人狼面接
面接官を務める社員の一言から始まった。
「今日は参加してくれてありがとう。早速だが、君たちの中に一人、うちの社員が混ざっている。君たちにはこのグループワークで、我々にアピールをしながら、その人狼を見極めて欲しい……」
話を聞くと、以下のような感じらしい。
・成果は得点制で評価する
・加点項目や減点項目は公開しない
・面接の終了後に、誰が人狼であるかの投票を行う
・人狼(社員)は、吊られなければ賞与を与えられる
・村人(学生)は、吊られた場合、減点される
・村人(学生)は、正しい人狼に投票した場合、加点される
ちなみにこれは学生には公表されていない情報だが、採点項目には「協調性」もある。
つまり、優秀な人間を意図的に貶めようとする行為は減点対象になる。
我が社が求めているのは優秀な人材でなく、共に働く仲間なのである。
早速状況が動きだした。
口を開いたのは面接官だ。
「それでは皆さんには……まずは簡単に自己紹介をしてもらいましょう。
名前と大学名と……あとは趣味などがあれば話してください。それでは時計回りにお願いします」
学生達は面接官の言葉を聞いて名乗り始める。
有名な名門大学や無難な大学から、初めて聞く大学まで、様々な男女がいる。
嘘か誠か趣味も多岐にわたっており、俺という存在が霞んでしまいそうになる。
普段であれば他人の話など聞き流すのだが、今回は人狼を見極める都合、どうしても耳に入る。
こうやって他人を観察していると、俺自身の価値に自信を持てなくなりそうで、怖い。
そんなことを思いながら待っていると、隣の学生が腰を下ろした。
立ち上がり、頭を下げる。
「奈路宇大学出身の、塚 昌世です。趣味は読書です。最近は、無料の小説投稿サイトを読み漁っています。よろしくお願いします」
ペチペチと安い拍手が鳴り、椅子に座ると順番が次に移った。
実際には、小説投稿サイトで執筆投稿もしているが、そんなことは口にせずオブラートに包み込む。
「え、どんな話を書いているの?」
「こんな話だよ」
「え……うん、すごいね」
気まずい空気になるのが目に見えているからな。
そんなふうに考えるから、コミュ障だとか友達が少ないとか言われるんだろう。
……駄目だ、こういうことを考えると、自己嫌悪に陥ってしまう。
目の前の面接に集中しないと……
邪念を払うように深呼吸をして、他学生の分析を続けることにした。