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神様の思し召すままに   作者: 藤村静
金星の場合
6/9

金5

その後の授賞式のことは正直あまり覚えていない。

進行係に呼ばれてステージに押し出され、賞状の授与とスピーチをした⋯んだと思う。

スピーチでも何をしゃべったのか覚えていない。

終盤で観客から大きな笑い声が上がったのは気になった。

変な空気にはなってなかったとは思う。

後でお偉いさん方から怒られることもなかったので問題になる内容ではないと思う⋯思いたい。

今更動画とかを確認するのも恥ずかしいので忘れることにする。


式の後はメディアのインタビューとプレス用の撮影を数社分こなした。

数日間はインタビューなどでかり出されるのかと思っていたが、翌日からは一切呼ばれることはなく、こうして自宅で引き篭もりができている。

おそらく、担当が当日だけで全て済ませられるようにセッティングをしてくれていたのだろう。

当日にインタビューを受けた会社はうちの会社とコアな付き合いのあるところや、最大手の会社など厳選されていたと思われる。




あの日は会社が会場近くのビジネスホテルを私用に取ってくれていた。

満員電車NG、タクシーNGという事情を考慮してくれてのことだ。

これ以上は申し訳ないので宿泊費をと伝えると―――


「でしたら受賞作のサイドストーリーをお願いします。問い合わせが多いので。」


とサラッと言われた。

担当はフロントに了承をもらって私を部屋まで送ってくれた。


「先生、今日は本当にお疲れ様でした。明日はそのまま自宅へ戻っていただいて大丈夫です。チェックアウトは14時までにお願いします。ではお休みなさいませ。」

「ありがとう。お休みなさい。」


日付はとうに回っていた。

さすがに疲れていたのだろう。

倒れ込むように寝落ちして、気付いた頃にはお昼を過ぎていた。


スマホには登録数よりも多い数の通知が来ていた。

着信履歴もある。

通知の3分の2は水星からのものだった。

既読がついたことに気付いたのか、電話がかかってきた。


「もしもし?やっと出た!何も聞いてないんだけど!恋愛ノベル大賞って何!?昨日からテレビであんたの顔が映ってるんだけど!先に知らせなさいよね!!もうあの方も知ってるだろうし⋯。伝令役の私のことも考えなさいよね!!」

「ごめんなさい。私も昨日、会場の控室で聞いたのよ⋯。」

「だったらわかった時か、せめて昨日の内に知らせないよ!今まで何してたのよ!?」

「ごめん、寝てた⋯。」

「ぁあ゛!?」

「ごめんってば⋯。」

「疲れてるのはわかってるわよ。引きこもりのあんたにはきつかったんでしょ?だからもっと体力つけなさいって言ってるのよ!」

「そうね、そう思うわ。」


神と言えど体があるということはこういうことなのかと改めて実感していた。


「でもあんた以上に裏方の人達はもっと大変よね。もしかしたら寝てないんじゃない?」

「!」


そうだった。

きっと編集部、営業部の人達は私を送り届けた後も報道関係者の対応や会場の撤収作業にあたっていたはずだ。

会社に行けば大量に届いているメディアからの問い合わせを捌かなければならない。

水星に言われるまで気付かなかった自分が恥ずかしい。


「⋯」

「言っとくけどあんたが凹む必要はないからね。向こうにとっては仕事。恩恵だって受けてる。それにこの日のために備えていたはずよ。逃げられないための対策は完全に蛇足だとは思うけど。」


それを言われると弱い。


「その辺りのことを含めて、一応私からも報告させてもらうから。じゃ。」


相変わらずのマシンガントークだ。まぁでも流石に今回のことは申し訳なかったなと思っていると、またメールが来た。


『おめでとう!言い忘れてた!』


絵文字もない文のみだ。

水星らしい。


『ありがと♡』


私はハートの絵文字をつけて返信した。

チェックアウトの時間が近づいてることに気付き、荷物をかき集めて部屋を出た。

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