第5話
その男は此処に来なかった。
今まで訪ねた民家や集落は全て同じ答えだった。
集落はの名はバシュロと云う。コルベル村から山をふたつ越えた所だ。
道筋としてはこれが最後になる。
「さて、知らないな」
応じた男が答えて言った。周りの者にも目を遣るが皆同様に首を振る。
此処は同家の寄り合いだ。恐らくバシュロも利便性で設けた家名の類だろう。
ファルカは頭を抱えている。
遺跡が指標にならないとすれば捜索範囲は広大だ。
ラグナスは少し考え込んだ。
男にコルベル村へはよく行くかと問う。
当然だ。食糧も商いもコルベル村が拠点になる。
答える皆にラグナスは訊ねた。
「里で大きな帽子の男の噂を聞いた事は?」
はて、と困惑する顔にラグナスとファルカは顔を見合わせた。
今まで訪ねた家は皆、オベロンの風体を知っていた。
ただ、此処へは来なかったと言うだけだ。噂を知らなかった訳ではない。
どうにも妙な気配がする。
「やり方を変えよう、墓地を調べる」
ラグナスの手を引き、ファルカが囁いた。
突然に過ぎる。
だがファルカの顔を見る限り捨て鉢な訳でもなさそうだ。
同意するなりファルカは誠実そうなラグナスを盾に住人から墓地を聞き出した。
同族の集落は墓地も併せ持っている。
バシュロに行くなら手を合わせて来てくれと頼まれたなどと適当に取り繕った。
二人は訊いた山道を登る。
ラグナスが律儀に花を添える間、ファルカは並ぶ石積みを軽く見渡した。
不意に墓地の外れに踏み入り、周辺の樹を見て回る。
暫くしてからラグナスを呼んだ。
「此処だ」
張り出した下生えを持ち上げ、地面を見せる。少し古いが埋め戻した跡だ。
見れば手前の樹に標らしき傷もある。
「オベロンの棺桶だ、縦に埋めてある」
「掘り起こすか?」
訊ねるラグナスを見返して、ファルカがうーん、と逡巡する。
結局、彼は首を振った。
「やめとこう、興味はあるがオレも中を覗いた事はないんだ」
ファルカはその場で地図を開いた。バシュロの位置を確かめる。
オベロンの行動範囲は限られている。棺桶を中心に三〇町ほどだ。
「とはいえ、広いな」
ファルカが唸る。
「そうでもない、怪しげな場所は絞れるだろう」
記憶の中の遺跡を辿り、位置を定めてラグナスは応えた。
暫くして二人が集落に戻ると、広場で子供らが遊んでいた。
来訪者を物珍し気に見遣る中、女の子がひとり寄って来る。
「捜してた人、知ってるよ」
二人に耳打ちした。
驚いたファルカが思わず小声で問い返し、女の子が答える。
きっと怪しい人だから、訊かれても知らない振りをする様に言われたらしい。
「どっちに行った?」
「あっち」
稜線の縁に覗く尖峰を指す。
「危ないから、行っちゃ駄目なのにね」
それだけ言うと女の子は皆のところに駆けて行く。
皆と混じって再び遊び始める小さな背中を眺め遣り、ラグナスは肩を竦めた。
「危ないらしいぞ、どうするファルカ」
言って揶揄う様にラグナスは目を細くする。
普段は生真面目、大真面目の癖に、時折子供の様な顔をする。
「今更だ」
ファルカが小突いた。
「幽霊探し以上に危ない事なんざ、そうあるものか」




