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(浮く声)

 水の音で目が覚めた

 自分がどこにいるのかすぐには分からなかった

 天井は低く壁は黒ずみ湿気がひどく空気が重い

 それでも確かにここは前の部屋とは違っていた


 水は足元を流れていた

 流れているというよりは漂っていた

 膝下まで静かに満たされていて温度はぬるい

 まるで長い間誰にもかき混ぜられていない浴槽のようだった


 声が聞こえた

 はじめは耳鳴りかと思った

 水の中から漏れるような音だった

 呼んでいるのか歌っているのかは分からない

 言葉ではなかったが意味は伝わってきた気がする


 浮かんできたのは声だった

 姿ではなく音だけが水面に浮いていた

 自分の声に似ていた

 何かを謝っていた

 何に対してかは思い出せなかった


 奥に進むと小さなモニターが壁に埋め込まれていた

 古い防犯カメラの映像のようだった

 ノイズだらけの画面の中にエレベーターが映っている

 誰も乗っていないはずの箱が

 ゆっくりと上に上がっていた


 水面が揺れるたびに画面も歪んで見えた

 だが確かに映っていた

 エレベーターの中に濡れた足跡がついている

 一対ではなかった

 二対

 三対

 そのどれもが逆向きについていた


 画面の中のボタンがひとつ光る

 押された階数は存在しない番号だった

 耳元でまた声が浮いた

 次はあなたの番だと


 そのとき部屋の水が一斉に引きはじめた

 音を立てず静かに

 ただし水面から消えたのは水だけではなかった

 足音も

 声も

 床も


 気がつくと自分が

 どこにも立っていなかった

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