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一時的に組む




© 2025 秋野 龍. All rights reserved.

Part : 1


一日前。


アウリアム鉱山の奥に、二人の監督官しか配置されていない区画があった。

――奴隷棟第二十一区。


そこは、アシュリエル、サリル、エゼルが落ち合うには最適の場所だった。


サリルはすでに見張りを眠らせていた。

彼女の得意とする睡眠針。


細い針のような矢を、奴隷服の裏地に縫い込んだ隠しポケットから取り出す。


「エゼル、司令官チャールズへの報告は済ませた?」


アシュリエルが問う。


新兵の少年は、こくりと頷いた。


「はい。現在、八界の将校たちは……アウリアム鉱山にザーダン六機を持ち込んでいます」


ザーダン。


至高王の征服によって生み出された巨大な戦闘機兵。

その覇道を支えた、侵略の象徴。


第一界より下の世界は、それを真似て独自のザーダンを造り出し、他界を脅かし、侵略した。


世界の進歩は、技術と――ザーダンで測られる。


アエルシアには、どちらもなかった。


反乱軍《白鷲の翼》が集めたのは、侵略者の技術の残骸にすぎない。

自前のザーダンを持たぬ彼らの作戦は、必然的に影の活動となった。


「つまり、奴らが展開すれば、正面衝突は不可能ってことね」


サリルが肩をすくめる。いつもの嘲笑を浮かべながら。


「ラヴィウス隊長と班が対策を進めています。幸い、持ち込まれたのは旧式です」


エゼルが答える。


サリルの視線がアシュリエルへと向く。

刃のように鋭い双眸。


「……遅いわよ。潜入して二週間。ズカードに接触して一週間。それでもまだ謁見できないなんて」


語気は鋭く、遠慮がない。


「……明日こそ、必ず成功させる」


短い沈黙の後、アシュリエルは答えた。


サリルはため息をつく。

遅れはアシュリエルのせいではないと分かっていた。

彼女たちが予想しなかった外部の要因が原因。


「……あの男。やっぱり厄介ね。いっそ処分してやろうか?」


指を鳴らすと、針が彼女の指の間に現れる。

刺客のように冷たい目。


「司令官は許さないだろう」


エゼルが即座に割って入った。


サリルは笑みを浮かべ、針を消す。


「冗談よ。うちの隊長なら、任務をやり遂げられるわよね? ねえ、アシュリエル隊長?」


冗談――そう言ったが、二人とも信じてはいなかった。


アシュリエルの目が鋭くなる。

こうした“外的要素”は、潜入任務では避けられない。


『サリルの言うとおりだ……私は任務を遅らせている。明日こそ……ズカードを焚きつけなければ』


その好機は、すぐに訪れた。


潜入は成功。


だが――一つだけ、計算外の存在がいた。


「……やっぱり、あの男を処分しておくべきだった」


サリルの視線の先。


赤髪の奴隷――エリアンが、東側後方の兵舎を守る四人の監督官を次々と倒していた。


「このままじゃ、アシュリエル隊長は文書を奪っても……生きて出られない」


サリルは親指の爪を噛む。


彼が《白鷲の翼》の作戦など知るはずもなく、ただ目の前の敵と戦っていた。


地に落ちていた銃を拾い、狙いを定めて引き金を引く。

三人の肩を撃ち抜く。


槍の突きをかわし、脚を斬り裂き、銃を投げつけて剣を構えた兵の顔面を打ち抜く。

そのまま踏み込み、剣を奪って昏倒させた。


「……妙な剣だ。軽すぎる」


異世界の武器を手に、エリアンは小さく呟く。


銃を構える監督官たち。


「奴隷の分際で……我らに逆らうか!」


誰も答えない。


エリアンは剣を横に下げ、体を沈める。


「アエルシアの剣術を知らんか……。俺たちは機械などに頼らず、何年も鍛え上げてきた」


冷たい声。


刃に力が集まる。気が刀身を走る。


「七華蓮剣流――一ノ型」


低く呟いた瞬間、銃声が一斉に鳴り響いた。


「――烈風嵐」


剣が閃く。無数の風刃が弾丸を切り裂き、収束して嵐となる。


自然の暴風には及ばぬ。

