2-4 昼休みになぞなぞクラブで遊ぶ! やっぱりゾロアスター可愛い!
旧校舎は四階、なぞなぞクラブへとやってきた。
暖簾の前まで近づくと、今日は一段と嬉しそうな声が俺を迎えてくれ――
「………ややー、この声この匂いー、もしやお主の正体はー、活動開始から十五分以上も経過した後にのうのうと現れる遅刻系主人公、トキマス殿ではないかー」
――ると思ったのだが、暖簾の声は露骨に俺を批判していた。
「すまん。教室で弁当食ってた。そうだよな、よく考えれば、俺も部員だしここで食ってもいいだよな」
昼休み開始直後にここにダッシュで来れば誰にも捕まらないし、今度から一人で食べたい時はそうしよう。
じゃあちょいと失礼しますよって感じで暖簾をくぐろうとすると
「ままま、待て! まだ心の準備ができていない! 君が入ってきたら狭いスペースに二人きりだし、そんなの恥ずかしいし、まだ入っちゃだめだ!」
「いや、俺は活動開始から十五分も経過した後にのうのうと現れた遅刻系主人公なんだから、心の準備はできてるだろー。お邪魔しまー」
「と、解いたのか!? 今朝渡したなぞなぞ、全部解いたのか!?」
……さて、唐突ですがここでモテる男の秘訣を紹介します。
女の子から貰ったりオススメされたものは、必ず一度は自分でそれを試して、感想を言える状態にしておくこと。
例えばファッション系のアイテムをプレゼントに貰ったなら、翌日には身につけてお礼を伝える。なお、ガチでセンスなくて実用レベルに満たないブレスレットとかを貰った時は、カッコいいから家のぬいぐるみにつけてるよ~となどと言って逃げる。嘘はいけないのでちゃんとぬいぐるみにつけて証拠写真を撮っておくこと。
漫画やユーチューバーをお勧めされた時は興味がなくても必ずチェック。なお、マジでつまらん時は池谷や河本君とか詳しい奴に投げて面白ポイントだけ教えてもらい、後は流し読みもしくは垂れ流しでおっけ。
食い物系は貰ったら基本その日の内にすぐ食べる。なお、マジで力入り過ぎてるバレンタインのチョコレートは自分で食うと呪われそうなので、妹に食わせて感想だけもらう。アイツは基本『甘くておいしい』としか言わないので、俺もそのまま女の子に伝える。
今回は自作のなぞなぞ集を渡されたので。
「全部は多いから五枚だけ持ってきた」
こうやってスルッと懐から取り出せる男はモテます。なお、ガチで狙っていく相手なら予め何問か解いておき、前のめり気味にでも『なぞなぞ解いたよー』と伝えられるのがベストである。
しかし、今回は相手が宮奈なので問題なし。仮に相手が北林さんとか丹波さんクラスの見た目だったら既に六十問くらい解いていてもおかしくはない。
ハハハ。宮奈、軽んじられ過ぎ。でもそんなもんやてー、世の中顔やでー。むしろ五枚でもこの場に持ってきてる俺の方が偉いわ。はははー。
で一方、恥ずかしがり屋さんの宮奈はというと全力で暖簾ガードしていらっしゃるので、俺は言われた通りなぞなぞを解くことにする。
では一問目。
次の特徴を持つ漢字一字を答えよ
①これを立たせる言い方はあまりよくない
②馬に変身できる
③刀と牛がくっつけば、ずばり答えです
「ふむ、漢字系か。今まで無かったな」
「きょ、今日はいくらでも悩んでもよい。私が心の準備を終えるまでな」
「答え、角。①は『角が立つ』って熟語になるから。②は将棋の時の『角』の裏が『馬』だから。③はくっつけると漢字の『解』になるから」
「……正解」
はい二問目。
誰に対しても何に対しても冷たい奴。基本的にみんなの人気者ですが、たまに温かくしちゃうとすごく怒られます。中でも特にお母さんに怒られます。それって何?
「シンプルだが、なぞなぞって感じのいい問題だな」
「制限時間は五百秒だ。ゆっくり悩むといい、さあ、私はもう一度前髪を整えて」
「答えは冷蔵庫」
「……セーカイ」
はい三問目。
上から見れば陸海山のすべてが見渡せて、横から見たらぺーらぺら。これは世界地図です。では、上から見ればバッテンマーク、横から見れば山と谷がたくさんあるものってな~んだ?
「さっきと同じテイストっぽい。これも問題文にとらわれず、頭を柔らかくして考えればいいからー」
「ま、前髪、前髪、って、しまった、鏡を教室に忘れてきた! せっかく生まれて初めて手鏡を持って登校してきたのに!」
「答えはネジ、はいセーカイ」
どんどん進め四問目。
次の三人が新商品のプレゼンテーションをしました。
・小倉さん
・大東さん
・中島さん
この内の二人のアイデアは採用されましたが、一人は不採用になりました。アイデアが不採用になった人は誰でしょう?
