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奴隷のエリオンと、反逆軍の少女アシュリエル

筆名は秋乃龍あきの りゅうと申します。

秋の季節とドラゴンが大好きなので、「秋の龍」と書いてこの名前に決めました。

これが、初めて自分の作品を公に発表する挑戦です。これまでは友人にしか読んでもらったことがありませんでした。

これから少しずつ章を更新していきますので、物語の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、新たな世界へ――どうぞ。



© 2025秋野 龍. All rights reserved.

Part : 1

遥か昔、世界はひとつだった――偉大なる太陽のもとを巡る、唯一の惑星。

しかし、それは永遠ではなかった。


突如として訪れた《終焉の日》。

無数の隕石が天を裂き、惑星の核を貫いた。世界は、一瞬にして崩壊した。


その後、かつての文明の痕跡は静かに消えていった。

空を漂うのは、砕けた大地の断片だけ。命は一度、完全に途絶えたのだった。


だが――時は巡る。やがて再び、世界に命が芽生えた。

破片となった大地は、それぞれ小さな世界へと姿を変え、孤立しながらも独自に繁栄を遂げていった。


偉大なる太陽の軌道に沿って、静かに巡るいくつもの小世界――。

その静寂も、長くは続かなかった。


「至高王」と呼ばれる存在が現れたのである。

彼は世界をつなぐ《霊の道》を開き、分断されていた世界を再び結びつけた。


その道を通じて、彼は征服を開始した。

一つ、また一つと世界を支配下に組み込みながら、力による統一を進めていった。


支配と破滅は紙一重だった。

鉄の意志のもと、砕けた世界は再構築されていったが、それは真の調和ではなかった。


従属と強制――

それによって維持された秩序に過ぎなかった。


こうして築かれたのが、《十一界体制》。

至高王によって打ち立てられた、世界の序列と支配構造である。


各世界は、「成長力」「戦闘力」「資源力」によって評価され、

階層という名の鎖に組み込まれた。


頂点に立つ世界は支配者となり、

最下層の世界は、隷属の運命を課された。


すべてが審査され、番号を与えられ、分類され、厳しく管理された。


そして――

その最下層に位置づけられたのが、《アエルシア》である。


「原初の世界は、もはや存在しない。お前が、それを一つにまとめろ。」


その声は、夢でも記憶でもなかった。

魂の奥深くに刻まれた、遥かな昔から響く声。


誰のものかは分からない。ただ、幼い頃からエリオンの中に在り続けていた。


エリオンは石の壁に背を預け、膝に腕を乗せて静かに座っていた。

汗と鉱塵にまみれた肌。

乱れた赤髪が瞳を覆い、眠気と疲労が滲んだその目は、虚ろなままだった。


身体は痩せてはいない。

過酷な労働によって自然と鍛え上げられた、無骨な筋肉があった。


「エリオン……また俺たちの番だ。」


鉄の錆びた格子の前に立っていたのは、ツリエル。

煤けた黒髪に、疲れを隠せない瞳。

彼もまた、エリオンと同じ年頃で、同じ境遇にあった。


エリオンは無言で立ち上がる。


彼らはかつて、アエルシア最大の帝国――《オルザマー》の出身だった。

だが今、オルザマーに主権はない。

王族と貴族たちは己の快楽と富を守るために、民と土地を《第八世界》の侵略者に売り渡したのだ。


その結果、オルザマーは影から操られる傀儡国家となり、民は奴隷へと落ちた。


坑道に足を踏み入れると、岩と鉄のぶつかる音が反響し、

遠くから誰かの呻き声がかすかに届いていた。


ここは、《アウリアム鉱山》。

かつて神話に語られた「神聖鉱石」が眠るとされた地。


今やその鉱石は現実の資源となり、

第八世界の民によって、搾取され続けていた。


武器を鍛え、塔を建て、自らの世界を栄えさせるために。

アエルシアの民は、命を削って働かされているのだった。


各鉱区には、五人の監視官が配置されている。

いずれも第八世界の「獣人」たち。

鋭い耳、獣のような顔、冷たく無慈悲な眼差し。


彼らはアエルシアの命を軽視し、統制のためだけに存在していた。


そのとき、隣の区画から怒声が響いた。


「動け、この老いぼれが!」


一人の老人が力尽きてしゃがみ込んでいた。

震える手。立ち上がることすらできない。


監視官が歩み寄り、容赦なく蹴り倒す。


「立て。もしくは骨を折ってやるぞ。」


エリオンの視線が、鋭くそちらを射抜いた。


「……やめとけよ、エリオン。」


ツリエルの低く抑えた声。

だが、エリオンは応えず、拳を強く握りしめる。