だが兵を吹き飛ばすには十分だった。


視線を落とす。

刃は震え、力に耐えきれず鈍っていた。


「何者……なの……」


サリルの目が見開かれる。


エリアンは兵舎へ進む。

彼女が影から見守っていることを知らずに。


サリルの横に、エゼルが駆けつける。

今日は鉱山での最終日。二人はアシュリエルの帰りを待っていた。


「隊長は?」


「潜入は成功よ、でも……」


サリルは兵舎を顎で示す。


十数人の獣人監督官が、地に転がっていた。


「奴隷……だと?」


エゼルの声は驚愕に染まる。


「……これまで帝国が売り払った奴隷、ちゃんと調べておくべきだった」


いつになく、サリルの声は沈んでいた。

いつもの嘲笑は消えている。


轟音が鉱山に響き渡る。

地面が揺れ、奴隷たちが怯えて顔を出す。


エリアンは迫る気配を感じ、後方へ跳躍した。

直後、銃弾が地を抉る。


「蛮族奴隷め……ここまでだ!」


遠方から声が響く。


見上げると――


二機の巨兵が迫ってきていた。


ザーダン。


八界から持ち込まれた、鋼と聖鉱でできた戦機。

巨大な銃と大剣を備え、その頭部は獣のような犬面。


「これが……ザーダンか」


エリアンはこれまで人と獣しか斬ってこなかった。

こんな兵器は初めて。


だが、臆することなく駆け出す。


左の機体が狙いを定め、銃口を放つ。

紙一重で弾丸をかわす。

だが次々と連射が来る。


『……この剣じゃ戦えない』


銃を拾い撃つ。

しかし弾丸は弾かれる。


『他界の技術……帝国が屈服した理由が分かる。王族には抗えぬと知っていたんだ』


彼の目は兵舎へ。


突進。


刃を振るい、銃弾をかわす。


距離十メートルを切った。


「七華蓮剣流――一ノ型」


「――烈風嵐!」


風刃が走る。

隙を突いて二機の間を駆け抜ける。


だが左の機体が大剣を振り下ろした。


嵐を易々と打ち払い、衝撃だけでエリアンを吹き飛ばす。


血を吐き、空中で体勢を捻る。

その勢いを利用し、兵舎の門を突破した。


ザーダンの操縦士たちは冷ややかに見送る。


「どれだけ抗おうが、結果は同じだ」

「今日、ズカード様は女を所望された……あの御方が獣性に堕ちているのなら――あの男が生きて出られるはずがない」


Part : 2


反乱軍《白鷲の翼》第二分隊本部。

アシュリエルたちがアウリアム鉱山へ潜入する前日。

――最後の作戦会議、朝。


会議室には全員が揃っていた。


長机の先頭に立つのは司令官チャールズ。

その鋭い眼差しが、作戦に参加する隊長たちを一人ひとり見渡す。


「今回の任務は偵察だ。それ以上でも、それ以下でもない」


低く切り裂くような声が室内を走る。


「もし何かがおかしくなったら――予想外の要因で作戦が崩れそうになったら、即座に放棄しろ。ためらうな」


厳しい声。


チャールズは続けた。


「敵に気づかれることなく撤退し、本部へ戻れ」


アシュリエル、サリル、エゼルは力強く頷いた。


その言葉が、今も彼らの頭の中に響いていた。


――現在。アウリアム鉱山。


地面が揺れる。


二機のザーダンが戦場へ足を踏み入れた。

その重い足音は戦鼓のように響いた。


「……この任務は失敗だ」


エゼルの顔は蒼白だった。


「もう進めない。ザーダンが出てきた上に、あの奴隷の騒ぎだ……将校たちは警戒を強める。ここにいれば、いずれ露見する」


サリルの視線が鋭く突き刺さる。


「……で、あんたの判断は?」


「司令官の命令どおりだ。本部へ戻る」


揺るがない声音。


「……つまり、アシュリエル隊長を見捨てるってこと?」


一瞬、沈黙が続く。


そしてエゼルは、自分を奮い立たせるように言った。


「……ああ。兵舎から生きて連れ出す方法なんてない」


サリルの口元が歪む。

嘲笑と苦々しい笑みが混じったように。


「正直、外部から来た子が私の上に立つのは気に食わなかったわ」


腕を抱きしめるように組み、衝動を抑える。


「でもこの二週間……見てきた。あの子は任務を諦めるような人じゃない。私が何を言っても、目標を見据えて動き続けてた」


