兎の殺気と男の甲斐
粗野な男性冒険者たちからの、ゴブリンによる凌辱の日々から解放された女性たちに投げかけられる言葉を、いかにして止めるか考えを巡らせていた時だった。
「みなさーん!少しうるさいです。私たちは彼がクリアしたとあるクエストの報告でギルドに来ているだけです。ここにいる女性たちは私たちのお店の新人さんでも無ければ、娼婦でもありません。これ以上騒ぐとその口塞ぎますよ?」
イセラが笑顔のまま殺気混じりの覇気を放ち、卑猥な言葉を投げかけたり冷やかしをしていた男の冒険者たちは冷や汗をかきごくりと唾を飲む。
結局イセラの一言で場は静まり返った。
・・・イセラさん一体何者なんだろう。
そこからのギルド職員たちの動きは素早く、救出された女性たちはすぐにギルドの奥の部屋へ案内され消えていった。
救助隊の女冒険者達も別のカウンターに報酬をもらいに行き、自然に俺とエリスとイセラがその場に取り残されることになった。
「ではではおつかい士さん、私はお店に戻りますね!」
「えっ?でも報酬は?」
「私はお頭に頼まれて行っただけで、今回ギルドは関係ないから報酬はいりませんよ。」
「じゃ僕がもらう報酬を少しでももらって下さい。イセラさんが早く助けにいってくれたお陰でこうしてみんな無事に戻って来られたんですし。」
「それは隣にいるエリスさんに使ってあげて下さい。」
「えっ!?そんな!私は別になにも・・・!」
急に名指しをされ慌てるエリス。
「きっと、一緒にクエストをクリアしたのでギルドから報酬はもらえるはずです。だけれどおつかい士さんはエリスさんにピンチを助けてもらったんですよね?心から感謝してるなんて言ってたじゃないですか。」
――!!
オルニアへの帰路でクエストの一部始終をイセラに説明した際の話を持ち出すイセラ。エリスに感謝しているのは事実なのだが、こうして本人を目の前にして言われると恥ずかしさがこみあげてしまう。
「感謝しているなら、ギルドからの報酬だけじゃなくておつかい士さんがちゃんとお礼をしてあげたほうが女の子は喜びますよ?」
いやいや!そんな女の子扱いみたいなことを言われると余計に気まずくなる。エリスだって変に意識してしまうだろう。
「ナツヒ君からお礼かぁ。お礼されるような事なんて私はしていないけど、ナツヒ君が私の為になんかしてくれるならなんでも嬉しいよ!」
そうだった!エリスさん天然だった!天然というかどこまでも真っすぐで素直なお方だった。
でもそれなら話は早い。イセラの言葉に甘えてもらった報酬でエリスに晩御飯でもご馳走させてもらおう。
「でも感謝したいのは私の方だから私にも何かお礼させてね?」
空色の大きな瞳で真っすぐにこちらを見つめて微笑むエリス。
お礼?お礼ってなに?なにをしてくれるの?
エリスの天然で繰り出す小悪魔的な可愛さに、頭の中が一瞬でお花畑になる。
「うふふ。エリスさんは可愛らしい方ですね。これからもうちのおつかい士さんをよろしくお願いします。」
そう言い残してイセラは冒険者ギルドを後にした。
2人だけが取り残され、ほのかに気まずい空気が流れだしそうになる。
「それじゃ私たちも報告にいこっか!」
そんな俺の気持ちなどつゆ知らず屈託の無い笑顔と共に、カウンターの方へ歩き出すエリス。
制服に収まりきらず派手にはみ出し、歩くたびにぶりんぶりんと魅惑的な躍動感をみせつける桃の双丘に視線が吸い寄せられてしまうが、この世界には無い意志力パラメータをフルに振り絞って意識しないようにする。
エリスの横に並びカウンターでアリナにクエストの顛末を報告しようとすると、応接室へと案内された。
*
俺は隣にエリス、目の前にはアリナという贅沢極まりない空間にいる。
アリナは今日もしっかりと爆乳で、シャツのボタンが弾け飛びそうになっている。
スカートもかなりタイトなもので、目の前に座られるとスカートの奥の三角地帯に視線が引き寄せられてしまう。
エリスも隣にいるので、邪な気持ちを悟られないように努めながらクエストの報告を始める。
ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーというボスクラスの個体がいたという事や、シャーマンを取り込んだ杖の存在。
そしてそこで行われていた、口に出すのも憚れるような儀式めいた肉欲の宴。
途中エリスがぎゅっと唇をかみしめる仕草が視界の端に入ったり、アリナも表情をゆがめたりする場面もあったが、俺は正確な報告を心がけた。
そして最後に依頼の品であるブローチを手渡す。
「はい!確認しました。これで無事にクエストクリアだね。おめでとうナツヒ君!」
アリナから祝いの言葉をうけとる。
すると『クエスト、【小鬼たちのお宝】をクリアしました。』とガイア様の声が頭の中に響く。
同時に体の中から力が湧き上がる感覚。
「それとこれが報酬だよ。」
クエストクリアという事実とレベルアップの感覚に酔いしれていると、アリナが何かを差し出してくる。
「・・・え?これって?」
「うーん。これがこのクエストの報酬・・・。だからギルドとしても正式なクエストとしては扱えなくて、アイアンランク以上の冒険者達は誰も見向きもしなかったんだ。」
少し気まずそうに説明するアリナから手渡されたのは、一枚のチケット状の紙きれだった。
そこに書かれるのは、『ごほうびひきかえけん』とひらがなの拙い字で大きく書かれ、その下には『ほしいものをなんでもひとつだけとらせるぞ。しゃるる』と説明書きのようなものがあった。
しゃるるという謎の依頼人から受けたクエスト。
俺はレベルも上がり強くなれるからという事と、ギルドでアイアンランクとして認められる為のポイントを稼ぐ為にこのクエストを受けたが、人間欲深いもので苦労をするとそれなりの対価が欲しくなってしまうものだ。
このしゃるるという依頼人にはどうやったら会えるかとアリナに尋ねようとした時。
「えー!かわいいね!子供が書いたのかな?きっと無くしたブローチが戻ってきたら喜ぶだろうなー。頑張って戦って良かったねナツヒ君!ブローチはアリナさんが渡してくれるんですか?」
エリスの反応を見ると、自分の欲深さに恥ずかしさを覚えてしまう。しかし、結局俺が聞きたいこととほぼ同じことをエリスが聞いてくれる。
「うん。実は何度か依頼主の代理人が、ギルドにクエストを受けてくれた人間はいるか確認にきてるのと、もしもブローチが返ってきたら預かっておいて欲しいと言われているから、その代理人さんが来たら間違いなく渡しておくよ!それと、あなたたちがブローチを持ってきてくれたということも代理人には伝えておくわ。」
「わかりました。よろしくお願いします!そのご褒美券は私たちのクエストクリアの証だね!」
「あ、あぁ。そうだな。これを見るたびにエリスと一緒にクリアしたこのクエストの事を思い出すだろうな。」
どこまでも真っすぐなエリスの言葉に心が洗われそんな報酬があってもいいかもなという気分になるが、実際問題紙きれ1枚ではエリスに夕飯をご馳走するどころの話ではないとも思ってしまう。
「あ!そうそう。このクエストの報酬以外にも2人には別の報酬があるわ。」
「「えっ!?」」
同時に声を上げる俺とエリス。
現在別の作品を執筆中で更新が遅れていてすみません。
のんびりと更新は続けていきますのでお付き合い頂ければ幸いです。




