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仮面ノ騎士  作者: marvin
幻界ノ魔神
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第6話

 見渡す限りの黒と白。

 ぽつりぽつりとくすんだ緑。

 目指す尖岳は岩向こうに覗くが、およそ至る路がない。

 黒く鋭い小石の隘路は、ささくれ立って靴を削る。

 ファルカとラグナスは二人でようやく、何とか滑らず歩いて行ける。

 ただでも危ない砂利道は、数歩隣で地面がない。

「もっと、まともな路があったんじゃないかな」

 滅入ったファルカがそう零す。

 あの子供、むしろ危ない道筋を教えたのではなかろうか。

 切り立つ断崖は覗き見だけで吸い込まれそうだ。

 首を竦めて岩に貼り付くファルカにラグナスが谷の底を指差した。

 二人だからこそ見える遥かな奥底に、踏み固められた跡があった。

 鬼種の類の足跡だ。かなり大きなものも混じっている。

 谷の深さからして底は山の中腹、もしくは麓に近い位置だ。

 恐らく渓谷の先は鬼獣の棲息地に通じているのだろう。

 だが、跡がおかしい。国軍が総出で行進したかと思うほどだ。

 ファルカの目には、種の混じっている事が気に入らなかった。

 獣や蟲ほど明確ではないが、鬼類にしては棲み分けが曖昧過ぎる。

「何か起きてるみたいだな」

 ファルカの呟きにラグナスが頷く。

「具合からして最近のようだが、今はオベロンを捜すのが先だ」

 槍のように突き立つ岩山を見据えて歩き出した。

 尖った石を靴底で掻きつつ、大岩を廻る。

 黒々とした河のような渓谷に囲われ、削り研がれた尖岳が空に伸びていた。

 地続きの足場が橋梁に見える。

 もしかしたら、そうかも知れない。人為で渡された石の橋だ。

 見れば上には崩れた庇、幾本もの柱の瓦礫が並んでいる。

 先を覗けば崩れた遺構の入口が窺えた。

 見上げる尖岳の中に掘り造られているらしい。

 二人はそれを眺めるに、よもやと思い谷底に目を落とした。

 遥か底から伸びた尖岳そのものが遺構。

 眼前のは上の入り口ではないか。

「まさかな」

 ファルカが呟いて瓦礫を見渡す。不意にラグナスを小突いて駆け出した。

 足下は半ば砂礫に擦れた黒い石畳が続いている。

 まだ空を向いて立つ柱の幾本は、かつて庇を支えていたのだろう。

 今は崩れて足元を埋め、奥まで瓦礫を積んでいる。

 柱のひとつに蹲る人影があった。風雪に晒され傷んだ外套は裾長だ。

 見れば項垂れた頭はのっぺりとした兜、覗いた手足は金物の鎧らしい。

「オッサンだ」

 ファルカが傍らに屈んで確かめる。正確にはオベロンの殻だ。

 辺りを見渡し背負子を下ろす。ラグナスも応じて荷の帯を解いた。

 ファルカが散り崩れる外套を解いて鎧を調べる。

 ラグナスは傍でのっぺりとした兜を見遣って、辺りを見渡した。

「何だこのオッサン、圧搾銃なんか仕込んでやがる」

 ファルカの呆れた声がする。

 微かに蒸気炉もまだ生きている。思いの外に故障がない。

 そも鎧に外傷ががほとんどない。

 剥き出しの手足が僅かに摩耗しているだけだ。

「ラグナス、どうした」

 ふとファルカが顔を上げ訊ねる。

「帽子がない」

 風に飛ばされたのだろう、そう答えようとして兜の摩耗の少なさに気付いた。

 触れて確かめようとしたファルカは、開けた胸当ての内側に気付いた。

 傷がある。文字を刻んだかのようだ。

「エチカ、人の名か」

「エチカ?」

 ラグナスが肩越しに覗き込み、顔を顰める。

「綴りが古いな、聖典の字句だ」

 確かにこう見えてオベロンは博識だ。その手の類に造詣が深い。

「何の事だ」

冥界(ゲヘナ)の名だ、第六階梯(エチカ)

 可愛い名だと思ったが、とファルカは表情に困り果てる。

「よくそんなもの知ってるな」

創世史学(ジェネソロジー)の根にある定義だ、平たく言えば異端だよ」

 呆れた顔でファルカが見遣る。

「口にしたら僕みたいに教会に捕まるぞ」

 ラグナスは肩を竦めて見せた。

「やれ、ようやく来やったか」

 声に二人が振り返る。

 向かいの柱に影があった。覗いているのは帽子の鍔だ。

 その位置の低さにラグナスは肩を竦める。

 両手を拡げて支えるほどの大きな鍔広帽子の端にに悪戯な目が覗いた。

「捜し人は見つかったか」

 バシュロの集落で出会った女の子は二人に向かって笑って見せた。

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