「お前らは掘るしか価値がねぇんだ。黙って働け!」


パシッ――。

鞭が老人の背中を打つ。血が滲み、呻き声が響く。


エリオンが、静かに歩みを止めた。


「……ツリエル。もう、黙ってられない。」


「待て! エリオンッ――」


彼は、すでに動いていた。


鞭が振り下ろされる直前――

エリオンが老人の前に割って入る。


背に激しい一撃を受けるも、微動だにしなかった。


監視官は再び鞭を振り上げ――

だが、その手が止まった。


エリオンの瞳と、ぶつかる。


そこに宿っていたのは、怒りでも恐怖でもない。

冷たい覚悟と、揺るがぬ意志。


「俺がその分、掘る。だから、この人を休ませてくれ。」


「誰に口きいてんだ、奴隷が。目を伏せろ。」


エリオンは一歩も引かず、視線も逸らさなかった。


監視官の額に汗がにじみ、手がわずかに震える。


「……いいだろう。だが必ずやり遂げろ。それが約束だ。」


「当然だ。」


監視官は舌打ちし、背を向けた。


鉱山では、赤髪の少年にまつわる噂が囁かれていた。

ブラックシャフトから一人で生還したとか、

眠らずに働き続けているとか――


誰も、真偽を確かめようとはしなかった。


エリオンは、倒れた老人にそっと近づき、声をかけた。


「スマナンな、少年……この老いぼれのせいで、お前に余計な労働を……」


「気にするな。……もし目の前に倒れていたのが、俺の祖父だったら、同じことをしてたさ。」


老人は涙ぐみながら、かすかに笑った。

ツリエルが彼を支え、寝所へと連れていく。


「……そのうち死ぬぞ、お前。」


「かもな。でも、今日じゃない。」


ツリエルは沈黙し、拳を強く握った。

心の中で、叫びが渦巻いていた。


『お前みたいな奴が、一番最初に殺されるんだよ……バカが……』


「なんで、そんな無茶を……」


思わず声が漏れた。


「心配してくれてありがとな、ツリエル。」


エリオンはふと振り返り、穏やかに微笑んだ。


「でも……目の前で誰かが傷ついているのに、俺は見て見ぬふりなんてできない。

昔の癖ってやつか。元兵士だったからな。弱き者を守る――それが、俺の生き方だ。」


ツリエルの胸が締め付けられる。

その言葉を否定できない自分が、悔しかった。


『俺は……自分だけ助かろうとしてる……見殺しにするって、分かってるのに……』

『自分の中の弱さと向き合うことが、これほどまでに苦しいとは思わなかった』

『エリオン……お前は、本当に……』


埃と鎖に閉ざされた日常。

いつもの道。


だが、その一歩が違っていた。

ほんのわずかな反抗。たった一度の決意。


――だが、時としてそれは、世界を変える「ひび」となる。


Part : 2

アエルシアは《第十一世界》。

かつてひとつだった惑星の断片であり、十一ある世界の中で最下層に位置する。


支配の鎖に縛られたこの地には、現在、四つの勢力が存在していた。


最大勢力は《オルザマー帝国》。

かつては繁栄を誇ったが、すでに第八世界の侵略者に屈し、主権を明け渡している。


その対極に位置するのが、《アガルディア》という中立国家。

外界との関わりを断ち、独自の道を歩む孤高の民が住まう。


そして――その狭間に身を潜める者たちがいた。


《反逆軍》。

帝国と侵略者、双方に抗い、アエルシアを再び解放せんとする者たちの集まりである。


反逆軍・第二本部は、オルザマー帝国の国境近く、深い森の奥に隠れるように存在していた。

外から見れば、ただの廃れた採掘場。だがその地下には、異世界の技術を奪い築かれた巨大な司令室が広がっていた。


銀色に光る制御パネル。異質な設計の兵器庫。アエルシアには存在しない暗号化端末。

すべてが他世界由来のものでありながら、この戦場では必要不可欠な「力」となっていた。


その一角。アシュリエルは、鉄製のスライドドアの前に静かに立っていた。


高く結い上げた白金の髪が、無機質な照明に照らされ、ほのかに揺れる。

緊張はなかった。ただ、肩にわずかな硬さがあった。


今日が、彼女にとって新たな任務の始まりだった。


扉が静かに開く。


部屋の奥では、一人の男が大きな紙の地図に視線を落としていた。

周囲は電子機器に囲まれていたが、その手描きの地図だけが、時代錯誤に見えながらも、なぜか温かかった。


男が振り返る。

黒髪を後ろに撫でつけた精悍な顔立ち。左目の下には、小さな傷跡があった。


「君がアシュリエルか。俺はチャールズ。この支部の指揮官だ」


「はい。第三部隊より転属となりました。アシュリエル、着任いたしました」


アシュリエルは背筋を正し、かかとを揃えて敬礼する。


「信頼できる兵が足りていない。君のような者が来てくれて助かる」