視線が鋭さを増す。


「私は残る。奴隷の一人として鉱山に潜伏する。アシュリエル隊長が二日以内に戻らなければ――その時は撤退する」


エゼルは視線を逸らした。

彼女の真っ直ぐな瞳を見返すことができなかった。


初めての任務。

「失敗」と簡単に刻まれるのは、どうしても嫌だった。


「……二日。それ以上は駄目だ」


二人は同時に顔を上げ、兵舎を見据えた。


――兵舎内部。


重苦しい静寂。

床には獣人将校たちが倒れ伏していた。


乱雑な打ち倒し方ではない。

一切の無駄がない。

音すら立てずに仕留めたような、そんな痕跡。


エリアンは足を踏み入れ、目を細めた。

『……あれは女の仕業か? 何者だ。こいつらを倒せるなら……ただのか弱い娘じゃない』


銃声が響いた。


上の階から。


彼は階段へ駆け上がる。


――一階の廊下。


散乱する書類。

その中央に、白銀の髪の少女が立っていた。


手には倒した将校の剣。


銃弾をかわし、その剣を槍のように投げる。


将校たちが避けた瞬間、彼女は一気に詰め寄り、武術家のような素早い体術で次々と叩き伏せた。


エリアンは立ち止まり、見入った。

無駄のない、一撃ごとの正確さ。


「……お前は誰だ?」


階段から将校を殴り倒しながら問いかける。


アシュリエルの瞳が鋭く彼を射抜いた。


「それはこっちの台詞。あんたこそ誰? なぜここに? 外では何が起きてる?」


答えを交わす暇もなかった。


廊下の両端から新たな将校たちが雪崩れ込んできた。


二人は無言のまま背中を合わせる。


言葉はない。


本能だけが二人を導いた。


エリアンの借り物の剣が銃を構える腕を切り裂く。

アシュリエルの体術が敵を次々と地へ沈めていく。


一歩一歩。

一撃ごとに数を減らしていく。


だが――


廊下全体が揺れた。


将校たちが凍り付く。


威勢は、恐怖に塗り替えられていた。


「……まさか……あいつが……」


恐怖に震える声。


階段口に現れたのは、巨躯の獣。


ズカード。


頭を傾け、鼻を鳴らし、血の匂いを楽しむように吸い込む。


その身から溢れる殺気は獣そのもの。


瞳は完全に野性へと堕ちていた。


「……女」


獣のような声が漏れた。


次の瞬間、彼は一人の将校の頭を片手で掴み――潰した。


骨が砕け、血が飛び散り、残骸が床に転がる。


絶叫が廊下を満たした。


そしてズカードは獲物を狩る獣のように跳躍。


狙いはアシュリエル。


「――!」


避ける暇もなかった。


だが、エリアンが先に動いた。

身を低くして彼女を抱き寄せ、巨躯の爪撃を紙一重でかわす。


アシュリエルの瞳が驚きに見開かれる。


「……助かった」


エリアンは彼女を見もせず、ズカードから目を逸らさなかった。


「お前が何者で、ここで何をしようとしていたのかは知らない。

だが、生き延びたいなら――今ここで組むしかない。

戦えるんだろ?」


一瞬の沈黙。


アシュリエルは頷いた。


「いいわ。足を引っ張らないでよ」


その言葉に、エリアンの口元が僅かに笑みに歪む。

彼女はまだ自分を侮っている。


「……俺はエリアンだ」


足元の将校から大剣を拾い上げ、構える。


アシュリエルは落ちていた銃を拾い、弾を込める。


「私はアシュリエル」


二人は並び立ち、狂獣と化した獣人隊長を睨み据えた。

荒い息遣い。

静かな足運び。


次の瞬間を待ちながら――廊下は緊張に包まれていた。

更新が大変遅くなってしまい、申し訳ありません。

実家に帰省していたことや、私生活が慌ただしくなっていたこともあり、執筆の時間を思うように取れませんでした。

それでも待ってくださっていた方々に心から感謝しています。

今後もできる限り続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。

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