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(囁く水音)
深い闇の中、水の音だけが響いていた
一歩踏み出すたびに冷たい液体が足首を包み込み
その音はまるで誰かが耳元で囁くように繰り返された
空気は重く濡れていて呼吸が苦しい
水面に揺れる淡い光がわずかに進む道を照らすが
その先は見えず底知れぬ深さを感じさせた
声が聞こえた気がした
言葉ではなく感情を伝えるような静かな呟き
「帰れ」「忘れろ」「見ないで」
振り返ることもできずただ前へ進むと
突然水が盛り上がり波紋を描いた
影が揺れ、形のない存在が近づいてくる
体中を冷たい水が包み込み逃げ場はない
囁きが次第に大きくなり胸の奥を掻きむしった
その時、俺は知った
この水はただの水じゃない
過去の記憶や秘密が染み込んだ忌まわしい液体だと
逃げることも忘れることもできず
俺はその囁きに身を委ねていった