「任務は必ず全うします」


その口調は礼儀正しく、しかし柔らかさはなかった。

言葉の奥にあるのは、鍛え上げられた静けさと、鋭い意志だった。


そのとき、扉が再び開く。


「司令~! 新人連れてきたよ!」


明るい声と共に、一人の少女が駆け込んできた。

肩までの金髪が跳ね、無邪気な笑顔が咲いている。


その後ろには、帽子を深く被った少年が無言でついてくる。


「紹介しよう。あちらがサリル、こちらはエゼル。俺の部隊のメンバーだ」


「静かじゃないけどね……」と、エゼルがぼそりと呟く。


アシュリエルは一歩前に出て、短く頷いた。


「了解しました。はじめまして」


サリルがふいに顔を近づけてくる。

その目は一見明るく無邪気なようでいて、どこか鋭さを秘めていた。


「へえ……あなたが転属の人? 髪、綺麗すぎない? アエルシアの人間って感じ、しないんだけど?」


チャールズがわざとらしく咳払いする。


「あ、冗談冗談~!」とサリルが笑った。


アシュリエルは微笑まず、ただ静かに受け流す。


「では、作戦の説明に入る。こちらに集まってくれ」


チャールズは紙の地図を指差す。


「ここが《アウリアム鉱山》。我々の目標地点だ」


彼の指が、山岳地帯の線をなぞる。


「侵略者たちはこの鉱山を重点的に採掘している。狙いは神聖鉱石だけじゃない。

ここは《第七世界》に近い《霊の道》が通っている。戦略的にも、退路としても極めて重要だ」


アシュリエルが問いかける。


「つまり、その道を断つのが目的ですか?」


「いや、今回の任務は潜入調査だ」


チャールズは地図の端を指で叩いた。


「帝国は毎月十五日に囚人を奴隷として売却している。あと二日――そこが潜入の好機だ」


エゼルが静かに口を開く。


「なら、第九世界で採掘すればいいのでは?

あそこの資源はアエルシアより質が良いと聞いていますが」


チャールズは目を細めて微笑んだ。


「鋭いな。だが第九世界は第五世界の支配下にある。

第八世界の奴らが、そう簡単に手出しできる場所じゃない」


アシュリエルが呟く。


「……つまり、アエルシアは狙いやすい」


「その通りだ。アエルシアの主権は無意味。帝国は金さえ受け取れば、誰にでも魂を売る」


チャールズの表情が一瞬引き締まる。


「それに、奴らは《聖なる宝》を探しているという噂もある。……俺は信じていないがな」


アシュリエルの眉がわずかに動いた。


「……その可能性は否定できません。《聖なる宝》は――」


声が、わずかに高くなる。


「……失礼しました」


チャールズは彼女の様子をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。


「いいさ。おそらく、何かある。

奴らの行動には一貫性がない。帝国から大量の奴隷を買い、アエルシアの奥地に固執する理由――それが鍵だ」


静寂が訪れる。


やがてチャールズが一歩下がり、指示を下す。


「アシュリエル。君がこのチームの指揮を取ってくれ。

二日後、サリルとエゼルと共に現地へ潜入する。目立たず、生き延び、必要な情報を持ち帰ること」


「了解しました。必ず成果を持ち帰ります」


作戦会議は、これにて終了した。


サリルは鼻歌を口ずさみながら部屋を出ていき、エゼルは静かにそれに続いた。


アシュリエルは一人、自室へと戻る。


そこは質素で装飾のない空間だったが、整っていて、どこか落ち着ける場所だった。


ドアを閉め、彼女はそっと壁に背を預ける。

そして、掌を見つめた。


「……《聖なる宝》。獣人たちの手には……絶対に渡せない」


その掌が、微かに震えていた。


彼女の瞳が、静かに――けれど確かに、光を宿す。


残されたのは、あと二日――。


実は、私は日本出身ではありません。これまでは英語で物語を書くことが多かったのですが、日本語でも自分の物語を届けてみたくて、この作品で挑戦しました。



友人以外に読んでもらうのは、これが初めてです。まだまだ未熟な点も多いかと思いますが、少しでも心に残る何かがあれば嬉しいです。



さて、次回の章では、私が特に大好きなテーマ――「運命的な出会い」が描かれます。エリオンとアシュリエル、異なる道を歩んできた二人がついに交差する瞬間を、ぜひお楽しみに。



これからも英語版と日本語版を並行して書きながら、少しずつ成長していきたいと思っています。



ここまで読んでた皆さん、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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