「名前問題キター。アイデアが不採用になった人か、それはつまりー、アイデアが『お蔵入り』になっちゃった人だろー」
「そうだスマホのインカメを使おう。ふ、ふむ、いつもと同じ顔ではないか。風呂場の鏡で見るほどではないが、可愛いんじゃないか、そうだなここは一つ、振り合うも他生の縁と言うしー、か、可愛いぞ私、これなら私がメインヒロインでも問題ない、はず」
「選択肢にオクラさんいんじゃん。答えは『オクラ』入りの人なので小倉さん。はいセイカーイ」
最終問題です。
洲屋高校の風紀委員会はとても怖いです。
特に風紀委員長は大魔王のように怖いです。
ある日、私はその怖さに耐えかねて委員会室から、『走って』逃げ出してしまいました。風紀委員会は大激怒で私を探しています。
さて『私』は次のうちどれ。
①脚が不自由な少女
②掛け算が出来ない少女
③表情変化の少ない少女
④二年五組の超重要人物。この人がいなかった二年五組は崩壊する。
「いやこれ、風紀委員会抜けたのって、宮奈じゃん。答え④、五組が崩壊するは言いすぎだけど、そこそこの重要人物だし」
「え? 今、答え④って言った? ファイナルアンサー?」
「うんファイナルアンサー」
俺は何とは無しに答えてしまった。どうせ宮奈はまだ慌てふためいている最中だろうと、特に何も考えずにファイナルアンサーしてしまった。
「はい残念外れー! 時舛外れー!」
「な、なぬっ」
「やれやれ時舛殿、君もようやく我がなぞなぞクラブの部員として、相応の実力がついてきたかのようにも思ったがー、この程度の問題に躓いているようではダメだなぁお先が暗いぞー。いやいやしかし私も鬼ではない。どうかなここは一つ、袖振り合うも他生の縁と言うしー、今日はまだやっていなかった再開の挨拶をしておくのがいいと思うがー。せーの」
ぬっと暖簾から黒仮面が出てきて声を合わせる。
「「これはしたりー」」
くそ、宮奈め。急にいつものゾロアスター調に戻りやがった。
「なんで間違いなんだよ。詳しくは知らんが、風紀委員会から抜けたのは事実なんだろ」
「キミは問題文に捕らわれてなぞなぞ的思考を放棄するんじゃないよ。問題文にはちゃんと強調カッコつきで『走って』逃げ出したと書いてあるだろーう」
「走って逃げだした……? なら、選択肢①の脚が不自由な少女は、走れないから間違いか」
「そうだ。そして『走る』は『駆ける』と言い換え可能だ。つまり、『カケル』ことが出来ない選択肢は間違いだ」
「むむむ、つまり選択肢②は掛け算ができない、つまり『掛ける』ことが出来ないから間違い。選択肢④は、超重要人物、いなければ崩壊、ということはー、そうか。『欠ける』ことが出来ない。だから間違いか、クソ、やられた。答えは③だな」
「その通りである。やれやれまったく、ちょっと私が慌てているフリをしていれば、君は答えを先急ぎ間違えてしまうんだな。部員にあるまじき失態だ。というわけで、暖簾の中にはいれない」
「そんなっ。入れてくれよー。さみしいだろー」
「ふふふ、ダメである。君のような憎らしい美男と話すにはこの距離が丁度いいので、キミは一生そこだ」
「俺も部員っ! 部員なのに部室に入れてもらえない男!」
宮奈はふふふーと笑うだけで、やっぱり俺を暖簾に入れてくれるつもりはないようだった。
暖簾の中の脚は楽しそうにふらふらと前後してる。
……やっぱ宮奈って雰囲気はめちゃ可愛いな。普段からこんな感じにしてればいいのに。絶対守本とも仲良くできると思う。福原も安藤も向こうは宮奈に歩み寄ろうとしてるわけだし。
いくら一年の時に喧嘩したって言っても、体育館で三時間もレスリングしてたらお互い様じゃん? もう昔のことは水に流して仲良くするべきじゃん? うんうん、宮奈にとっても絶対その方がいい。
そうだ、三人デートガチでやろう。
俺と宮奈と守本の三人。それで宮奈と守本の仲を取り持った後は、あわよくば宮奈と守本のダブル攻略狙おう。
あー、宮奈と守本を両腕におさめてえ。二人とも身長足りんけどサイズ感はピッタリで気持ちよさそう。そんで宮奈の胸揉みながら守本の顔見てたら完璧じゃね。
ハハハッ、心の声下品過ぎて草。
でも俺ならやれる気がする。恒久的に二人と付き合うことは不可能だが、一夜の過ちなら全然ある。
よし、やってやらあ。俺はどんな物語でもハッピーエンドにできる男だぜ。
もちろんスクールカースト風味の恋愛もいける口だぜ。華麗で強引な一軍男子様を演じてやるよ。ま、俺の中での宮奈って『変な奴枠』であって、三軍女子って感じもしないけどな。
などとゲスゲスな妄想計画を立てていると、暖簾の中から落ち着いた声が聞こえてくる。これはゾロアスターのお喋りな声ではなく、力強くて簡潔で、しかも神秘的な、あの宮奈藍子の声だった。
「まあ、この暖簾部室もこの昼休みで終わりだ。新しく君が入ってくれたから、そっちの部室を使おうと思う。相変わらず風紀委員会と同部屋なのだが、さすがに君が入ってくれればあの嫌味な貼り紙もやめるだろう」
ということは、もうこの暖簾を見ることはないらしい。ちょい寂しい気もするけど、部室が戻るならこれでいっか。
「解った。放課後はここで待ってる」
「絶対に遅刻するなよ。今日は第一回なぞなぞクラブ会議である。ナゾナ・ゾロアスターの秘めたる野望を説明しよう」
俺達は昼休みが終わるまで暖簾を挟んでなぞなぞ遊びに興じるのであった。