第4話
オベロンは見目に不審者だ。
鍔広帽子に厚い外套、細身の鎧に籠手や脚絆まで着けた神経質な重装備。
身形は村人の記憶に残り、話題の少ない近隣の噂にもなっていた。
勿論コルベルを出たのは随分と前だ。
話に聞くところ、村に馬車を残して行ったらしい。
「間違いない、こいつだ」
農具の底を掻き分けてファルカはそう断言した。
持ち主が戻らず物置きにされた、預かり物の荷車だった。
世話込みならば使える約束だが、どうやら奉公しているのは馬だけらしい。
「棺桶を入れる二重底がある」
ほら、と言われて覗き込みラグナスは複雑な顔で頷いた。
事情は聞いているものの、彼の困惑も仕方がない。
何せ自分の棺桶を引く幽霊だ。
しかも見目に変な格好で失せ物探しを生業にしていると云う。
「空って事は、やっぱりこの先だな」
ファルカが言って地図を拡げた。
オベロンも購入したと思しき地図だった。
ヌヴィル大山の麓は鬼獣の一大棲息地にあたるが、地図の更新は古い。
記された道筋に変化がないのは棲息域が変わらない為だ。
ヌヴィル大山も中腹を越えれば鬼類が失せて獣や蟲が主になる。
これらは互いに棲み分けて、気紛れに迷い出る事がない。
その境界を道筋とすれば、人の往来や居住も比較的に安全だ。
人が領域を拡げない。その一点がヌヴィル大山の平穏を維持していた。
生活こそは厳しいものの、鬼獣を恐れずに済む土地とも云える。
「先、といっても民家だな」
主に高地の耕作と交易に足る薬用草花で生計を立てているらしい。
ラグナスがコルベル村から地図を辿る。分かれた道筋に点在していた。
「オベロンの目的は民話だったか」
「歳を取らない子供って奴だな」
消えた食材と礼の品、迷子を家まで連れ帰る、などとよくある逸話の類だ。
村でも訊いたが出自は不明だ。それどころか話自体が散逸している。
よくも調べに出掛けたものだ。ファルカは呆れて首を振る。
恐らく宮仕えが嫌で堪らず、逃げ出す口実に使ったに違いない。
「本命は恐らく遺跡の方だ」
そうは言うものの禁足地だ。公の地図には境界線の記載しかない。
そも地図にあるのは鬼獣の隙間を縫う道筋だ。
周囲の全てが禁足地とも云える。
「遺跡にしても絞るのは難しいな」
ラグナスの記憶にも幾つかの標が残っている。
ただ、この一帯は数が多い。しかも、どれもが小さな点だ。
恐らく利用の価値なしと評されたのだろう。
あるいは未調査なのかも知れない。
だが地元の村人は更に情報が薄かった。
彼らが知るのは道標めいた石柱だけだ。遺跡そのものではない。
それが聞けた事でさえ、地場の慣習を見逃した教会の緩さに他ならない。
遺跡は単に『先に在ったもの』であり、忌避の対象と刷り込まれていない。
シュタインバルトとは事情が異なる。
異端として尚、その存在を受け入れさせた複雑な経緯がないからだ。
「ラグナスの話を併せて、この辺りか」
ファルカが道をそれぞれ囲む。
遺跡の位置を鑑みて、およそ六つの方向に分かれていた。
その道筋の住居を数えてラグナスは頷いた。
「先は足で稼ぐ他なさそうだ」




