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少女はまだ空を見れるか③

数時間後、意識を取り戻した少女は起き上がり目を開ける。何も見えない暗闇だろうと思っていた少女の視界は清潔感のあるシーツや薬品、古い埃を被った本などが飛び込んできた。


「あ…目を覚ましたんだね。良かった、目は再生できても神経がつながっていなかったら見えないからね…おれの礼物は自分が理解してる範囲の治療しかできないから、実は少し怖かったんだ」


少女の近くで薬剤の整理をしていた張は目を覚ました少女をみて嬉しそうに微笑んだ。しかし、


「なぜ…なぜこの忌まわしい目を直した…!?どうして!どうしてそのままにしてくれなかった!?こんな目、一生潰れて何も映さないのが正しい道だった!いっそ治療が失敗して自分が死ねばどれほど良かったかあなたにはわかるまい!!命を奪うことしかできないこんな目なんて!あなたは殺人犯も同然だ!このあと自分は多くの人の命を奪うこのになってしまうのだから!どうして...どうして自分のこの目をここまで完全に治してしまったんだ...!」


少女は涙ながらに叫んで再び自分の目に手を伸ばそうとした。慌てた張が少女を押さえ格闘していると別の医師が鎮静剤を片手に少女に近づき、その腕に注射器を突き刺した。

 しばらくもがいていた少女だが、力が抜け、ふっと意識を落とした。


「…あまり同情するなよ、張。俺等は何かと嫌われがちだ。特に第3級に振り分けられる天与礼者からはな…お互い、哀れな身の上だよ全く」

「わかってるさ…でもこんな小さい子にどうやって情を捨てられるって言うんだ?」

「俺に聞くなよ。俺だって半鬼って言われるが人の心はあるんだ」


医師は白衣のポケットに手を突っ込んでそっぽを向く。

 人を殺したくないと泣く少女に対して二人の天与礼者はあまりにも無力だった。苦しげな寝顔の少女から目を背け彼らに下された命令をこなして自らを忙しさに駆り立てることでしか彼らは彼らの無力さを誤魔化せなかった。


 その後の数日間、回復しきったと判断された少女は鉛のように重い体に更に重い拘束具を付けられ自傷できない状態にされ、地下牢につれてこられた。

 その場には数人の研究者がペンと紙を片手に狂気的な熱を孕んだ目で少女を見る。目隠しを外された少女は目の端でそれを捉え、身を震わせた。


「H862、眼の前の死刑囚と目を合わせこれを言え」


少女は眼の前に出された紙に書かれた言葉を見る『中毒死』…確かにそう書いてあった。


「…中毒死」


少女は言われたとおりに縛られた死刑囚と目を合わせ確かにそう言った。しかし死刑囚は苦しむ素振りもなく顔をしかめて、状況が理解できていないようだった。


「ほぉ!本当に死なんとは、実に興味深い!」

「肉体的損傷はもうすっかり直っているはずだね?ならば能力の使用に回数制限があったと考えるべきか?」

「いや、能力に回数制限があった話は聞いたことがない!もしそうなら初めての前例だ!」

「いやいやこの前の研究会での発表を聞いていなかったのかね?やつらの能力は精神と深く関わっているらしい」

「そうだそうだ、ならば心理療法でも試してみるか?」

「しかし心理療法はなんせ時間がかかりすぎる!」


研究者がガヤガヤと騒ぎ立てるのを横目に上官は少女をゴミを見るような目で睨みつけ舌打ちをした。


「使えなくなった兵器は処分されるのが通例です。此奴も例外ではありません」

「まあ待ち給え三等兵君!この礼者は貴重な標本だ!そう簡単に処分してしまうのは勿体ない!」

「我々に任せればまた元通り使えるようになるだろうさ!」


貴重な実験体を目の前にした研究者たちは高揚した声音を隠そうとすることもなく上官に詰め寄る。上官は嫌そうな顔をしつつも大佐の推薦で派遣された研究者を足蹴にすることもできず少女を研究者たちへと引き渡した。


 はてさて、少女にとってどちらが地獄だろうか。

暴力の嵐を浴びせてきた上官の采配で殺され、楽になるか。狂った研究者のもとで安全ではあるが使えない能力を無理やり使えと指示され身も心も擦り切らせるか。

 少なくともどちらも少女の心を蝕んだのは事実だ。次第に鮮やかさが無くなっていく少女の目を気にする人間はおらず、少女の礼物の研究が進められていった。

 少女が礼物を使えなくなった原因がやはり精神にあるのではないかと予測した研究者らは王に心理療法士を付け、経過観察をするべきだと進言した。


研究者らの進言に自分の目で確認すると言い張った王は少女を収容している部屋へと足を運んだ。

 少女の状態を目にした王は思わず生唾を飲み込み、額に深く皺を刻み込んだ。


「心理療法士を付けての経過観察を許可する。だが、心理療法士は私の方で手配する」

「おお!ご協力ありがとうございます王大佐!」

「して、彼女の腕を拘束している理由は何だね?彼女の礼物は目に関係しているし、更には今、礼物は使えないと聞いていたが」

「ああそれはですね、拘束を外した事もあったのですが、なんせ自分の目を抉ろうとするものですからこのような姿になっております。王大佐もくれぐれも、くれぐれも拘束を外さないようにお願いしますね」

「…心がけよう」


王は研究者たちから少女に視線を戻し、ため息混じりに答える。腕を拘束され、目隠しを付けられ、自由がきかない少女が纏う雰囲気は死を待つ老人のようで到底15、16の少女とは思えなかった。

この後の話が本編の第一話、『邂逅』に繋がります。番外編はこれで完結です。

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