「波うさぎ」
明け方近くだろうか?
昨晩からの発熱のせいか、よく眠れなかった。
漸く、意識が霞み始め、レースのカーテン越しに、ぼんやりとした月の明かりを見たような気がする。
最近は、熟睡するということもなく、気がついたら朝だったとか、昨晩の顛末を思い出すのに苦労するだとかもなく、起きているつもりが、いつのまにか夢の世界だったり、現実のはずが、ふと思い出すと辻褄の合わない話の中で、もがいていたりもする。
昨晩の熱は、体の中に這う虫がいて、無理矢理に血管の中を押し進み、どんよりとした鈍めの痛みというか、皮膚を浮かせて溶けた鉛を流し込むようなというか、なんとも伝えるに表現の言葉が見つからない、得体の知れない苦しみを味わわせてくれた。
隣の部屋で寝ている女に、毒でも盛られたのかなとさえ考えた。
普段なら、親しい女のことを「隣の部屋の女」などと呼び捨てることもないのに、ほんと、どうかしている。
「うさぎ」は海の上を走っていた。
鮫も鰐もいない。
因幡の白兎ではないようだ。
月は赤く、波は砂漠の蛇のように、無数の生き物が捩れ、戯れながら、舟の後ろに流されていく。
進む先には、影だけが浮かび上がる竹生島か?
はたして、私には、その島に向かう資格はあるのだろうか?
「悩むな。惑うな。」
ただ進むのが良い。
その声に驚き、波を越えて走るうさぎは、無数の蛇に呑まれてしまう。
赤く、ぼんやりとした月から、一粒の真珠のような光りが溢れて、海に落ち、ひとまわり大きく膨らんで、波の下のうさぎを包み込み、また浮き上がる。
私は安心する。
この先の夢の部分は、短編として、R15で上げました。
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