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神様の思し召すままに   作者: 藤村静
金星の場合
8/9

金7

あの日以来なんとなく筆が進まない。


(キーボードでも筆が進まないって言うのかな⋯)


そんなくだらないことばかり考えている。

どうも後ろ向きな考えしか出てこない。

もう彼女には会えなくなるのかもしれない。

遠くに引っ越してしまう片想い相手に抱く感情はこんな気持ちなのかもしれない。

もう考えていることも訳がわからなくなってきた。


ピンポーン♪


「は!え!?もうそんな時間!?」


時計を見ると約束の時間になっていた。

初対面の人に会うのだから多少は身支度を整えたい。

髪を手でなでつけ簡単に服を払う。

インターフォン越しに話しかける。


「はい。」

「お疲れ様です。西風(ならい)です。」

「どうぞ。」


エントランスドアの解除ボタンを押す。

エントランスのモニターには彼女しか見えなかった。

たまたま死角にいる?

しばらくすると玄関ドアのチャイムが鳴った。


「お待ちしてました。」


玄関ドアを開けて挨拶をする。

そこには西風さんがいた。


「先生、おはようございます!」

「おはようございます。」


一瞬、彼女の周囲を見回したが他に人はいないようだ。

部屋へ招き入れるが人数はやはり一人だ。

不思議そうにしていたのがわかったのだろう。

彼女が少しはにかみながら話し始めた。


「先生!次は誰との話にします?舞台はどこにしましょうか。現代版にアレンジして学園ものとかどうですか?」


話しながら、もう抑えられない!といった感じにまくしたてた。

出会った時以上に高揚した可愛らしい笑顔で。

訳がわからず固まる私を見て、彼女はにっこりと微笑んだ。

そしてこう続けた。


「先生!これからもよろしくお願いします!」


頭で考えるよりも先に涙が頬を伝うのを感じた。

自分が泣いていると分かった瞬間に彼女が言ったことを理解した。

さらにあふれる涙をどうにもできないでいると、彼女は持っていたハンカチで私の頬を拭いてくれた。

花柄のハンカチからは薔薇(ばら)の香りがした。

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