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(覚醒の淵)
冷たい水に包まれたまま、俺はゆっくりと意識を取り戻していた。
あの日、あのビルの階段を駆け上がっていた時の感覚が蘇る。
叫び声、崩れ落ちる壁、逃げ場のない絶望。
そして、はっきりと思い出した。
俺はあの瞬間、命を失ったのだと。
動くはずのないエレベーター、濡れたボタン、
ずっと感じていた水の冷たさは、死の境界線だった。
だが、ここから抜け出せない。
扉は開き、光が差し込んでも、進めない。
俺はまだ、終わっていない。
背後から、囁く声が聞こえた。
「戻れない、忘れられない」
振り返っても誰もいない。
ただ、水面に揺れる自分の顔が、歪んで笑っていた。
死は終わりではなく、ここが終わりの始まりだった。