序章:始まりの合図
この物語には、悪魔や魔女が出てきます。
少々グロテスクな表現も入ります。
そういう物語がお好きな方は大変歓迎いたしますが、
苦手なお方はお避け下さい。
まぁ…。
お読みになるお方はいないと思いますが。
1.
「ルイーザ…ルイーザ・シェリー……。」
「だ……誰なの…!」
暗闇に木霊する少女の声。
「その声…髪…その体……なんとも美しく憎き瞳…」
悪魔の声が頭に響く。
「………貴方…もしかして…」
「いつか…いつか必ずや…奪いに…ゆ…く……」
「奪いに……くる…」
悪魔の声はだんだんと小さくなり、消えた。
「…………。…寒いわ…」
少女は呟き、とぼとぼと歩き始める。
暗闇は永遠に続き、そこに光は見えなかった。
‐‐‐
1989年4月9日。とある本屋の裏、二人の少女が隠れていた。
「ね、ね、またあたしの番でいいよね。昨日あった怖い話しちゃう!」
話の内容は恐怖体験。少年のような声の少女は、にやりと笑みを浮かべた。
「昨日、帰りに神社の前を通ったの。そしたら、なんか視線感じて……」
「ジルぅぅぅ。それ知ってるーっ。昨日テレビで話してたじゃんさー」
長いブロンドヘアーの、くりくりした瞳の少女は可愛い笑顔で言った。
ジルと呼ばれた短い黒髪の少女はため息を漏らして、その子を見返した。
「なんだ知ってたかぁ。つまんないのぉ。」
「怖い話情報は豊富だからねっあたし。」
「じゃぁ次リリン話してよ。」
ジルは、青と黒のオッドアイをちらつかせて少女を見た。鋭い視線を向けられたリリンと呼ばれる少女は、ジルを睨んだ。
「いいわよ…。泣いても知らないんだからっ」
そう言って静かに話し始める。
今外にいる子供は、ジルとリリンの二人だけだった。二人は学校指定の鞄を背負っている。学校をサボっているのだ。
本屋の裏にいるのは警察に見つからないようにするためで、怖い話をするのには最適な緊張感だった。
「その少女はかなり綺麗でね…あまりにも綺麗だから悪い人に狙われたり……その子は綺麗な顔の自分が嫌いだったの。」
「顔をナイフで刺すとかいうのナシだよ」
「違う。」
キッパリと答えて、リリンは話を進める。
――ある日の夜、少女は学校の帰りが遅くなっちゃって、急いで帰ってた。そしたら突然背中から知らない男が抱きついてきて、その子は襲われた。
その男は前からその子を狙っていて、部屋には少女の写真が貼りまくられていたの。
その日以来、少女は自分の顔を憎むようになって、外にはマスクをしていくようになった。
それから幾月がたった後、その子は人里離れた山へ出かけた。そこで、一人の魔女に出会った。
―――――顔を隠すかい?
いきなり魔女は少女に訪ねた。その子は最初こそ戸惑っていたものの、話をするうちに魔女に馴れて、さっきの願いを叶えてと頼んだの。
魔女はその子を薄暗い小屋に連れて行って、小さな瓶を渡した。
そして何かの呪文を少女の手にかけて、飲むように勧めた。
これで、顔を変えられるなら…って、その子は蓋をあけて、中を覗いた。中には、青く輝く液体が深く深く続いているように見えたの。
どきどきしながら、その子は液体を口に運んで、ごくりと…その瞬間――……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁっっ!!???」
突然リリンが叫んで、ジルは飛び上がった。
「なによっ!!!!リリン!」
ジルが青ざめた顔でリリンを睨むと、リリンはクスクスと笑った。
「あたしって話すの上手でしょ?ふふっ怖がっちゃって」
くすくすと面白がって笑うリリンを見て、ジルは赤くなって叫んだ。
「うるさい!あたしはリリンの声に驚いただけだもん。てか、その話幽霊でてこないぢゃん。」
「このあとがこわーいのよ。…言わないけど」
最後の言葉に、ジルは反応した。
「なんで?なんで言ってくれないの?」
「顔は普通の顔になったのよ。でもーー……。」
リリンの顔に、少しだけ動揺が見れた。
「……?どうしたの?」
「う…うん…なんでもないけど…あっ!やばい!」
突然リリンが寄ってきて、ジルは小さく悲鳴を上げた。
「今度はなによっ」
ジルが聞くと、リリンは人差し指を口の前に立てて囁いた。
「警察がパトロールに来てるわ。」
ジルは本屋の陰からこっそりと外の様子をうかがった。警察が二人、町を歩きまわっている。
(警察がこんな時間にくるなんて……なんかあったのかな…。)
警察のパトロールは、二人が見る限りだいたい昼の2時以降だ。だが現在朝の8時。こんな時間に警察が来た例はない。
「どうすーー……リリン?」
ジルが振り向いてリリンを見ると、リリンの手が苦しそうにジルの袖を掴んだ。
「……リリン?」
「何か……苦しい……っ」
リリンが倒れこんだ。ジルは慌ててリリンを抱き寄せた。
「大丈夫?ねぇ、しっかりしてリリン!」
リリンの体が熱い。息も乱れていた。――なに…この熱さ…。
ただ熱いだけじゃなく、ジルにはなにか、別のものの感触があった。
「リリン……」
呟いて、ジルはリリンを抱きかかえてこっそりと本屋を離れた。向かう先はあの場所しかない。
(死なないで、リリン!)
ジルには、そう思うほかなかった。
2へ続いちゃったりなんちゃって。