群れに飛び込んだ。

 一撃、二撃、三撃目に隣の猿鬼(ゴブリン)が振り返る。

 空を仰いで頽れた三体の横に屍を加えた。

 幾体かが気付いて警戒の叫びを上げる。

 消えた後続に喰人鬼(オーグル)までもが振り返った。

 鬼獣の向こうに人が見えた。しかも女が二人いる。

 記憶の呼び声を後回しに、ファルカは囲む鬼獣に意識を戻した。

 その間際、女のひとりが抱えたそれに目を剥く。

 ファルカは慌てて喰人鬼(オーグル)を盾にした。

 連続する破裂音。

 聞くのも久しい蒸気式の圧搾銃だ。

 弾の鉄串が鬼獣を射抜いて走る。猿鬼(ゴブリン)が端から打ち転がった。

 喰人鬼(オーグル)の身体が撥ね震え、抜けた鉄串が眼前を過ぎる。

 音が止み、ファルカは嘆息の一拍を置いて喰人鬼(オーグル)を投げ捨てた。

 警戒を解かない二人に手を挙げて見せる。

 一人は大柄、もう一人は細身。

 怪訝に睨むその顔は、やはり遠くに見覚えがある。

「ガフ・ヴォークトにしては、まともな仕事をしたようだ」

 発したのは二人の奥のもう一人だ。此方はファルカも記憶にない。

「初めまして、三五号」

 少女はファルカをそう呼んで冷えた碧い眼を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